第26話 全てを失った元女神

 前回までのあらすじ。

 ポイントカードが廃止になったショックで死にました。

 異世界転生しました。

 可愛いポイントカードと綺麗な斧と一緒に、武道大会で優勝しました。

 クソッタレな女神がやってきたので人間に堕天させてやりました。


「に、人間……? この私が……?」


 タブレット操作により、神の座から引きずりおろされたインポティ。

 あんなにも眩しかった後光やオーラは消えて、ただの美人なだけの人間となった彼女は……わなわなと震えながら、自分の両手を見つめている。


「天界で最も美しく、優秀で、才能溢れる……次世代の主神候補ナンバーワンとの呼び声も名高い女神インポティが?」


「どんだけ自己評価が高いんだよ。お前の美しさなんか、ピィやルディスの足元にも及ばねぇよ」


「醜い欲望に従うだけの下等な猿に身を落としたというのですか……こんな、こんな事が許されていいのですか……? いや、良くない」


 俺の言葉も耳に届いていないのか、ブツブツと呟き続けるインポティ。

 やがて彼女はキッと鋭い目線をこちらに向けると、顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らしてきた。


「てぇぇぇめぇぇぇぇっ! なぁにしてんだぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 もはや清淑な女神の仮面は脱ぎ捨て、本性を顕にしているご様子。 


「ハハハハハハハッ!」


「笑うなぁぁぁぁっ! 命が惜しかったら笑うなぁぁぁぁぁぁっ!」


 インポティは叫びながら走ってきて、俺の手の中にあるタブレットを奪い返そうとしてくる。

 俺はそんな彼女を避けるついでに、ひょいっと右足を引っ掛けてやった。


「ふべぶむぉっ!?」


 ズテーンとすっ転んだインポティは、顔面から床に大激突。

 元女神とは思えない無様な悲鳴を上げていた。


「な、なにごれぇ……お顔が、お顔が変な感じがじゅりゅぅ……やら、やらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ああああああああんっ!!」


 ゴロゴロとのたうち回り、顔を両手でワサワサと触るインポティ。


「もしかしてお前、痛みを感じるのが初めてなのか?」


「は? 痛み? 神の力を持つこの私が、痛みを感じるわけがないでしょう?」


 仰向けに寝転んで、赤ん坊のようにジタバタしていたインポティが急にピタリと動きを止めてキリッとした顔になる。


「……おらっ」


 その顔がなんとなくムカついたので、インポティの脛を軽く蹴ってやる事にした。


「いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ! いぢゃいっ! いぢゃいのぉぉぉぉっ!」


「さらにもう一発!」


「あんぎゃああああああああああああああああああっ!?」


「どうやら神の力とやらは働いていないようだな」


「おのれぇぇぇぇっ!! もう許しません!! 貴方如き、我が力によって粉微塵に消し飛ばして差し上げましょう!!」


 インポティはそう叫ぶと、俺に右の手のひらを向けてくる。


「神の名において邪悪を退けよ!! 浄罪の雷!! 【ライトニングジャベリン】!!」


「……っ!?」


「……」


 しーん……


「あれ……???」


「うん……???」


 攻撃が来るかと思わず身構えた俺だが、何も起きない。

 インポティはしばらくきょとんとしていたが、すぐにハッとした顔になった。


「それならこれはどうです!? 上級神にのみ許された最上位魔法!!」

「エターナルコキュートス!! ブレイズフォールダウン!! アビスショック!! ホーリーノヴァ!! グランドロザリオ!!」


「うるさい。唾飛ばすな」


「へぶぢゅっ!?」


 捲し立てるように詠唱するインポティの頬を軽くビンタする。

 かなり手加減した威力だが、痛みに慣れていないインポティは、それはもう大袈裟に吹っ飛んでいった。


「は、はわわわぁ……っ!」


「どれも失敗だったな」


「ほ、ほぁ……ありえない……私は女神、女神なんですぅ……」


 涙で濡れた顔で這いつくばったまま、よじよじと俺の傍から離れようとするインポティ。


「逃げるのか?」


「逃げるぅ!? 馬鹿な事を言わないでください、ゴミカス人間!! これは戦略的撤退というんですよ!!」


「ふーん? なら、コイツはどうなってもいいわけだ」


 俺は右手の人差し指を使って、さっき奪ったタブレットをクルクルと回す。


「あ、あっ……私の……私のタブレット……! 返して、それ返してよぉ……!」


「どうしよっかなぁ」


「それがあれば、私は神に戻れるの!! だから返して! お願い!!」


「うーん」


「神に戻った暁には、貴方にありったけの富と栄誉を与えます!!」


「要らない」


「じゃあポイントを差し上げましょう!! 100000000ポイントでいいですよね!?」


「……」


「パンティー!! もうあげちゃいますっ!! 私のパンティー!! 今ここで脱いじゃうヤツ!! 貴方みたいなゴミに、こんなにも幸運な事は二度とありえませんよ!!」


 スカートをギリギリのところまで捲りあげ、俺を誘惑してくるインポティ。

 なりふり構わなくなったのはいいが、まだ上から目線なのは頂けない。


「なぁ、元女神様よ」


「元って言うなぁ!! 私は今でも神!! 絶対神!! 美しい女神!!」


「もしもお前が女神に戻れなかったとしたら。これから先、この世界でどんな生活を送る事になるんだろうな」


「…………ほぇ?」


「見たところ、神の力は一切使えない。痛みには慣れていないし、体力も無さそうだ。自力で働いて生きていくのはかなり難しいだろう」


「ば、馬鹿にしないでください!」


「下手に容姿はいいからな。どっかの奴隷商人に捕まらなきゃいいけど」


「奴隷……? う、うっぷ……!!」


 自分が奴隷となった時の事を考えて、具合が悪くなったのだろう。

 口元を両手で抑えて、今にも吐き出しそうな顔をするインポティ。


「人間如きの奴隷……ああ、嫌ぁ……いくら私が美しいからって、欲望のはけ口にする事など許されるはずがありません」


「そうなると。お前は是が非でも、このタブレットを取り戻したいわけだ」


 ここまでお膳立てすれば、どれだけ傲慢な女神であろうとも理解する。

 自分が今、取るべき行動はなんなのか。


「え、えへっ、えへへへ……♪ 人間、いや……人間様! いいえ、リュート様ぁ!!」


 プライドを捨てて、タブレットを持つ俺に媚びへつらわねばならない事。

 そして俺の機嫌を損ねてしまえば、自分の未来は暗く閉ざされてしまうという事を。


「お願いします……どうかそのタブレットをお返しください。今までの無礼な言葉は全て謝罪致します! 本当に申し訳ございませんでした!!」


 俺の足元で両手両足を突いて、土下座の体勢で頭を下げるインポティ。

 精神とは裏腹に体が葛藤しているのか、ピクピクと震えているのが実に愉悦。


「そうか……反省してくれたのか」


「はい! それはもう!! これからは心を入れ替えます!! 神に戻して頂いた暁には、リュート様の生活を全力で支援させて頂きます!!」


「……ああ、分かった。それじゃあ、このタブレットを返すよ」


「ほ、本当ですか!?」


「ただし、一つだけ条件があるんだ」


「条件……?」


「今この瞬間も、俺達の様子を見守っている神様達がいるんだよな?」


 俺がそう告げた瞬間。

 インポティの顔は、希望一色から絶望へ塗り潰されていった。


「うっ、うぁ……」


「配信で何か迷う選択があるのなら、答えを決める方法は一つしかない!」


「やめてぇぇぇぇぇっ!!」


「インポティにタブレットを返すか、返さないか! アンケートを実施します!!」


 俺がそう叫んだ瞬間、ブゥンとウィンドウが表示される。

 そこに書かれている内容は……これだ。



【元女神インポティのタブレットを……?】


① 返す

② 返さない

③ 破壊する



「もしも普段からアンタがみんなに好かれているのなら、きっと①が最多票になるはずだよ」


「だ、大丈夫……私、友達いっぱいいたもん。みんなの人気者だもん。この作品のメインヒロインだもん。ねぇ? そこの貴方もそう思うでしょう?」


 上を見上げながら、この状況を目にしている神々に語りかけるインポティ。

 さぁ、果たしてアンケートはどうなるのか。

 どう転んでも俺は、その結果に従うとしよう。

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