第18話 インターバル(デレデレポイントカード)


「マスター!! 決勝進出おめでとうございますー!!」


「おわっと!?」


 準決勝から決勝まで、しばらく時間が空くという事で。

 俺達はまたピィと合流したのだが、彼女は俺に会うなり胸へダイブ。

 ちゃんと受け止めてから、俺はピィの頭を撫でる。


「よしよしよし。ずっと待たせていて悪かったな」


「構いません。格好良いマスターを見られましたから」


 俺の指の感触をわずかでも逃さないようにと、ピィは俺に抱きついたままスリスリと体を擦りつけてくる。

 むにむにとした柔らかな頬の感触など、実にさわり心地の良い子だ。


「ピィったら甘えん坊ねー」


 俺の背中におぶさりながら、ルディスが呆れたように呟く。

 また喧嘩の勃発かと身構えたが、ピィはちっとも堪えた様子を見せない。


「いいですよ。甘えん坊で」


「……えっ」


「だって私、マスターの事が大好きですから。こうして、うーんと甘えて! いっぱい可愛がって貰うんです!」


 言うが早いか、ピィは瞳を閉じてから「んーっ♡」と唇を突き出してくる。

 俗に言うキス待ち顔であるが、これには俺も困った。


「いや、ピィ! それは……!」


 ピィの事は大切だし、可愛いし、女の子としても魅力的だとは思う。

 しかし彼女の容姿は流石に幼すぎるし、恋人というよりは妹や娘に近い感覚で接しているので……唇でのキスは少し躊躇してしまう。


「ちゅー……駄目ですか? 私の事、嫌いですか?」


「嫌いじゃない……! 大好きだ!」


「なら、ちゅー♡」


「うっ……!?」


 迫る唇。どうしたものかと俺があたふたしていると。


「させるもんですかぁーっ!」


「へぶっ!?」


 グワシッ!!

 ルディスのアイアンクローがピィに炸裂する。


「むごごごごごっ!!」


「なぁにを抜け駆けしようとしてんのよ!! 担い手のファーストキスはアタシが貰うんだから!!」


「…………ルディス」


 ぞわっ。

 思わず背筋が凍り付くほどの殺気が、俺に抱きついているピィから発せられる。

 アイアンクローの指と指の間から覗くピィの瞳は……漆黒の殺意を秘めているように思われた。


「や、やめないかルディス!」


「うっ! そうね、ちょっとやりすぎちゃったわ!」


「…………」


 このままではヤバいと判断した俺が注意をすると、ルディスは慌ててピィの顔から手を離した。

 そうして顕になったピィの顔は、いつもと同じ愛嬌満点の可愛い笑顔。


「むーっ! マスター、ルディスったら酷いですよね?」


「おっ、そうだな(現実逃避)」


「私はマスターと、もっと仲良しになりたいだけなのに」


「……ピィ」


 しょんぼりと俯くピィ。

 いくら幼いとはいえ、女の子がキスを迫って失敗するなんてショックだよな。

 俺は自分の都合ばかり考えて、ピィの気持ちをまるで考えていなかった。


「大丈夫だよ、ピィ。俺はお前の事が大好きだから」


「……本当ですか?」


「ああ。だけどお前も知っての通り、俺は童貞だ」


「はい。童貞です」


「女の子と付き合った事もない」


「はい。えっちなビデオと右手だけが恋人でした」


「……えっ? 見てたの?」


「時々、お財布が開きっぱなしの時に」


「……」


「……あー、なんというか。担い手も男だし、しょうがないんじゃない?」


「ちなみに、お財布の中でルームシェアしていたコ○ドームさんはいつも愚痴っていましたよ。自分の出番は永遠に無いだろうって」


「…………」


 あれ? なんでだろう?

 目から涙が止まらない……

 なぜか止まらないんだ。


「……とにかく、俺は恋愛経験がゼロ。だから、いくら大好きな女の子でもいきなりキスなんてハードルが高すぎるんだ」


「なるほど……そういう事情なら、まぁ納得です。童貞ですからね」


「ちょっとずつ慣れていくしかないわね。童貞だもん」


「童貞童貞言うなよぉぉぉぉぉっ! 好きで童貞じゃないんだってばぁぁぁぁ!」


 泣いた。

 俺はとことん泣いた。

 ピィの積極的なアプローチをブロックする免罪符と引き換えに、俺は男として大切な何かを失った気がする。


「よちよち、大丈夫ですよ。私がマスターの恋愛恐怖症を癒やしてあげますから」


「なでなで。アタシがいればあっという間に完治するでしょうね」


 前と後ろ、むぎゅーっと抱きつきながら俺の頭を撫でてくる二人。

 ああ……あったけぇ。あったけぇよ母ちゃん。

 ロリ美少女二人に密着されながら頭を撫でられるなんて、一体前世でどれだけの徳を積めば得られるバブみなんだ……!


「んふふふっ♪ マスターが喜んでくれているようですね」


「ほんっと分かりやすい男よね。あーあ、こんな変態担い手のお嫁さんにならなきゃいけないなんて、困ったものだわ」


「は? お嫁さんは私がなるんですが?」


「あ? アタシに決まってんでしょ」


「「ぐぬぬぬぬぬぬぅっ!!」」


「コラコラコラ!! 喧嘩はやめなさい!!」


 このまま頭上で喧嘩をされては堪らないので、俺は二人を床に下ろす。

 しかしピィとルディスの二人は未だに睨み合ったままだ。


「……ルディス、ちょっといいか?」


「何よ!? 今日こそはこの色情カードとの決着を……!」


「俺、少し喉が乾いちゃってさ。お使いに行ってきてくれないか?」


「え? アタシに……お使い?」


「ああ、ルディスにしか頼めない事だ。決勝で万全を期すためにも、水分補給は欠かせないからな」


 俺はポケットからマネークリスタルを取り出してルディスに渡す。

 それを受け取ったルディスは瞳を輝かせて大喜びだ。


「しょうがないわねぇ! そこまで言うならお使いくらい行ってやるわよ!」


「よろしく頼む、他にも自分の好きな物を買ってきていいぞ」


「うふふふっ! ええ、任せておきなさい!」


 はじめてのお使い。

 ルディスはスキップをしながら売店の方へと向かっていった。

 

「むむむむぐぅぅぅぅぅっ!」


 残ったピィはというと、まるで風船のように両頬を膨らませていた。

 どうやら俺がルディスをお使いに出した事が気に食わないらしい。


「どうしてルディスなんです!? 私だってお使いくらい!!」


 ぽかぽかぽかぽか。

 俺の胸を両手で叩いてくるピィ。

 しかし俺はそんな彼女を正面から抱きしめ、そっと耳元で囁く。


「……お前と二人きりになるためだよ」


「~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」


 ぶひゅるるるるるるっと、ピィが口に蓄えた息が吐き出されていく。

 それから彼女は頬を紅潮させながら、うっとりとした瞳で俺にしなだれかかってくる。


「ますたぁ……♡ もう♡ それならそうと最初から言ってくださいよ♡」


「今日はほとんどルディスとばかり過ごしていたからさ」


 大会に出るので仕方ない事ではあるが、やはり俺としてはピィが一番大切だからな。

 こうやって彼女との時間も取らないといけない。


「ん~~~~っ♡」


 すりすりすりすり。頭を俺のお腹に擦りつけてくるピィ。

 

「何かやりたい事はあるか? キスとかそういうのでなければ、出来る限りピィの望みを叶えてあげるぞ」


「うーんっと、うーんと。それじゃあ、あの……両手を貸してください」


「俺の両手を? ああ、いいぞ」


 俺が両手を前に出すと、ピィは俺の両手を掴んで……自分の腹部に運ぶ。


「ぽんぽん、いっぱい擦って欲しいんです……♡」


「お腹を? まぁ、それくらいなら」


 俺はピィのお腹に手を這わせると、ゆっくりとサスサスしていく。

 彼女の服はへそ出しスタイルになっているので、直接肌に触れる形になるのだが……


「んっ……ふぅ……ぁっ、ぁん……んぅ、くぅ……♡」


 口元を手で隠し、どこか熱っぽい吐息を漏らすピィ。

 ハッキリ言っておくが、俺は何も変な場所には触れていない。

 あくまで、ぽんぽんを擦っているだけである。


「んへへへっ……♡ マスター……♡ もっと、強くしてもいいんですよ?」


「…………」


「あぁんっ♡」


 しかし、なぜだろうか。

 触れているのはただのお腹だというのに、そこはかとないエロスを感じてしまう。

 これは俺の心が穢れているせいなのか。あるいは自然な事なのか。

 どちらにせよ、ただひとつハッキリと言える事があるとすれば――



「はぁ、はぁ……マスター。私、とっても幸せです♡」



 このままだと俺、ガチでロリコンになっちまうよ……




※ この後、ルディスが戻ってくるまでいっぱい(ぽんぽんを)サスサスしました



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