第19話 決勝戦(VS謎の仮面)前編


「ごくごく……ぷはっ。ありがとう、ルディス。おかげで喉が潤ったよ」


「ふん! お使いくらい朝飯前よ!」


 ルディスが買ってきてくれたお茶を飲み終えて、俺は彼女の頭を撫でる。

 いつもならピィが嫉妬してくるところだが、さっきのぽんぽんサスサスが効いているのか不満は無さそうだ。


「んふっ、ふふふふ」


「……なんか妙ね。ピィ、アンタもしかしてアタシがいない間に何かした?」


「えー? そんな事していませんよぉ」


 と否定するピィだが、そのニヤニヤ顔のせいでバレバレだ。

 しかも顔を赤らめて下腹部を愛おしそうに撫でるものだから、ルディスはぎょっとした顔で俺を見てくる。


「えっ……? シちゃったの?」


「ナイナイナイ!!! 絶対に無い!!」


「だって、アレは完全に中出しキメられたメスポイントカードの顔じゃない……!」


「してないってば!!」


「……ほんと? まだ童貞のまま?」


「……いえす」


「ふ、ふーん? まぁ、アタシには関係ないけどね!」


 グリグリグリ。

 俺の胸に抱きついて、頭を押し当ててくるルディス。

 そんな彼女を抱きしめ返しながら、俺は未だ恍惚としているピィに声を掛ける。


「なぁ、ピィ。少し頼みがあるんだが」


「はい? なんでしょうか?」


「新しいスキルを習得したいんだ。手伝ってくれ」


「スキル……ああ、さっき話していた防御系のスキルですね」


「そうだ。あの爺さんみたいなスキルを持つ相手が今後現れないとも限らないし、早めに対策を立てて置こうと思って」


「分かりました。ではマスター、具体的にどんなスキルにしたいのかをイメージしてください。そうすればスキルヒントが出現するはずです」


「分かった。よし……」


 幻覚に惑わされるのもそうだが、他にも精神操作や洗脳、催眠なんかも防げるスキルにした方がいいよな。

 それらをまとめると……


 ティロンと音が鳴り、俺の前にウィンドウが浮かび上がる。

 そこに書かれているのは、俺が思いついた新たなスキル。


【状態異常耐性 レベル(1/5)】(取得2500P レベルアップ各500)

・状態異常にかかりにくくなる(レベル1)

・麻痺&毒 無効(レベル2)

・催眠&洗脳 無効(レベル3)

・幻覚&誘惑 無効(レベル4)

・ありとあらゆる状態異常を完全に無効にする(レベル5)


「こんなものかな」


「強力なスキルというだけあって、かなり高ポイントですね」


「ああ。でもこれは必要経費だと思うし……レベル5まで払うよ」


「かしこまりました。それではスキル習得の要請を承認します」


 ポワーンと俺の体が発光する。

 これで俺に新たなスキルが宿ったというわけだ。


「他にもステータスを割り振りますか?」


「今のところは大丈夫だ。もしも決勝で苦戦するような事があれば、土壇場でステータスを割り振るかもしれないけど」


「まだ6万も余っているんだし、先にステに振っておけば?」


「いいや、俺はまだこの世界について深く知らない。それなのに貴重なPを無計画で割り振るのは得策じゃないよ」


「そういうもんなの?」


「ああ。いつ、どんなスキルが必要になるか分からないしさ。ちゃんと必要な時に必要な分だけ使うようにしたいんだ」


「了解。アンタのポイントなんだし、好きにすればいいと思うわよ」


 俺の言葉に納得したルディスはよじよじと俺の背中に登ると、そのままボフンッとアックスモードへと変化する。


「もうそろそろ決勝の時間だ。ピィ、お前はどうする?」


「んー……今回も私は観覧席から観戦します。マスター、必ず優勝してくださいね!」


「おう! 今夜の優勝パーティー、楽しみにしておけよ!」


 俺はピィと別れると、闘技場の方へと向かう。

 そういや、結局準決勝第2試合はどちらが勝利したんだろうか。

 ピィのお腹を擦ったり、スキル取得したりで……すっかり忘れていた。


「おい! あの方は見つかったか!?」


「い、いえ。それがどこにも……!」


「なんだ……?」


 闘技場へ続く道の途中、場内の警備を担当である騎士達が何やら慌ただしく走り回っている姿を目撃する。


「領主様のご命令だ! 必ず見つけ出せ!」


「万が一の事があれば、我々全員が死刑だぞ!!」


 よく分からないが、何か大変そうだな。

 まぁ俺には関係の無い事なので、手を貸すつもりもないのだけど。


『ねぇ、緊張してる?』


「いいや、ちっとも」


『あはっ、だと思ったわ』


「さぁ、行こうか」


 パンッと頬を叩いて、俺は闘技場へと進む。

 眩しい陽の光と共に、俺に降り注ぐのは……観客達の歓声。


「「「「「リュート! リュート! リュート! リュート!」」」」」


 レベル0である俺の優勝を見たいという観客達の大きな期待が、こんなにもハッキリとした形で伝わってくる。

 もはや会場全体が俺を応援していると言っても、過言では無いだろう。


「まずは今大会のダークホースである、最強のレベル0! リュート選手が愛用の戦斧を背負って入場ですっ!!」

 

「……うぃっす!」


「そして!! 対するはこちらもある意味、謎に包まれた存在! 1回戦2回戦と泥臭い戦いを繰り広げていたものの、3回戦からは人が変わったように華麗な槍捌きで圧勝! 天下無双の快進撃!! 黒衣の仮面選手の入場ー!!」


「……」


 反対側の入場口から歩いてくるのは、例の仮面選手。

 勝者はこちらだったか……


「レベル0 VS 謎の仮面!! 大会の長い歴史において、これほどまでに意味不明な決勝戦が果たしてあったでしょうか!? いや、無い! 無いに決まっている!!」


「……どうぞ、お手柔らかに」


「ふ、ふふふふ……」


「?」


 俺が声を掛けると、仮面選手は微かに笑い声を漏らす。

 今のは間違いなく……女の声だ。


「ハハハハハ……! ようやく会えたな、リュート!」


「はい?」


「おぉーっと!? これはどういう事でしょうか!? 今まで一言も喋らなかった仮面選手が話しています!! しかもその声は、女性の美しい声ではありませんか!!」


 実況のお姉さんも興奮混じりにマイクを握って実況している。

 しかし当の仮面選手は意に介する様子も見せずに、目深に被っていたフードを外す。

 そうして中からこぼれ落ちてきたのは、息を飲むほどに綺麗な金髪。


「我はずっと貴様に会いたかった。毎晩のよう貴様との再会を望み、あの時力ずくで連れ去らなかった事を後悔し続けていた……」


「この声、髪色……まさか?」


 ここに来て俺もようやく、目の前の女が何者なのか理解する。

 俺の事を知っている――美しい声を持つ金髪の女。

 それは俺がこの世界にやってきた日に、偶然出会った女騎士。


「我は美しいモノを愛してやまないが、それ以上に強き者が好きだ。だから、リュート……貴様の強さを見て、我は決めた」


 俺の予想に対する答え合わせをするかのように、仮面の女は自らの仮面を外す。

 ギリシャの美術像を思わせるほどに整った顔立ち、透き通るような碧眼。


「貴様に我を孕ませる権利を与えてやろう!! さぁ、我の美貌と貴様の強さを受け継ぐ最強の子を成そうではないか!!!」


「!?」


<<カルチュア・ドーラ・レストーヌ(レベル87)>>

【クラス】レストーヌ聖教国 第3王女

【使用武器】神龍槍バハムート(獄炎付与)

【スキル】女神の寵愛(Sランク)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る