第7話公爵子息6
「キャロライン様が犯人である物的証拠がございません」
「証拠なんか幾らでも捏造できるだろう!」
「ブライアン様!それではブライアン様が犯罪者ではありませんか!」
「はぁ!?どうしてだ!」
「罪を捏造して冤罪を着せる事は重罪です!」
「な、何をゆるい事を言っているんだ!」
「そもそも、ナディア嬢も謹慎の身だったのですよ? にも拘らず、外出する方がどうかしております。これ以上騒ぎ立てれば王家の知る処になるでしょう。そうなれば、処罰されるのはナディア嬢の方です」
「~~~くぅ」
悔しい。
だが、執事の言う通りだ。ナディアの事だから何か理由があって外に出たんだろうが、王家がそれを許すとは到底思えない。難癖を付けて処罰される可能性があった。泣き寝入りするしかないのか……。
「ヘルゲンブルク公爵子息、何を言っているのか分かりませんが、誰かと間違っているのでは? 娘は公爵家からの婚約解消後、傷心旅行に出かけております。国にいない娘がどうして子爵令嬢を害することが出来ると言うのですか?」
「りょ……こう?」
「騒動が収まり、社交界が落ち着いた頃の戻ると本人は言っていましたよ」
ロードバルド侯爵から冷ややかに見られた。場所と立場故に怒りを押さえているのが分かった。瑕疵のない娘を傷付けた男に対する父親の憎悪を思い知らされた。
数日後、ナディアを攫おうとした犯人が捕まった。
相手は王都でも一、二を争う商会の跡取り息子。「王家御用達」の店の一つでもある。うちの家もそこの商品を愛用しているので跡取りの存在も知っていた。僕とも顔なじみだ。確か3歳ほど年長だった。明るくユーモアに溢れた好青年だ。何故彼が?と疑問にしか思わなかった。警察も初犯で
「彼を罪に問うと仰るなら、我々はナディア・ラード子爵令嬢を
「ナディアは被害者なんだぞ!一体何の詐欺だって言うんだ!」
「
「はっ!?」
「それに加えて犯罪教唆の疑いもあります」
「ふざけるな!ナディアほど美しく賢く清純な女性はいない!」
「見た目と羽振りの良い男には目がない阿婆擦れの間違いでは?」
「き、貴様~~っ!!」
「ナディア・ラード子爵令嬢に貢いで身を持ち崩した男は数多います。中には将来を嘱望されていた文官や騎士候補も……詳細に調べれば被害者はもっと出てきそうですがね」
その後、警察からナディアの犯行だと言わんばかりの説明を受けた。
警察の言う事を真に受ける程、僕はバカではない。
公爵家の力を使ってナディアの無実を証明してやる!
そう意気込んで調べた結果は散々ものだった。
ナディアに貢いで手酷く振られた男は数多いた。
その中には名前を知っている人物もいた。
皆がナディアと「将来を語り合った恋人」だと言うのだ。
ただ、「将来を誓い合った恋人」ではないし、婚約の約束すらしていない。それ故に「結婚詐欺」として立件が難しく多くは泣き寝入りしていた。
とんでもない事実が次々と明らかになっていく。
自分の知らないナディアがそこに居た。
ナディアの「恋人」はどれも
しかも、婚約者がいた者も……。
そう、僕と同じように婚約を解消している。
僕との違いは「婚約解消後」の行動だ。
彼らはいずれも「王都の一等地に店を構える豪商の跡取り息子」「国内屈指の名門貴族の跡継ぎ」「高位貴族の三男坊」といった肩書を持っていた。そのせいか誰も「婚約解消後」の行動について突っ込まなかったらしい。そして誰もが口を揃えて言ったそうだ。
「あの女狐は許せない!」と。
特に豪商の跡取り息子の言葉は説得力がありすぎた。警察も彼には同情的だ。
「ナディア嬢には婚約者のいる相手でも見境なく誘惑する節操のない淫乱女の疑惑がかけられています。彼女の『浮気』の被害に遭った女性の証言もあるので間違いありません」
虚言に聞こえる。
そんな僕に対して警察は冷たかった。
「ヘルバルド公爵子息には申し訳ないのですが、これ以上、ナディア・ラード子爵令嬢に関わらない方が良いでしょう」
数日後、ナディアは戒律の厳しい修道院に入った。
被害者達が今回の件でナディアを訴えたのが理由だった。一人一人だと微々たるものだ。けれど集団なら大きな力になる。彼らは「被害者の会」を立ち上げてラード子爵家そのものを訴えた。警察は被害者達の供述を元に調査を進めているようだ。ラード子爵家は証言を取られないようにナディアを早々に修道院に送り込んだのではないかと噂になっている。
こうして僕は一方的にナディアを失った。
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