第23話 世界一可愛い女の子と世界一綺麗な女の子

 ピィとルディスに【理解らせ】を施した翌日。

 俺は二人を連れて、服飾店にやってきていた。


「可愛らしい女の子達ですね。それでは採寸をさせて頂きますね!」


「よろしくお願いします」


 俺達の担当を引き受けてくれたお店の店員さん(28歳独身:最近彼氏がそっけない)に頭を下げ、俺はピィとルディスを引き渡す。


「店員さん! 私のドレスの方はルディスよりも素敵にしてください!」


「はぁ!? アタシの方を優先するに決まっているでしょ!」


「「ぐぬぬぬぬぬっ!!」」


「あははは! どちらも素敵に仕上げますから、安心してください」


 いがみ合う二人は店員さん(28歳:得意料理は肉じゃが)に連れられ、店の奥の方へと消えていく。

 その間俺は、近くの椅子に座って待つ事にした。


「ふぅ……」


 一息を吐いて、俺はなぜピィ達のドレスを仕立てる事になったのか。

 そのきっかけを振り返る。


 実は昨日、俺が武道大会で優勝した後……本来であればすぐに、表彰式が行われるはずであったのだ。

 しかし俺とカルチュアの激闘の余波で闘技場がボロボロ(メテオ・フレアと俺の起こした竜巻が主な原因)だったこと。

 それと表彰式で賞金と楯の授与をするはずだったカルチュア本人がダウンしてしまったということが影響し、表彰式は中止となった。


「だからって……まさか王城に招待されるなんてな」


 その後、回復したカルチュアからの提案により……俺の表彰式を王城で開かれるパーティー(決勝から3日後)で行う事に決定した。

 王城でのパーティーに参加するなんて堅苦しくて嫌だが、優勝賞金の500万ゲリオンを逃すわけにもいかない。

 仕方なく参加する事にした俺は、まずはピィ達にドレスを用意する事にしたのだ。


「(ルディスはそのままの格好でも行けそうだけど、ピィだけにドレスを買い与えるわけにはいかないからな)」


 そういうわけで二人仲良く、ドレスを仕立てている。

 ちなみに俺は適当にサイズが合う礼服でいいや、という感じ。


「……でも、タキシードだと顔を隠すのが難しいな」


 かといって素顔のままだと会場中の女性が俺の【魅力】3001の餌食になりかねない。

 最悪の場合は、マスクとか用意すればいいか。


「はぁーん? ピィ、アンタってば胸が小さいのね」


「ああ!? 十二分にありますけどぉ!? ルディスがただ、無駄にデカいだけでしょう!?」


「あっははははっ! 負けカードの遠吠えね!」


「ふん! おっぱいはデカけりゃいいってもんじゃないんです!! そもそも貴方の場合、胸だけじゃなくてお腹周りもプニッとしているくせに!!」


「ぬわぁんですってぇ!? そっちこそ、ヒップだけやけに大きいじゃない!!」


「いいんですぅー! マスターにペチペチして貰いやすくて最高ですぅ」


「ああああああああ! うっざぁぁぁぁぁぁぁっ!」


「そっちこそぉぉぉぉぉっ!!」


「お、お願いだから二人とも落ち着いて……! ね?」


 店の奥から聞こえるピィとルディスの言い争い。

 そしてそれを必死に宥めようとする店員さん(28歳:そろそろ主任に昇格するという噂がある)の声。

 いやはや、女の子というのは本当に元気だなぁと思います(現実逃避)。



【2日後 聖都アンドラル】



 ガストラから馬車で数十分の位置に存在する聖都アンドラル。

 ここが聖教国レストーヌの王都のような場所であり、王族達が暮らす王城が構えられているらしい。


「ほわぁ……綺麗な街ですねぇ」


「ふぅーん? 悪くないわね」


 馬車から降りるなり、目の前に広がる壮観な光景に目を輝かせるピィ達。

 ガストラも大きくて立派な街であったが、やはり王都というだけあって雰囲気がまるで違うものに思える。

 行き交う人々の身なりも上品というか、気品に満ち溢れている感じ。

 庶民とは縁遠い、貴族達の暮らす街……とでも言えば伝わるだろうか。


「……ふふっ」

 

 そんな街を見て無邪気に喜ぶピィとルディス。

 彼女達の美貌と、それぞれ着ているドレスの効果もあって……彼女達はすっかりこの街の景観に馴染んでいる。


「マスター! あの、私のドレス姿……どうですか?」


 俺が微笑んでいると、ピィがトテトテとこちらに駆け寄ってきて 俺を上目遣いで見つめてくる。

 今の彼女は先日完成したばかりの、赤を基調とした華やかなドレスを身にまとい……その髪型もハーフアップ(というらしい)にして普段よりもオシャレな格好。

 それが嬉しいのだろう。

馬車の中でも繰り返しこうして自分のドレス姿の感想を求めてくるのだ。


「ああ、世界一可愛いよ」


「えへへへっ……♡」


 ピィはだらしなく顔を緩ませると、俺の右腕にしがみついてくる。

 ああもう、クッソ可愛いんだが?


「世界一……ね。ふぅーん? そうなんだぁ」


 と、ここで残るルディスが拗ねた様子で頬を膨らませる。

 可愛さ大爆発のピィとは対象的に、青を基調としたシックなドレスを身に纏うルディスは大人の淑女と遜色のない妖艶さを漂わせていた。


「ルディス、こっちへおいで」


「……何よ」


「たしかに世界一可愛いのはピィだけど、お前は世界一綺麗な女の子だよ」


「!!!」


 俺がそう呟くと、ルディスはハッとしたようにこちらを見る。

 それからヒクヒクと口の端を動かしながら、てくてくと俺の左腕にくっついてきた。


「ま、まぁ……当然の話だけどね。いいわ、特別に許してあげる」


「ああ、ありがとう」


「「んふーっ♪」」


「世界一可愛い女の子と綺麗な女の子を同時にはべらせるなんて、俺はきっと世界一幸せな男だな」


「そうですね。それと世界一格好良い男の人です!!」


「それなりに似合っているわよ、アンタのタキシード姿」


「あはは。嬉しいけど、照れるからやめてくれ」


 二人が言うように俺も特注のタキシードに袖を通してはいるが、庶民である俺にとっては身の丈に合わない格好だ。

 ちなみに顔隠しに関しては悩みに悩んだ結果、伊達メガネを購入して誤魔化す事になった。(駄目元で試してみたら、メガネでも【魅力】隠しに成功した)


「メガネのマスターも新鮮でイイです」


「ちょっとは知的に見えるかもね」


「はいはい、俺の格好についてはもういいから。さっさと王城に向かうぞ」


「「はーい」」


 右手はピィと、左手はルディスと。

 俺は二人の美少女と手を繋ぎながら、パーティーの開かれる王城を目指すのだった。



【十数分後】



「うひぇぁ……これまた、すっごいですねぇー」


 王城に到着し、正門をくぐり抜け、城内へと足を踏み入れた俺達は……聖都に到着した時以上に、衝撃を受ける事になった。


「おいおい、いくらなんでも豪華絢爛過ぎるだろ」


 思わずそう呟いてしまうほどに、レストーヌの城内は凄まじい。

 パリの有名な美術館に展示されているような絵画や石像が至るところに配置されており、全体的に金色っぽい装飾で眩しい。

 シャンデリア、燭台、ステンドグラス……過去の俺とは無縁な光景を前にして、なんだか頭が痛くなってくる。


「ふふーん、高貴で麗しいアタシに相応しい城ね。いつか担い手と一緒に、こういう城に住みたいものだわ」


「いやー、キツいでしょ(笑)」


「なんでよー!! アタシの為に一国一城の主になりなさいってのー!!」


 俺の腕を掴んでぶんぶんと振り回してくるルディス。

 たしかにこういうお城に憧れる気持ちは分からないでもないが……


「そうだぞ、リュート。我と結婚さえすれば、貴様もいずれはこの国の王となり……やもしれん」


 俺がルディスからポコポコと背中を叩かれていると、二階に続く中央階段の上から声を掛けられた。

 俺達が揃って顔を上げた先にいた人物は、先程の台詞から分かる通り……この国の第3王女であるカルチュアであった。


「うわ……」


 数日ぶりに顔を合わせたカルチュアは、今までの騎士姿とはまるで異なっていた。

 サラサラの金髪を黒のリボンで束ね、肩口に垂れる部分は軽く巻かれている。

 服装も天使を彷彿とさせるような純白のドレスを身にまとい、歩く所作も優雅で気品に満ち溢れたお姫様……といった感じ。

 流石は本物のプリンセス。庶民とはオーラが全然違う。


「ふふふっ、見惚れてくれたか? 今宵は貴様に会えるという喜びから、普段よりも気合を入れて準備をしてしまったぞ♡」


「あ、うっ……う、うぃっす……」


「お? 紅くなったな? これはわざわざ感想を聞く必要は無さそうだ」


 俺がしどろもどろになっているのを見て、してやったという表情のカルチュア。

 くっ……! 悔しいけど本当に美人だよ、この人は。


「「むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」」


 しかし、そんな彼女のアピールを彼女達が許すはずもなく。

 俺の両脇にしがみついたピィとルディスが、頬を膨らませながらカルチュアを睨む。


「おっと、これは嫌われてしまったかな。そちらの白髪の少女はともかく、黒髪の少女は初対面だと思うのだが」


「「がるるるるるるるっ!!」」


「ふむ、残念だ。どちらも本当に可憐で美しい……是非とも、リュートと共に我の傍にいて欲しいものだが」


「「いぃぃぃぃぃぃやっ!!」」


「……如何ともし難いな」


 どうにかピィ達を懐柔しようとするカルチュアだが、失敗に終わる。

 先日のキスの一件もあって、二人は完全にルディスを敵認定しているようだ。


「えっと、カルチュア……王女様」


「よせ、様付けなど気持ち悪い。貴様には普段通りの言葉で、呼び捨てにして欲しい」


「しかし……」


「頼むリュート。我は貴様の前でだけは、一人の女でいたいのだ」


 もじもじと内股を擦らせながら、潤んだ瞳で訴えてくるカルチュア。

 なんとも胸を打つ台詞だとは思うんだが……

 

「「……じとぉ……」」


 俺の両脇にいる大切な二人の目からハイライトが消えるので。

 ここは無難な対応で誤魔化すとしよう。


「わ、分かったよカルチュア。でも、お前の想いに応えるわけじゃないからな」


「……ああ、今はそれで構わないさ」


 カルチュアは小さく頷くと、こちらに背を向けて歩き出す。

 

「パーティーの会場はこちらだ。我が直々に案内してやろう」


「よろしく頼む」


「「ぎゅぅーっ! むにゅーっ! すりすりー! ちゅーっ!!」


「こらこら、甘えるのは帰ってからだ!」


「(ぬぅ……! なんという羨ましい真似を……!!)」


 俺にしがみついて甘えてくる二人と、どことなく嫉妬の色を孕んだ瞳でこちらを見てくるカルチュア。

 頼むから問題は起きないでくれと、俺は天に祈るのであった。

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