《新人退魔師茉依ちゃん♡》①

《あらすじ》

元退魔師の茉依ちゃんは元々内向的でナイーブだった!!

これはそんな茉依ちゃんが前職の会社に入ったばっかの頃のお話!!

茉依ちゃんはなんと……この会社を辞めたがっている!!!

それを引き止めるのはイカれた上司、大麻育子!!

つまり二人の馴れ初め話だぞ❤

(※主役は育子です)



《登場人物紹介》

今下いました茉依まい

当時18歳。高校を卒業後、すぐに退魔企業のオニゲシメディカルへと就職した。

実家が高名な退魔師の家系であり、将来有望な退魔師の卵。

でも本人は根っからの陰キャであり、戦闘行為を忌避している。

一人でアニメ観たりゲームしたり漫画読むのが好き。

運動と陽キャが嫌い。

初恋の人は野球部の彼❤



大麻たいま育子いくこ

花も恥らう3●歳❤ 名前は本名❤ 茉依ちゃん直属の上司❤

めちゃくちゃ強い退魔師であるが、現在は諸事情により前線から引いている。

社内でもトップの実力者であり、役職が上のジジイ達にもビビらない女傑。

趣味はセクハラ、特技はパワハラ。

好きなものはイケメン、高身長、巨根。

嫌いなものはブサメン、低身長、短小。

頭がおかしい❤




* * *




 今下茉依、18歳。高卒。彼氏居ない歴=年齢。根暗。処女。オタク。

 卒業後の進路、就職。


 就職先、オニゲシメディカル。

 配属先、第一開発部 開発課 商品開発室。


 業務内容、担当地区内に現れる異形の討伐――即ち、退魔師。

 人ならざるものを陰ながら討ち、人々の平穏を守るこの仕事に、彼女は誇りを――



「辞めたいです……」



 ――一切持っていなかった!!

 五月、一般的に新卒の社員が仕事を覚え始め、同時に絶望も覚え始める時期である。

 ゴールデンウィークという年内最後の希望を消化した新入社員の精神は脆い。


 どのくらい脆いかと言うと、大体ルマンドぐらいである。

 すぐボロッボロにこぼれる。


 茉依も例に漏れず、やつれた表情で上司――大麻育子へそう切り出していた。


「…………。ごめん聞こえなかったからもっかい言って」

「辞めたいです……」

「あーあー!! 聞こえなかったわァ!! 三度プリーズ!!」


「辞め「ヘェェェェイ!! 一旦落ち着こう今下くん!!」辞め「不屈かオイ!?」」


 取り乱しながら育子はどうにか茉依を制しようとするが、茉依は止まらない。

 これがその辺の社員なら、その退職希望を勘案しなくもないのだが。


(コイツだからなぁ……。入社一ヶ月で辞められたら流石にアタシの首飛ぶぞ……)


 内心で大きく溜め息をつきながら、育子は二ヶ月ほど前の光景を思い返す――



* * *



「……私が直接、新入社員の面倒を見るのですか?」

「うむ。データなどはこの後直接君のPCに送っておく。宜しく頼んだよ」


 自分よりも更にお偉いさんの部屋に呼び出され、そんなことを告げられる。

 育子は商品開発室の室長という立場だ。

 管理職であるが、そこまで上の役職ではない。


 が、それは一般企業の場合で、退魔師という区分で見た場合、育子はかなり上に位置する。

 要は退魔師としてクソ優秀であるが故に、役職以上の権限を育子は持っていた。


 ふーむ、と育子は少し迷う素振りを見せる。

 そして目の前の中年(頭頂部が寂しい部長職の男性)に、つかつかと近付き――


「説明が足ンねえわハゲ! テメーの毛根並によ!!」


 ――スパァァン!! 育子は遠慮なく部長の頭を平手打ちした。

 頭皮が見えているが故に、かなり良い音が鳴り響く。


「……。いやあの、私は君の上司……」

「うっせハゲ! 上下関係だけでアタシが動くと思うなよハゲ!」

「…………。年々態度がデカくなってくな君は……」


 退魔師としても社会人としても有能な育子だが、その実かなりの跳ねっ返りだった。

 オニゲシメディカル全体で見ても、彼女を制御可能な社員はごく僅かである。


 少なくともこの部長の命令を、育子はすんなりとは承諾しないようだ。

 部屋にあった椅子を引っ張り出し、対面するようにして育子は足を組んで座る。


「一から説明してくれますかぁ~。新卒の育成はもうちょい下の連中がやるべきだしぃ~」

「それはまあ、その通りだがね。今回は特例だ。今年の新卒については知っているかね?」


「人事のことは疎いんスわ。一応新卒全員の顔と経歴のデータは頭に入れてっけど」

「それは疎いとは言わん……」


「だってイケメン新入社員が居たら手取り足取り教えなきゃダメじゃん?」

「もう君も良い歳なんだから、そういう真似はやめなさい……」

「黙れハゲ!! レディに歳の話すンなや!! 残りの毛根イてまうどコラァ!!」


 今更な話だが、この部長は新入社員時代の育子の教育担当だった。

 社会人としては信じられないレベルの無礼も、二人きりの時は許容している。


 まあそれにも限度はありそうなものだが、部長は慣れたものだ。

 ごほんと咳払いして、改めて切り出す。


「――今下茉依、という新入社員だ。君に直接教育を頼みたいのは」

「ああ、あの。天神アマカミの血筋のアレね。今年の目玉社員スね。チッ、女かよ……」

「君に若い男を任せるわけなかろうに……」


 才能は、何事においても絶対的に存在する。

 歴史の長い退魔師にとって、それは血筋というものに依存して宿ると言われていた。


「天神一族……九州全土で広く顔が利く、退魔師の名門一族。素養は充分だろう」

「じゃあ九州あっちで就職すりゃいいのに。てか苗字変えてるし、何なんスかコイツ」


「プライベートなことは知らんよ。仲良くなってから彼女の口より訊きなさい」

「使えねえハゲだな」

「頼むからそういう態度を私以外の上役に取らないでくれよ……」


 退魔師の世界は案外狭く、また常に人材難だ。喪うことが多い故に。

 様々な退魔師が企業という形で縄張り争いする現代において、優秀な人材の確保は急務。


 なので恐らく、上の連中がコネで今下を強引に入社させたのだろうと育子は考えた。


「まあ別にその新卒に興味ないけど。で、何でアタシなの? もっと良い部署あるっしょ」

「それはまあ、そうだね。しかし我が社で一番強い退魔師は……残念ながら君だ」


「残念って何だよハゲ 頭皮エグんぞ」


「そういう部分だ……。とはいえ役員達からの命令につき、拒否権は無いと思ってくれ」


 要するに、お偉いさん達がメチャクチャ期待している新卒を、育子が手ずから育てろ……ということだ。

 育成能力はさておき、最も実力のある者が、才能ある者を育てるというのは理に適う。


 今は管理職として現場から退いているとはいえ、お鉢が回ってくるのも納得である。

 そのくらいに育子は、退魔師として別格の実力を有していた。


「肝煎り案件っスね~。アタシが新卒の面倒見るのなんて何年ぶりだと思ってんだか」

「長いもんなぁ、君がここに入って」


「長くねェわハゲ!! ピッチピチやぞ!?」

「両手で数え足りない勤務年数の者はベテランと呼ばざるを得ないだろうに……」

「ケッ。つーか、あれスわ。あたしに任せたこと後悔すると思うけど、いいの?」


「…………まあ、その時は一切の責任を君が負うだけだしぃ」

「ふざけんなハゲ!! テメェらの任命責任はテメェらが取れや!!」

「だって新入社員潰すやつが普通に一番悪いじゃん……?」


 新人を一から育てるということは、育子が一時的に現場へ復帰するということだ。

 これまで育子は直接的に新人を育てたことがあまりなかった。


 理由は単純で、誰もついて行けないからである。

 スパルタな育子は、そのまま新人を潰してしまう。

 実際これまで何人か潰してしまった。


 それはそれでめっちゃ怒られたが、今回はかなり事情が異なる。


「こちらとしては今度の新人は丁重に扱え、としか言えんね。くれぐれも潰さないように」


 部長が鋭い目になる。もし、その今下茉依とやらを潰した場合――


「潰したら馘首クビにするってか、アタシを」

「うん」

「即答すんなハゲ!! 超絶功労者だろがアタシは!!」


 ――どうやら育子も共倒れになるようだ。

 クソ面倒な仕事だと育子は素直に思った。


「それはそうだがね……。ぶっちゃけ君は社内でだいぶ嫌われ者な側面あるし……」

「おう誰だアタシを嫌うヤツは? 名前言えよ 全員殺しに行くから」

「だから君のそういう部分がもう昭和を超えて戦国なのよ……」


 これでも育子は昔に比べるとかなり落ち着いた方である。

 新人の頃はもう狂犬が人間に化けたとしか言えないような荒くれ者だった。

 部長はそのことを思い出して胃を痛めつつ、もう一度忠告をする。


「ともかく! 今下さんは蝶よ花よとばかりに育てなさい」

「知るかハゲ。どうせやるならアタシのやり方でやっから。指図したら毛根だけ殺すぞ」

「………………」


 こいつホンマ野良犬より言うこと聞かねえわ――部長は肩を落とした。

 これに肝煎りの新人を育てさせるのは明らかな任命ミスだろう――と。


 その思考を先読みしたのか、しかし育子は退室する直前に一言だけ残した。


「そもそも――に潰される時点で大した退魔師にゃなれねェだろ」






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