第44話 俺の想い



 妹夫婦の本音を聞けたことで、俺もひとつの決心をした。


 ライセンスカードをテーブルに出して、二人に見せる。


「黙ってたけど、ランク10になったんだ」


「えっ! いつの間に?」


「先月な。一花いちかが騒ぐから秘密にしてたんだ。あいつらには、まだ言わないでほしい」


「そっかぁ。わかったけどさ、一人で行ってたの?」


「そうだな。ソロで潜ってた」


「兄さん! 危ないことしないでって頼んだのに、嘘つき! もう、知らない!」


 妹がプリプリ怒っている姿を久しぶりに見た気がして、なんだか懐かしい。


 こんな感じで、よく怒られてたっけ。


 ほとんどは、俺が原因だったが……。


「悪かった。今後は無理せず安全第一でやるからさ、許してくれ」


 顔の前で両手を合わせ、ゴメンのポーズで謝る。


「兄さんは、いつもそうなんだから! 私ばっか歳取ってるし、悔しい」


 えっ? 歳は関係あるのか?


「母さん落ち着きなさい。蒼大そうたくんなりの考えがあってのことだろう。そうだろう?」


「狙った魔力渦へ行くためには、ランクアップするしか方法がないんだ。

 俺が自由にできる時間は、月末までしかないから、急いだ。

 隠していたことは謝る」


「フンだ。それで? 続きあるんでしょ?」


「そうだな。ここからが本題だ」



 その後、俺は国連からの借金50万を返済しても、ちゃんと貯金が残るとライセンスカードの残額を見せる。


 シーカーは、稼ぎは多いが出費も多い。


 ハイリスク・ハイリターンの仕事だと知っているだろうが、見せた方が早いだろうと思った。


 実力があれば稼げる事実を知ってもらい、妹夫婦に少しでも希望を持ってもらいたかった。


 稼ぎに応じて、安全性が上がる装備を揃えることもできると、知ってほしかった。



 そして、世話になった礼と、あいつらの卒業祝いとして、ある程度のお金を渡すつもりだと伝えた。


 妹夫婦は俺が現金を出すことを渋るが、それは予想している。


「将来あいつらが稼いだら返してくれればいい」


 そう言いくるめた。


 この夫婦は、俺から見ると理想の家庭を築いているように見える。


 妹だからと目が曇っている部分もあるだろうが、この家族には全員揃って幸せでいてほしいと思う。



 もうひとつ、伝えておくことがある。


「あの二人を、俺なりに試してみたいんだが、いいか?」


「何かするの?」


「そうだな。何をするか今は言えないが、俺のことを信用して任せてほしい」


「兄さんのことは信用してるけど、教えてくれないのは、どうして?」


「あいつらに気づかれたくないからだ。

 学校で勉強すれば、誰でもシーカーになれるってことはない。

 武力以外の適正ってのがあるから、それを試してみたいんだよ」


「わかった。兄さんに任せるよ。お父さんもそれでいい?」


「あぁ。かまわない」


 二人の承諾は取ったから、明日にでも試してみるか。


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