第45話 アイギス兄妹の襲撃

 インポティをロリ化させた理由は大きく2つある。

 1つ目は、単純に今の姿のままで幼児退行しているのは見ていてかなり痛々しいから……というもの。

 そして2つ目は、女神インポティの名を騙った罪人とされてしまった彼女を牢屋から連れ出す為である。


「おいたん。ぎゅーっとしてー」


「はいはい。ほら、これでいいか?」


 外見年齢が7歳くらいになったインポティが甘えてくるので、俺は彼女を抱き上げる。

 ピィとルディスが嫉妬攻撃を飛ばして来ないのは、恐らくインポティの見た目が想像以上に幼いからであろう。


「きゃっきゃ♪(くっ……! ここは我慢です。この男を油断させ、信頼を得る為にも)」


「マジで子供って感じだな」


「ふふっ、可愛いですね」


「妹というより、アタシ達に子供が出来たって感じね」


「早速、妾にも下の子が出来たっすー!」


 長女ピィ。次女ルディス。三女メルーニャ。それと新入りのインポティ。

 俺を取り囲む美少女ロリ達も、今やこれだけの人数となりました。


「リュート。本当にインポティ様はお前が引き取るのか? なんなら、この城で引き取って育ててもいいんだぞ?」


「俺の力でロリ化させたし、そもそも幼児退行するきっかけも俺だからな。ちゃんと責任を取らないとさ」


「そうか……しかし、呼び方は気を付けた方がいいぞ。インポティという名前で呼べば、要らぬ騒動を引き起こしかねん」


 言われてみれば、それもそうだな。

 神様にそっくりな見た目(ロリ化してはいるが)で、インポティという名前で呼ぶのは周囲の者から怪しまれる可能性が高い。


「また名付けタイムですか?」


「女神の名前を変えるなんて恐れ多いし、あだ名で呼ぶようにすれば?」


「それなら、インポティを略してインポちゃんとか……」


「メルーニャ」


「にゃー!? 冗談っすよー!?」


 カルチュアが耳を引っ張ると、メルーニャは涙目で暴れる。

 この2人は相変わらずだ。


「(この下等生物ども……! 高貴なる私に、ふざけた名前を付けたら承知しませんよ!)」


「インポティは、何か呼ばれたい名前があるか?」


「んゅ~? わかんなぁーい(美しい名前を決めなさい!!)」


「そんじゃまぁ、インでいいか」


「「「意義なーし」」」


「ファッ!?(ハァ!? そんなあっさり決めるとか! 何を考えているんですか!?)」


「まぁ、インポティ様はマスターの家族じゃありませんから」


「命名して貰えるのはお嫁さんだけよ」


「お兄さん、だぁいすきっすー♡」


「こらこら、くっつくな」


「(何をイチャコラしてんだぁぁぁぁぁぁ!? この私の名前を、省略して呼ぶなんて許されると思っているのですかぁぁぁぁぁっ!?)」


「ん? イン、何か気に入らかったか?」


「う、ううん。かわいいなまえ、ありがとぉ」


 今一瞬、インがすげぇ顔をしていたように見えたが。

 まぁ、そんなわけないよな。


「イン、ピーナッツ好きー」


 ほら、こんなにも無邪気な天使だ。

 後でたっぷりとピーナッツを買ってあげよう。


「それじゃあ、こんな地下牢はもう出よう。カルチュア、手続きはよろしく頼む」


「ああ、例の偽物は我が処刑したという事にしておく」


 インの回収も済んで、やり残した事もない。

 これで本当に、この国ともお別れだな。


「インちゃん。お姉ちゃんと手を繋ぎましょうね」


「わーい! ありがとぉ、ピィおねえたん!(こんなクソガキに、子ども扱いされるなんて……屈辱です)」


「あら、ピィよりアタシの方がいいわよね?」


「ルディスおねえたんもぎゅーっ!(斧如きが調子に乗って……!)」


「妾にもくっついて欲しいっすよー!」


「みんなでぎゅーするのぉー(ああああああうざいうざいうざいうざいうざい)」


 4人の超絶美少女ロリがくっついてきゃっきゃうふふ。

 ああ、なんて素晴らしい光景なのだろうか。



【レストーヌ城 中庭】


 新たにロリ化したインポティことインを引き連れて、地下牢を後にした俺達。

 そして中庭に出たところで……その事件は起きた。


「ぐああああああああああっ!!」


「「「「「「!!」」」」」」


 ドォンッという爆音と共に、野太い悲鳴が聞こえてくる。

 たしかこの声は、確かこの城の近衛騎士隊長のオズボーンさんだ。


「うっ、くぅ……む、無念だ」


 視線を音のした方向に向けると、中庭の中心辺りに3人の人影が見える。

 ボロボロの状態で片膝を付いているのがオズボーンさんで、その正面に立っているのが……見覚えのない男女。


「たったレベル54の分際で、アタイらに喧嘩売るとか正気かよ」


「あぁぁぁ……なんて事を。近衛騎士隊長を傷付けたりしたら、きっとカルチュア様が怒るに違いないよぉ」


「だぁーかぁーらぁーっ!! あんな女を様付けすんじゃねぇよクソ兄貴!!」


 身の丈を超えるほどの巨大なライフを肩に乗せ、怒鳴っているのは修道服を着た少女。

 オレンジ色のショートヘアで、顔立ちは可愛い系。

 しかし右目に付けたドクロ模様の眼帯と、話す度にキラリと光るギザギザの歯のせいで清廉なシスターという風には見えない。

 修道服もスカートの丈が短いし、スリットも入っている。

 ニーハイのロングブーツも、どこかのパンクバンドを彷彿とさせるデザインだし。


「ご、ごめんっ! でも……!」


 そして、そんな彼女に兄貴と呼ばれているのは神父の格好をした少年。

 シスター姿の少女に瓜二つの顔立ちをしているので、おそらくは双子なのだろう。

 粗暴な言動の妹とは違い、かなり気弱そうな性格に見える。


「アレは……アイギス兄妹か……!」


「知っているんですか、カルチュアさん!」


「知っているも何も、連中は……我と同じ【八神使】だ」


 そう言われて、俺は注意深くアイギス兄妹の方を見る。

 その頭上にはそれぞれお揃いの【レベル81】という表示がされていた。


「しかし【八神使】とはいっても、あの2人の場合は特殊でな。本来は1人で1枠となる【八神使】に、あの兄妹は2人で在籍している」


 説明を続けながら、カルチュアはアイギス兄妹達の方へと近付いていく。

 すると真っ先に、妹の方が彼女の接近に気が付いた。


「お? 久しぶりじゃねぇかカルチュア! 相変わらず、憎たらしいほどに小綺麗な顔しやがんな!!」


「アスカ、これはなんのつもりだ? 我の城に無断で攻め込み、兵士を傷付けるとは……レストーヌに戦争でも仕掛けに来たのか?」


「かぁーっ! 相変わらず、冗談の通じねぇ女だな! だからいつまで経っても、男が出来ねぇんだよ!」


「あ、アスカだって……今までに男が出来た事は無いと思うけど。前に寝言で、キスしてみたいってボヤいていたし……」


「うるせぇよクソ兄貴!! ケツの穴増やされたく無かったら黙ってろ!!」


「あひぃぃぃっ!?」


 バンバンバン!!

 ライフルを兄の足元に向けてぶっ放すアスカ。 

 そんな彼女を放置して、カルチュアはオズボーンさんへと声を掛ける。


「大丈夫か?」


「カルチュア様……申し訳、ございません」


「もう喋るな、オズボーン。ここは我らに任せ、医務室へ急げ」


「しかし……」


「我とリュートがいれば問題ない。逆に負傷者がいては足手まといだ」


「……了解致しました」


 体を引きずるようにして、歩いて行くオズボーンさん。


「ピィ、メルーニャ。インを連れて、オズボーンさんに手を貸してやってくれ」


「任せるっすよー!! オズボーンさん、妾に掴まるっす!」


「かしこまりました。マスター、お気をつけて」


「インもいっしょにいくの?」


「そうですよ。ここにいては危ないですからね」


「うー……わかった(チッ、ここからが面白くなりそうなんですけどね)」


 負傷したオズボーンさんのケアにメルーニャを。

 戦闘にインを巻き込まないようにピィに指示を出す。


「行くわよ、担い手!」


「おう、頼むぞルディス」


 そしてルディスはアックス状態へと変化し、俺の手の中に収まる。

 これでいつでも、戦闘が開始しても問題は無い。


「お? なんだぁ? 乳のデケェ小娘が斧になりやがった」


「斧使い……レベル0? ねぇ、アスカ! カルチュア様の後ろにいるのが、例の……」


「だろうな。へへっ、こんなにも早く出会えるなんてなぁ」


 俺の方を見て、ヒソヒソと話し合うアイギス兄妹。

 【吸精の魔女】を倒した俺の事は把握しているらしい。


「アスカはともかく……レイ、貴様までどういうつもりだ?」


「は、はいっ!」


「妹とは違い、貴様には常識があると思っていたというのに。まさか、こんな馬鹿な真似に加担するとは……失望したぞ」


「ごごごご、ごめんなさぁぁぁぁいっ! 僕は反対したんですけど、アスカが……アスカがどうしてもやれって言うんですぅぅぅぅっ!」


「おいゴルァッ!! 何を裏切ってんだ!? テメェはもう共犯者なんだよ!! どっしりと構えてりゃいいんだよ!!」


「……仲の悪い兄妹だな」


「油断するなよ、リュート。こんな奴らだが、そのコンビネーションは抜群だ。我がバハムートを用いたとしても、1人で2人同時に相手をするのは厳しい」


 すっかり呆れていた俺だが、カルチュアの言葉で気を引き締め直す。

 この世界でもトップクラスの人物であるのは間違いないわけだからな。

 

「そろそろ質問に答えろ。この城に何の用だ? 返答次第では容赦せんぞ」


「はんっ、用事なんか決まってんだろ? テメェがそこの男を新しい【八神使】に推薦する前に、頭数を減らそうって寸法よ!!」


「は? 我はそんなつもりなど無い。この男は純粋に我に対する深い愛情から、我の代理で魔女を討伐してくれただけだ」


 いやいやいや。深い愛情って、何の話ですか?


「あ、そうなんですね。良かったね、アスカ。これで僕達の地位も安泰だよ」


「なぁにを言いくるめられてんだ!? こんなの嘘に決まってんだろ!! 馬鹿が!!」


 レイの方は納得した様子だが、アスカの方は頑なに認めようとしない。

 それどころか、怒りの表情で銃口をこちらへと向けてくる。


「カルチュア、アタイらは絶対に……この地位を譲らねぇからな」


「……やれやれ、話し合いは無駄そうだな。ならば仕方あるまい」


 カルチュアはため息混じりに肩を落とすと、そのまま俺の背後へと回る。


「リュート、済まないが延長戦だ。最後にその2人を懲らしめてやってくれ」


「おう、任せておけ」


 ブンブンブン。

 ルディスを振り回して、俺は戦闘態勢を取った。

 正直に言うと、ちょっとだけワクワクしている自分がいる。

 双子の【八神使】……一体どれほどの強さなのだろうか。


「おっさん、アタイらに目を付けられたのが運の尽きだったな。悪いけどその生命……天に返させて貰うぜ」


「あ、貴方の罪を数えなさい……! 僕達が裁きますぅ……」


 巨大なライフルを構えるアスカ。

 首に下げていた十字架を握りしめるレイ。


『担い手、アイツらに教えてあげましょ。アタシ達は1人じゃないって』


「ああ。こっちのコンビネーションの方が最強だって、証明してやるぞ」


 こうして俺とルディスは、アイギス兄妹と戦う事となった。

 実力が未知数の相手……果たして勝算はあるのだろうか。





【次回予告】

・初めての恋 ~撃ち抜かれたのは彼女の心でした~


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