第36話 カタストロフィⅠ(VS吸精の魔女)初戦

 黒い繭から姿から生まれ落ちた魔女。

 その容姿は依代となったメルディとほとんど変わらない。

 異なるのは、茶色だった髪が紫色となり、白い肌がダークエルフのように褐色の肌色へと変わったところ。

 そして何より……その身に纏う雰囲気が決定的に異なっていた。


「お主は邪魔だ。この世から消え失せるがいい」


 ニヤリと歪な笑みを浮かべた魔女は、右手を俺の方へと向ける。

 声も同じ。しかし、口調と声色はもはや別人。

 なんていうかな。アニメとか見ていると、たまに「えー? この声優さん、こんな演技も出来たんだー」って驚く感覚に似ている。


「お?」


 血飛沫が舞う。

 俺が放った斬撃が、魔女が差し出した腕を切り落としたのだ。


「ほう? かつての仲間の体だというのに、ノータイムで腕を取るとは」


「……」


「しかし甘い。どうせやるなら、ココを落とさないと意味が無いぞ?」


 残った左手で自分の首をトントンと叩く魔女。

 痛みを感じていないのか。少しも動じる様子を見せない。


「首を落とさなかったのは、テメェに聞きたい事があるからだ」


「そうか。妾に答えられる事であれば、なんでも答えてやろう」


「……今日はまだ満月じゃない。それなのに、どうしてメルディの体を奪えたんだ?」


 もしも、復活が完全でないのなら。

 この魔女をメルディの体から引き剥がす事も可能かもしれない。

 そんな一縷の望みを賭けて訊ねるが……


「どうして、だと? そんな事は決まっている。依代に紋章を刻んだ時点で、いつでもその体を奪い取れるからだ」


「なん……だと……?」


「そ、そんなのおかしいです!! だったらなぜ、わざわざ一週間もの猶予を与えるんですか!?」


 後方に下がっていたピィも、思わず叫ばずにはいられなかったようだ。

 たしかに、この魔女の行動には不可解な点が多い。


「知れたことを。その方が面白いからに決まっているではないか」


「……は?」


「一週間、依代の体に入り込んで見る景色。親しい友人や愛しい家族に対して、依代が抱く感情が手に取るように分かる」


 頬を朱に染めて、身を震わせながら魔女は語る。


「そして満月の晩。妾は依代の大切な存在の精気を喰らい、その生命を全て奪う。ああ、これほどまでに甘美なひとときが他にあるか?」


「……狂ってやがる」


「ふふっ……褒め言葉だ。二百年前、あの男もそう言っていた」


 二百年前。

 それって、妹を依代にされた【八神使】の話か……?


「完全復活を阻止されるのは口惜しいが、あの時ばかりは胸がスッとした。最愛の妹を自らの手に掛けた男の……絶望に染まった顔!! 今思い出しても、濡れてしまうわ!」


「っ!! もう、それ以上喋らなくていい」


 これ以上、メルディの顔で、声で。

 彼女の存在を貶めるような真似はさせない。


『担い手、アタシ……マジでブチギレそうよ』


「ああ、俺だってそうさ」


 血が滲むほどに、俺は強くルディスを握りしめる。

 この魔女はここで確実に仕留めなくてはならない。

 

「やる気十分だな。では、こちらも気を引き締めねば」


 魔女が左手の指をクイッと動かすと、地面に落ちていた右腕が浮かび上がり……切断面にピッタリとくっつくようにして戻っていく。


「楽しませておくれ」


「っらぁ!!」


 最短最速一直線。

 ルディスを振りかぶり、俺は魔女へと突進する。


「アイスバーン」


「!!」


 ズンッ。

 魔女が右足で地面を蹴った瞬間、彼女を中心に地面が瞬く間に凍り付いていく。


「ちぃっ!?」


 高速移動していた反動もあり、俺の足は氷に足を取られてスリップ。

 ツルンッと転倒しそうになるが、ルディスを氷に叩きつけた衝撃で動きを止める。


「ロックシェル」


 ボゴーン。ボゴーン。ボゴーン。

 氷を砕いたと思ったのも束の間、今度は鋭い石柱が下から突き出して来る。


「うぅぅぅらぁっ!」


 ルディスを両手で思いっきり振り回し、それらを全てぶち壊す。


「ブレイジングアロー」


 砕け散っていく石柱。

 その破片の間を縫うようにして、魔女の右手から放たれた炎の矢が俺を襲う。


「くっ!?」


 咄嗟に防御態勢を取るも、防ぎそこねた炎の矢が俺の右肩に突き刺さる。


「ぐあっ!?」


 痛い。こんなにも激しい痛みを感じるのはいつ以来か。

 って、マジでいででででででっ!?


「ぐぁぁぁぁぁっ!? なんでだ……!? ちくしょうっ!!」


『担い手!? しっかりしなさい!!』


「くぅっ、ぅう……!?」


「マスター!! 魔女の攻撃は魔法です!! 現在のマスターのステータスでは、ダメージを完全には防げません!!」


「魔法……ああ、そういう事か」


 俺のステータスで上げているのは【防御】であるが、それは物理ダメージに限る。

 魔法によるダメージは軽減出来ないってわけか。


「何を言っているのかは分からぬが、お喋りをしている暇があるのか?」


「!!」


「今までの攻撃は全てウォーミングアップ。ここからが本番だぞ?」


 言うが早いか、魔女の右手から膨大な魔力が立ち上る。


「ホワイトフレア・バード」


 オーラは燃え盛る白い炎となり、その形はフェニックスのように変わる。


「可愛い妾の子よ。あの者は焼き尽くせ」


 放たれる白炎鳥。

 俺はルディスを高速回転させて盾にしようとするが……


「我が獣属魔法は、そんなものでは敗れぬ」


「なっ!?」


 ルディスに遮られる直前で、白炎鳥は動きを変える。

 器用にルディスを回避するように回り込み、俺の体に体当たりしてきた。


「イワァァァァァァァァァァァァァクッ!!」


「ハハハハハッ!! もっと燃えるがいい!!」


 熱い。熱い熱い熱い。

 意識が飛びそうなほどの激痛。

 そんな俺を現実に繋ぎ止めてくれたのは……ピィの声。


「マスター!!」


 その瞬間。俺を包み込んで揺らめいていた炎が動きを止める。

 そして世界は一気にモノクロへと変わっていった。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」


「大丈夫ですか!?」


「あ、ああ。助かった……さっきの痛みでパニクって、メニューを開けば良いって事さえ忘れていたよ」


「……いえ、私こそ対応が遅れて申し訳ありません」


 危なかった。もしもピィがメニュー画面を開いてくれなければ、俺は今頃為す術もなく焼き尽くされていたかもしれない。


「魔法攻撃への耐性を付けるには恐らく【魔力】を上げるしかありません」


「それなら、ステータスを振るしかないな。でも……」


「マスター?」


「いや、なんでもない。ひとまず、魔力に2000振っておいてくれ」


「了解しました。ステータスポイントの申請を承認します」


 光り輝く俺の体。これでもう、魔法攻撃も怖くない。


「あ、あの。マスター……本当に、魔女を倒しちゃうんですか?」


「……俺だって、メルディを救いたい。でも、そういうスキルを思いつこうとするとなぜかエラーが出てしまうんだ」


「エラーが? どうしてそんな……」


「分からない。でも、救える方法が無いなら……俺はメルディとの約束を果たすだけだ」


「そうです、よね」


 ピィは納得したのか、そのまま引き下がっていく。

 それと同時に、世界に色が戻る。


「……」


 メラメラと燃える白炎。

 さっきまではあんなに熱と痛みを感じて苦しかったのに。

 今ではもう、何も感じない。


「どうした? もう声も出せないか? そのまま燃え尽きて……」


「ふん」


 腕を振るう。

 それだけで、俺の全身を覆い尽くしていた炎が消し飛ぶ。


「……は?」


 その光景に驚き、目を点にしている魔女。

 そりゃ当然だろう。さっきまであんなに効果抜群だった魔法攻撃が、ほんの一瞬で微塵も効かなくなったのだから。


「お主、何をした……? いや、待て……? なんだ? お主の体から感じる、この異常なまでの魔力は……!?」


 たじろぐ魔女。

 どうやら、俺の手にした魔力にも気付いたらしい。


「う、うぉぁぁぁっ!! ライトニングタイガー!!」


 左手から放たれるのは、赤雷によって形作られた虎。

 鋭い牙と爪で襲いかかってきたが……俺はそれを、まるでハエを払うような仕草で弾き飛ばす。


「シャークトルネード!! フローズンベア!! プラントスネーク!!」


 次々と獣属魔法とやらを乱発してくる魔女。

 しかし俺はもう、避ける事さえしない。


「もう効かねぇよ」


 炸裂しては霧散していく魔法。

 しかし俺には傷一つ付かない。


「こんな、馬鹿な……!?」


「……ふぅ」


 グルグル……ズゥン。

 軽く振り回したルディスを地面に突き立てて、俺は魔女を見据える。


「気は済んだか?」


「う、ぁ……ぁぁ……」


 まるで蛇に睨まれた蛙状態の魔女。

 俺はゆっくりとルディスを引き抜き、構える。


「じゃあ、終わりだ」


「ありえぬ……この妾を上回る魔力など、そんなはずは……」


「はぁぁぁぁぁっ!!」


 そのまま攻撃に転じようとした瞬間。

 追い詰められた魔女は――


「ク、クハハハッ……ならば、こういう手段を取るとしよう」


「!」


 ガクンッと糸の切れた人形のように、魔女が崩れ落ちる。

 そしてすぐに、ハッと顔を上げて……


「あ、れ? なんで……ボクにゃん、消えたはずじゃ?」


「っ!?」


「お兄さん……?」


 俺のよく知る彼女の顔と声で、揺さぶりを掛けてくるのであった。


<安藤流斗(レベル0)>>

【体力】3001 【力】 1001 

【技】 1001 【速度】1001 

【防御】3001 【魔力】2001

【幸運】1001 【魅力】3001


【武器適正】

・斧 1001(SSSランク)

・剣&槍&弓&杖 各1(Gランク)


【所持スキル】

『カード擬人化(20000P)』

・ポイントカードに肉体を与える事が出来る)

『アックス擬人化(0P)』

(斧に肉体を与える事が出来る)

『状態異常耐性レベル5(5000P)』

(ありとあらゆる状態異常を完全に無効にする)

『メスガキ理解らせ(消費P1000)』

(生意気なメスガキを理解らせる)

『騎乗スキル・極』(消費10000) ←NEW!!

(ありとあらゆる生物を一流に乗りこなす)


【残ステータス・スキルポイント】

・47999(神丸ポイント)

・1200(登録者)+400×10(評価点)=5200(ボーナスポイント)


【所持金・貴重品】

・約580万ゲリオン(1ゲリオン=2円)

(宿代食事代で定期的に消費されます)

・女神のタブレット

(インポティの顔認証さえあれば、世界のルールを改変可能)

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