第44話 純粋無垢なロリ女神(当社比)

「……異世界転生、か。どうりであれほどまでに強いわけだ」


 しばらく滞在した草原の砦から、レストーヌ城へと向かう道中。

 俺はカルチュアに、これまでの経緯を全て話した。


「カルチュアさん、信じてくれるんですか?」


「信じるも何も、実際にあれだけの強さを見ているからな。レベル0の理由も、これで納得がいった」


 元の世界で貯めたポイントのこと。

 そのポイントを使って強さを得たこと。

 それらを聞いても、カルチュアは俺を責めようとはしない。


「でも、俺は反則みたいな形でお前に勝ったんだぞ」


「反則?」


「斧の腕前も腕力も、何もかも。なんの努力せずに手に入れたものだ」


「そんな事は無い。そのポイントカードとやらにポイントをコツコツ貯め続けた事こそが、貴様の積み重ねてきた努力なのだろう?」


「そうですよマスター!」


「ま、それだけが取り柄だったわけだし」


「どういう形であれ、お兄さんがこっちの世界に来てくれて嬉しいっす」


 ディープに乗って駆けるカルチュアと、その後ろに跨るメルーニャ。

 こちらはクインの上に、俺とピィとルディスが乗っている。


「しかし、リュートの話はともかく。インポティ様については、ショックが大きいな」


「あー……すまん。もうちょい、オブラートに包むべきだったか」


 俺からインポティの言動を聞いたカルチュアは、酷く落胆していた。

 そりゃあ、今まで崇拝していた女神様が……人間を見下している、天界の底辺配信者だったと知ればなぁ。


「……リュートの近くにいると、天上の神々に見られているということになるのか」


「らしいな。とは言っても、俺はもうほぼ気にしていないけど」


「お前らしいな。しかし、我はそういうわけにはいかん。仮にも、女神様からの祝福を与えられている立場だ」


 そう言うと、カルチュアはキリッとした顔で空を見上げた。

 そしておそらくは、この配信を見ているであろう神々に向かって話しかける。


「……我は毎朝、毎晩。この世に生を受けた事を、皆様に深く感謝しております」


「にゃー。カルチュアは本当に昔から、神様大好きっ子っすよ」


「ですから、お願いします。どうか、どうか我も攻略対象に……! 皆様のひと押しで、我もリュートと(ピィーッ)で(ピィ―ッ)な(ピィーッ)を(ピィーッ)したいのです。ですからどうか、お願いしますお願いしますお願いします……!」


「いやいやいや、必死過ぎて怖いんだが!?」


「わー……ドン引きですよー」


「これだからおばさんは駄目ね。アタシ達みたいなロリじゃないから」


「我はおばさんではない!! まだぴちぴちの20歳だ!!」


「妾も元は数千歳と20歳っすけどね。今では外見年齢10歳くらいっすよ~」


「くっ!? ズルいぞメルーニャ!! 我もリュートにロリ化して貰えば!!」


「んー……どうかなぁ。神様達も、そんな展開を望んでいるかどうか」


 神々のみなさん。

 こんなにも完璧な美女に成長した金髪姫騎士をロリ化させてよいものでしょうか?

 金髪ロリ姫騎士にしちゃっていいのでしょうか?

 ご意見ご連絡、お待ちしております。


【数時間後 レストーヌ城】


「よし、やっと城に到着したな。クイン、お疲れ様」


「ひひーん」


 レストーヌ城の正門前まで到着した俺達はクインから降りる。

 そして優しく鼻の辺りを撫でていると、城の中から兵士達が出てきた。


「カルチュア王女!! そして英雄リュート様!! お二人のご帰還をお待ちしておりました!!」


「英雄?」


「今朝も言っただろう? 貴様の活躍はすでに、国内中で持ちきりなんだ」


 それは嬉しいが、英雄呼びされるとなると少し気恥ずかしいな。


「お連れの皆様も、よくぞお戻りに」


「お連れ? チッチッチッ、違いますよ」


「アタシ達は担い手のお・よ・め・さ・んなの! 覚えておいて!」


「え? お嫁さん……?」


 ピィ達の訴えを聞いて、兵士達はギョッとした様子で俺の顔を見る。

 その目には「うわ、コイツまじかよ。ロリコンじゃねぇか」という心の声がアリアリと浮かんでいるようだった。


「あー……うん。とりあえず、クインを馬房に連れて行ってくれ」


「はい……かしこまりました」


 さっきまでの尊敬に満ちた視線から一転し、どことなく気まずそうな顔。

 しかし、こんな事を気にするつもりはない。

 ロリコンと呼ばれようが、なんと言われようが。

 俺がピィとルディスを愛している事は事実なのだから。


「「ふふーん♡」」


 俺の右腕と左腕に、それぞれしがみつく2人。

 これはもう、すっかり定位置となっているのだが……


「むぅ、妾だって!」


 あぶれてしまったメルーニャが俺の背後に回り込んで、腰にしがみついてくる。

 そして残るカルチュアもまた、俺の前で両手を広げだした。


「さぁ、最後は我だ!!」


「城で王女様にそんな事をしたら、やベーことになるって」


「知るか!! 我はお前に抱かれたいのだ!!」


「抱きつこうにも、両手が塞がっているからさ」


「「がるるるるるるっ!!」」


「ほら、2人も離れるつもりは無さそうだし」


「おのれぇ、このロリども……! しかし、美しいので許そう!」


 そういえば最近すっかり忘れがちだったが、カルチュアって美しいものを好む性格なんだっけか。


「っと、こんな話をしている場合ではない。おい、そこの衛兵! 以前、捕らえたインポティ様の偽物はどこにいる?」


「ハッ! あの女なら、地下牢に閉じ込めたままであります!!」


「そ、そうか。それで……様子はどうだ?」


「それがですね。少々、困った事になっていまして」


「「「「「え?」」」」」


 衛兵は額に汗を浮かべ、眉間にシワを寄せる。

 一体、インポティに何があったというのだろうか……


【レストーヌ城 地下牢】


 カルチュアに案内されて、城の地下牢へと足を踏み入れる。

 暗く、ジメジメとして……カビ臭い空間。

 その最奥の牢に、彼女はいた。


「……すぅ、すぅ」


 鉄格子の中で、身を縮めるようにして丸く寝転がっている美女。

 人間離れした美貌、豊満な体。

 その性格を除けば、まさしく女神と呼ぶに相応しい存在だ。


「寝ている、みたいですね」


「パッと見た感じは変わらないけど」


 ピィとルディスが牢に近付いて、インポティの様子を見る。

 あの衛兵が言っていた【困った事】というのが、本当なのか確かめようとしているのだろう。


「んぅ……?」


 すると、俺達の気配に気付いたのか。

 インポティはパチッと目を開いてから、ゆっくりと上体を起こす。


「んゅ……?」


 きょろきょろきょろ。

 右や左を見て、それから正面の俺達に視線を向ける。

 それから、きょとんと首を傾げると……


「お姉ちゃん達、だれぇ?」


「「「「「!!!!!」」」」」


「ねぇねぇ、遊んで遊んで! 暇なの! 暇なの!」


 それから鉄格子を掴んで揺らしながら、駄々っ子のように懇願してくる。

 どこからどう見ても、その振る舞いは幼い子供のようにしか見えない。


「うっ……我は、なんて事をしてしまったんだ」


 口に手を当てて、吐き気を堪えている様子のカルチュア。

 そりゃあ、敬愛する神様を幼児退行させてしまったわけだから……ショックだよね。


「カルチュア、しっかりするっすよ。お主のせいじゃないっす!」


「す、すまない……うぉえっ」


「マスター、どうしましょうか? 治療スキルを会得して……」


「無理でしょ。アタシ達や自分自身がそうなったならともかく、担い手がインポティを救うのはポイントカードの規約に反するわ」


「うーん。だろうな」


 正直言って、インポティを救うのは俺のメリットとはならない。

 あくまでもポイントカードの利用は、本人か家族の為じゃないと。


「あーそーんーでーよー!! 遊んでくれなきゃやだやだやだぁ!」


「……かといって、このまま放置するのも寝覚めが悪い」


 と、ここで俺はふと気付く。

 スキルは駄目でも、アレならば利用出来るんじゃないかと。


「そうだ。こっちを試してみよう」


 俺がそう言った瞬間、右手の人差し指に嵌められている指輪が光を放つ。

 そして手の上で銀色のタブレットへと形を変えていく。


「にゃっ!? なんすかそれ!?」


「面妖な機械のようだが……」


「これは……そうだな。女神が世界を改変する時に使う道具だよ」


「「ほぁっ!?」」


「そんじゃ、これで……」


 俺は驚愕するメルーニャ達を横目に、タブレットを操作して内容を入力する。


「えーっと。女神インポティの精神状態を元に戻す……っと」


 入力を終えると、画面には顔認証の表示が出てくる。

 俺はタブレットをインポティの方へと向けた。


「ほら、顔をこっち向けてごらん」


「……なぁに、これ? おもちゃ?」


 幼児退行したインポティが、タブレットのカメラを覗き込む。

 これで認証が完了する……かと思われたのだが。


『ブーッ!』


「んんっ!?」


 タブレットからエラー音が鳴り響き、認証に失敗したという表示が出てくる。


「あれ? なんでだ?」


 もう一度、俺はカメラをインポティの顔に向ける。

 しかし結果は同じで、再びエラー音が鳴り響くだけだった。


「むぅー! これつまんなぁーい!! 違う遊びにして!!」


「……ピィ、分かるか?」


「うーん、私にも分かりません。でも、今のインポティ様は精神状態がおかしいので、もしかするとそれが原因なのかもしれません」


「あー……」


「タブレットのロック機能なんじゃない? ほら、本人の思考が正常じゃない時に妙な操作をしないように設定してあったとか」


「なるほど。女神のタブレットともなれば、そういう可能性はあるか」


 酔った勢いや寝ぼけた状態で変な操作してしまうと、せっかく盛り上がってきた異世界配信(インポティが神の世界で行っていた)が台無しになる可能性がある。

 だから、自分の精神値が正常時のみ認証成功するようにしてあったのかも。


「はぁ……面倒なロックをしやがって」


「む、難しい話でよく分からないのだが……インポティ様を元に戻せないという事か?」


「にゃー、いくら美人でも。このままだと可哀想っすよ」


 たしかに、この色気と美貌のまま幼児化しているというのは具合が悪い。

 見ている側もキツいが、本人としてもいずれ黒歴史になりかねん。


「こうなったら、奥の手しかない」


「マスター、どうするつもりなんですか?」


「インポティを……ロリ化させる」


「はぇ!?」


「な、なんですってぇ!?」


「そうすれば、見た目と言動がマッチするようになるし」


 俺はそう答えると、鉄格子越しにインポティの頭に触れる。


「あはっ♪ 頭ナデナデしてぇ~♡」


「……」


 前のコイツなら、「汚い手で触れないでください、下等な人間が」とか言うんだろうなぁ……と思いつつ。

 俺は『強制ロリ化』のスキルを発動させる。


「ほら、生まれ変わっちまえ」


「ほぁ~?」


 ピカーン。

 眩い輝きを放つインポティ。

 そしてその豊満な体は、みるみるうちに小さくなっていき……


「……????」



 なんということでしょう。

 まさしく天使のような、純粋無垢なロリがそこにいます。


「かわっ……」


 思わず、そう呟いてしまうほどの可愛さ。


「ひゃあ……」


「これは、中々にクるものがあるわね」


「うにゃっ!? ペロペロしたいっす!」


「ふつくしい……おお、女神様」


 この場の全員が目を奪われるほどの、圧倒的な美ロリ。

 自分でしておいてなんだが、これはとんでもない事をやらかしかもしれん。


「ちっちゃく、なっちゃった」


 ぺたぺたぺた。

 自分の胸を触りながら、不思議そうにしているロリポティ。

 そんな仕草も可愛いなぁと、俺達は癒やされていたのだが。




 この時、俺達はとんでもない勘違いをしていた。




 ロリ化して体は若返った。

 しかし、その反動……いや、代償として。



「(……ふ、ふふふふっ! あはははっ! 貴方のおかげで意識が元に戻りましたよ!)」


 天使のような外見の裏に、蘇った邪悪なる女神の意識。


「(どうやら貴方達は未だに、私が幼児退行していると思いこんでいるようですね。しかしそれは私にとって好都合です)」


 インポティは何も気付かない俺達を見つめ、心の中で笑う。


「(このまま油断させて、いつか……私のタブレットを奪い返して見せますよ。あはははははははははははっ!!)」


 新たに加わったロリ。

 それは天使の皮を被った悪魔のような女神である。

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