第20話 決勝戦(VS第3王女)中編

 貴方が好きです。愛しています。毎朝味噌汁を作って欲しい。

 一生一緒にいてくれや。めっちゃ好っきゃねーん。

 などなどなど。

 この世には数多くの告白文句やプロポーズが溢れている事だろう。


「ええ……?」


 しかし、いくら世界が広いとはいえ。

 前に一度会っただけの女性に、武道大会の決勝というステージで「子供を作ろう」と告白される男は……俺が史上初だと思う。


「どうした? 身に余る感動の余り、言葉も出ないか?」


 ドン引きする俺の顔を見つめながら、元仮面選手……カルチュアは首を傾げる。

 どこからその自信が出るのかと、俺が半ば呆れていると。


「カ、カカカ……カルチュア様……?」


「え?」


「貴様、先程から頭が高いぞ。美しくなければ打首にしているところだ」


「は、ははぁーっ!! 知らぬ事とはいえ、失礼致しました!!」


 審判のお姉さんが顔を真っ青にしてガクガクと震えだし、その場に跪く。

 いや、彼女だけではない。

 さっきまであんなに騒いでいた観客達も全員静まり返り、自分達の席で深々と頭を下げているようだった。

 

「アンタ……ずいぶんと偉いんだな」


「む? もしや貴様、我が何者か分からないのか?」


 俺が訊ねると、カルチュアは驚いて目を丸くしていた。

 ただの女騎士かと思っていたが、これはかなり上の地位……なのか?


「リュ、リュート選手!! この御方に無礼な口の利き方は……!!」


「よい、この者はいずれ我の伴侶となる者だ。それよりも貴様、我とリュートの会話に口を挟むつもりか?」


「ひぃっ!?」


「失せろ。恋人同士の蜜月に、邪魔者は要らん」


「はいぃぃぃっ!」


 ギロリとカルチュアが睨み付けると、審判のお姉さんは慌てて逃げ出していく。

 おいおい、審判がいなくなっちゃったぞ。


「すまない、リュート。我はこの国では有名人だからな。わざわざ名乗る必要は無いと思いこんでいた」


「それで? アンタは一体何者なんだ?」


「我はカルチュア・ドーラ・レストーヌ。レストーヌ聖教国の第3王女だ」


 第3王女……って、あの怪しい集団が暗殺を計画していた相手だよな?


「まさか王女様だったとは」


 ぶっちゃけ驚き桃の木だが、納得はした。

 審判のお姉さんや、観客達の反応は大袈裟ではないらしい。


「なんでまた、王女様がこんな武道大会に出ているんです?」


 一応相手が王族という事で、ここは敬語に切り替えておくか。

 とはいっても、特別へりくだるつもりも無いが。

 

「最初は特別ゲストとして、近衛騎士のオズボーンと共に観覧に来ていた。しかし大会に出場し、活躍する貴様を見ていて……我は疼いてしまったのだ」


 両手で自分の体を抱きしめるようにして、身をよじるカルチュア。


「そして確信した。あの時、貴様を見て感じた胸の高鳴り……それは女神様からの天啓。我を孕ませるに相応しい強者との出会いであったと」


「ちょっと何言ってるか分かんないですね」


『担い手―!! この女なんなのよ!? さっきからキショ過ぎるんだけど!?』


 俺の手の中でルディスが悲鳴にも似た声を上げている。

 そういやルディスはコイツと会った事無かったっけか。


「って、待てよ? じゃあ、貴方が大会に参加したのは途中から?」


「ああ。あの弱く醜い仮面の男には、3回戦の前に消えて貰った」


「……可哀想に」


 まぁ、元々アイツは王女の暗殺を計画していた連中の仲間だったわけで。

 ある意味自業自得のようなものだけど。


「リュートよ、あの時は本当にすまなかった。レベル0という数字に踊らされ、貴様の言葉を信じずに嘲笑ってしまったな」


「いえいえ、仕方ないですよ」


「ここまで余裕で勝ち進んできた貴様の強さは疑いようがない。間違いなく我の伴侶となるに相応しい強者だと断言出来る」


「いやぁ、それはどうでしょうかね」


「だが、我も一人の女である前に……騎士だ。貴様が一体どれほどの強者なのか、それを我が槍で推し量っておきたいのだ」


 そう言いながらカルチュアが右手を前に突き出す。

 するとその手に光が集まり、一本の無骨な槍が出現した。


「!!」


『この感じ……!?』


 どことなく龍をモチーフにしたような形状の白銀の槍。

 サイズ自体は普通なのに、その存在感ときたら……まるで目の前に巨大なドラゴンが立ち塞がっているみたいだ。


「コイツは【神龍槍バハムート】……神々が残したという伝説上の槍だ」


「伝説って……?」


「ああ。貴様の斧も、かなりの力を秘めているようだな」


『ふっふーん! 変な女の割には、見る目があるじゃない!』


 褒められて少し鼻が高い様子のルディス。

 しかし俺はほんのちょっと、焦りを覚えていた。


「……ただでさえヤバそうな槍だっていうのに」


 フードと仮面を外し、素顔を晒した影響だろう。

 確認の為に意識を集中させれば、カルチュアの頭上にレベルが表示される。


「レベル87って……いきなり跳ね上がりすぎじゃね?」


 この大会で戦ってきた相手はアベレージ50前後。

 国の近衛騎士隊長がレベル54だった事を考えても、これはものすごく高いレベルだと言って差し支えないだろう。


「驚いたか? 我はこの国で五本の指に入る強さを持っているのだぞ」


「……そうみたいで」


「我は誰よりも強く、賢く、美しい……どうだ? 貴様も我を孕ませたくなってきただろう?」


『はぁ!? そんなわけないでしょ!? この雌豚がぁっ!!』


「……いえ、全く」


『そうよねそうよね!! アンタにはアタシとピィがいるもんね!!』


「……なんだと?」


 ピクリと眉を動かし、眉間にシワを寄せるカルチュア。

 まさか断られるとは思っていなかった、という表情だ。


「俺はこの大会に優勝する為に、ここにいるんです。言葉の意味、分かりますよね?」


 ルディスをクルクルと回してから、その切っ先をカルチュアへと向ける。

 正直、これ以上彼女の戯言に耳を貸すのはもう沢山だ。

 というより、そろそろ話を切り上げないと観覧席にいるピィが……


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す…………!! マスターの赤ちゃんを産むのは私なのに私しかいないのに私わたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたしわたし……!」


「(うわぁ、後ろの方から邪悪なオーラを感じるけど……振り返りたくねぇ)」


『ピィの凄まじい殺気を感じるわ……』


 ピィが放つプレッシャーに怯えつつ、俺達はカルチュアに交戦する意思を示す。

 元はと言えば、この大会で優勝して知名度を上げる事が目的だったんだ。

 ここで最強の王女を倒す事が出来れば、ただ優勝するよりも効果抜群に違いない。


「よもや……我の求婚を断る男がいようとはな」


「……1つアドバイスするとしたら、童貞に色仕掛けは一周回って逆効果ですよ?」


「クク……クハハハハッ! 面白い! そうだ、それでこそ手に入れる価値があるというもの!!」


 カルチュアも槍を振り回し、こちらにその先端を向ける。

 ルディスとバハムート……その刃が触れ合うほどの距離。


「(今の笑いって、俺が童貞だって事を面白がったわけじゃないよな?)」


 緊迫した状況の中、そんな事を考えちゃうから童貞なんだよと自分でも思います。


「リュート! ここで貴様を倒し、大勢の証人達の前で契りを交わすとしよう!!」


「いぃっ!? 初体験が公衆の面前で青姦だなんて死んでもゴメンだ!!」


「ならば我を倒してみせよ!! そうすれば我は貴様の慰み者となってやる!!」


「どっちにしても童貞喪失!?」


「隙を見せたな!!」


 そんなやり取りの中、最初に動いたのはカルチュア。

 素早い動きでまっすぐに槍を突き出してくる。


「ハァッ!」


 俺はそれをルディスで弾き、逆にダッシュしてカルチュアとの距離を詰める。

 槍ならば懐に入られるのを嫌うはず……と思ったのだが。


「!?」


 弾いたハズの槍から突如として黒い炎が吹き出し、渦を巻くようにしてカルチュアの全身を包み込む。

 その余波を受けて、俺は思わずその場でバックステップ。


『あっつっ!? あちちちちちっ!』


「ルディス、大丈夫か!?


 黒い炎はルディスを伝って俺の右腕に燃え移ってきたが……とりあえず思いっきり振り下ろした勢いで炎をかき消す。


『あー、しんどかったわ』


「なんだ今の炎……これがカルチュアのスキルなのか?」


「スキルではない。これはバハムートに付与されている獄炎だ」


「付与? 獄炎?」


「武器に魔法の力を与える事だ。そして獄炎とは、触れた者の生気を吸い取る冥界の炎を意味している」


 黒い炎で全身を守るカルチュアが、自らの能力について説明をしてくれる。

 なるほど。武器に魔法付与……そういう使い方もあるのか。

 ポイントを使ってルディスを強化するのもイケるかも。


『担い手に染め上げられちゃうアタシ……悪くないわね。どきどき』


「……しかし妙だな。獄炎の炎は一度相手を燃やしたら、生気を吸い尽くすまで消えないはずなのだが……まるで効いていない」


 多分だけどそれは、なんらかの状態異常になる判定なのだろう。

 しかし今の俺は状態異常を無効にするスキルを持っているから、その効果は及ばないらしい。

 さっき取得しておいて、本当に良かった。


「素晴らしいぞ、リュート。獄炎が効かぬ相手など初めてだ!! 我と貴様の子は、さぞかし強くなるに違いない!!」


「だから! 子作りなんてしませんってば!!」


 獄炎は熱いが、俺の防御力ならば大したダメージは無い。

 ルディスに負担を与えないように気を付けながら、今度こそ接近戦でケリを付ける。


「どらぁっ!!」


「せいやぁっ!!」


 俺の振り下ろしたルディスと、カルチュアが突き出したバハムートが激突。

 鈍い金属音と共に火花を激しく散らしたものの……威力で勝る俺の攻撃によってカルチュアが体勢を崩してよろける。


「ぬぅっ!? なんという【力】だ……!?」


「トドメだ!!」


『ぶっ殺してやるわ!! このドグサレ雌豚がぁぁぁぁぁぁっ!!』


 物騒なルディスの叫びに合わせ、俺はカルチュアに斬りかかる。

 獄炎の炎が俺の身を焦がそうとするが、高い【防御】と【体力】の前ではダメージなど無いに等しい。

 これで決まる……と、確信したのも束の間。


「流石だと言いたいが……甘いぞリュート!」


「なにィ!?」


 バサバサバサッ!!

 そんな音と共に、カルチュアの体が空へと舞い上がる。

 よって俺の放ったルディスの一撃は虚しくも空振ってしまう。


『あーん!! 外れちゃったじゃない!!』


「これは……!?」


 すかさず空を見上げると、カルチュアが握るバハムートから両翼が生えており、その羽ばたきによって彼女は飛び上がっているようだ。


「フフッ……! 勝負はまだまだこれからだぞ!」


「……流石にレベル87。そう簡単には倒せないか」


 さて、相手が飛べるとなると面倒だが。

 どうやって攻略しようか……



<安藤流斗(レベル0)>>

【体力】3001 【力】 1001 

【技】 1001 【速度】1001 

【防御】3001 【魔力】1

【幸運】1001 【魅力】3001

【武器適正】

・斧 1001(SSSランク)

・剣&槍&弓&杖 各1(Gランク)

【所持スキル】

・カード擬人化(20000P)

(ポイントカードに肉体を与える事が出来る)

・アックス擬人化(0P)

(斧に肉体を与える事が出来る)

・状態異常耐性レベル5(5000P)←NEW!!

・ありとあらゆる状態異常を完全に無効にする

【残ステータス・スキルポイント】60999

【所持金】

・約112万ゲリオン(1ゲリオン=2円)

(宿代食事代で定期的に消費されます)

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