第6話 おじロリからしか得られない栄養素はありますか?

 俺が持ってきたゴールドスライムのせいでざわつくギルド内。

 これだけ大勢から一気に注目されて、俺はかなり恥ずかしい想いをしつつ……受付の方へと歩いていく。


「あ、あの……これ、なんですけど。報酬とかって貰えますか?」


 誰も並んでいなかった受付へと進み、俺はゴールドスライムの死体3つをカウンターの上に置く。


「……ぽぉーっ」


「え?」


「素敵♡」


 受付嬢も俺の顔を見つめて、うっとりした表情を見せる。

 これは先程の魔法使いと僧侶達と同じ反応……まさか!?


「マスター! これを!」


 俺と同じタイミングで気付いたのであろう。

 ピィは自分の着ているシャツの裾をビリィッと破り、俺にそれを手渡してきた。


「顔を隠してください!」


「あ、ああ!」


 言われた通り、俺は受け取った服の切れ端を顔から下に巻きつける。

 

「……あ、えっ、あら」


 するとあんなにポーッとしていた受付嬢が、ハッとしたように正気に戻る。

 やはりこれは【魅力】のステータスによる影響だったらしい。


「抜かりました……まさか、ここまで異性を魅了してしまうなんて」


「顔がイケメンになったわけじゃないのにな。ビックリだよ」


 ヒソヒソと、ピィと話す。

 服を破いたせいで、ピィの格好はお腹のくびれが見えるへそ出しルックになっている。

 俺はそれを申し訳なく思いつつ、自分が来ていた上着を彼女に着せる。


「ごめんな」


「いえ、この方が動きやすくていいですよ。寒くもないですし」


「女の子はぽんぽん冷やさない方がいいらしいし、とりあえずそれを羽織っておけ」


「はい。あふぅ……マスターの上着、いい匂いです」


 俺の上着を抱きしめるように羽織り、嬉しそうにはにかむピィ。

 あー……父性がくすぐられるんじゃぁ。


「あのぉ? お客さん?」


「あ、ごめんなさい」


 受付嬢に話しかけられ、俺は振り返る。

 顔を隠している効果もあってか、今度はちゃんと話せそうだ。


「このゴールドスライムはお客様が倒したんですか?」


「えーっと、一応そうなるのかな」


「しかし、このゴールドスライムは倒すと膨大な経験値が手に入るんです。お客様のレベルはその……0ですが」


 ああ、そうか。

 俺はレベルを上げられないから、魔物を倒しても信じて貰えないんだった。

 この場合、どうするのが正解なんだろう。


「俺が倒していないとなると、報酬は貰えないんですか?」


「いえ、ゴールドスライムの価値は経験値だけではなく、死体を金に錬成出来る事にありますから。相場は少し下がりますが、1体辺り50万ゲリオン。ギルドが手数料として2割受け取るという決まりなので」


「120万ゲリオン……頂けると」


「はい。それでよろしいでしょうか?」


 120万ゲリオン。1ゲリオン1円だとしても、十分過ぎる金額だ。

 ひとまず、これで手を打っておくか。


「大丈夫です」


「かしこまりました。しかしかなりの大金になりますので、マネークリスタルでのお渡しでよろしいですか?」


「まねーくりすたる?」


「え? マネークリスタルをご存知ないのですか?」


「あ、ああ。アレですね。いやだなぁ、分かりますよ」


 なんのこっちゃ分からないが、話を合わせて誤魔化しておく。

 とにかく相応の金額が貰えるのにかわりはないし。


「では、準備をして参ります」


 受付嬢が奥に行ってしまったので、俺は近くの椅子に座って待つ事にした。

 ピィは俺の上着を気に入ったのか、椅子の上でぶらぶらと足を振りながら鼻歌を歌っている。可愛い。


「おいおい、ゴールドスライムの遭遇率ってエグかったよな?」


「ああ、しかも出会った瞬間に逃走する確率が90%なんだぜ?」


「回避率も高くて、こちらの攻撃が当たる確率は30%くらいらしい」


「それを三体って、あの野郎……どれだけ幸運なんだよ」


 受付嬢を待っている間、周囲からそんな声が漏れてくる。

 その内容から察するに、俺ってめちゃくちゃ幸運だったって事になるよな。

 ゴールドスライムとのエンカウントだけではなく、逃さずに倒せた事も含めて。


「……まさかコレもか?」


 俺が最初に割り振った【幸運】ポイント。

 それによって今の俺は超幸運人間になっているとか……有り得る。


「なぁ、ピィ。この世界でのステータスって、どんなもんなんだろうな」


「うーん。私にも分かりませんが、1000でもかなりの効果がありそうですよね」


「流石にこれじゃあチート過ぎないか?」


「別にいいじゃないですか! 私、強いマスターは素敵だと思います!」


 俺を見上げ、キラキラと瞳を輝かせるピィ。

 うん、まぁそれはそうだろうけども。


「宿屋を探す前に、顔を隠せるマスクか何かを買おう」


「そ、それはそうですね。私としても、マスターが他の雌豚に色目を使われるのは気分が悪いです」


「このままだと、宿屋のおばさんとかにも襲われそうだし」


 イケメンにはイケメンの悩みがある、とか都市伝説だろと思っていたが。

 いざ自分がモテてみると、これは確かに悩みになるかもしれない。

 

「お客様ー? お待たせしましたー」


「おっ、呼ばれたみたいだ」


 さっきの受付嬢に呼ばれ、俺はまた窓口に戻る。

 すると受付嬢は俺に、金色に輝く水晶を手渡してきた。


「こちらが120万ゲリオンの入ったマネークリスタルとなります。こちらの受領書にサインをお願いします」


「あ、はい……ハッ!? 読める、読めるぞ……!」


 受領書の文字が果たして読めるのか、という不安があったのだが。

 不思議な事に、俺は紙に書かれている文字を解読する事が出来た。

 

「しかも、この世界の文字で俺の名前を書ける……!」


「は?」


「い、いや! なんでもないです!」


 受け取った受領書にサラサラとサインを済ませて。

 俺は紙とペンを返す。


「はい、たしかに。今後もご利用をよろしくお願いします」


「ありがとうございました」


 お礼を告げた俺はピィの手を引き、足早にギルドを後にする。

 120万もの大金を持っている事を、ここにいる連中は知っているからな。

 下手に長居すると、何かトラブルに巻き込まれかねない。


「良かったですね。これでお金持ちです!」


「ああ。今夜は高い宿屋でパーッと盛り上がるぞー!」


「マスター! マスター! 私、ハンバーグが食べてみたいです!」


「ハハハハッ、勿論オッケーだ! 好きなだけ、好きなものを食べよう!」


「エビフライ! エビフライも付けてほしいです! タルタルソースの!」


「いいねぇ。というか、宿屋や服屋の前にご飯を食べに行こうか」


 俺とポイントカード美少女の異世界生活。

 その始まりの日。

いきなり色々あったし、なんだかステータスがバグってきたけど。


「えへへへへっ! 楽しみです!」


「……ふふっ」


 自分の事よりも何より。

 この子を幸せにする為に、いっちょ頑張っていこうと思う。


「あっ! カレー! カレーも捨てがたいです! オムライスも!!」


「毎日順番に食べていこうな」


「食べますっ!!」


 あー……父性がくすぐられるぅ~。



<<安藤流斗>>

【レベル0】

【体力】3001

【力】1001

【技】1001

【速度】1001

【防御】3001

【魔力】1

【幸運】1001 

【魅力】3001

【武器適正】

・剣 1(G)

・斧 1(G)

・槍 1(G)

・弓 1(G)

・杖 1(G)

【所持スキル】

・カード擬人化

(ポイントカードに肉体を与える事が出来る)

【残ステータス・スキルポイント】66999

【所持金】

・約120万ゲリオン(1ゲリオン=2円)←NEW!!

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