第15話 自立歩行



 この世界に戻って二ヶ月が経ったころ。


 リハビリの成果が出てきて、松葉杖で身体を支えれば歩けるようになった。


 自室でできるトレーニングはダンベルくらいしかなかったから、これでトレーニング機器を増やしてもらえるだろう。



 それから数日後、情報端末に高等部の教科書が入った。


 一般教養学校、

 魔法学校、

 魔法戦闘学校、

 探索者養成学校、

すべての学校の全教科書が揃ってるから、かなりの数がある。


 多すぎるだろうと思っていたら、岩沼さんが、


「一般教養学校と、探索者養成学校の内容を押さえておけば、困ることはないでしょう」


 全校共通の内容が、かなり多いらしい。



 中等部の教科書を読み始めて一ヶ月だが……。


 用意してもらった娯楽小説が面白くて、つい読みふけってしまったと反省。


 26年の空白を埋めるには、それなりの時間が必要になるよな?


 あせる必要はない、と自分に言い聞かせるが……。


 よく喋る看護師の鹿妻さんでさえ履修済みだと考えると、少し落ち込む。


 バカにしている訳ではないが、話しの内容が余りにもアホっぽいから、比較対象として引き合いに出してしまった。




     ◆




 さらに20日が過ぎて、やっと松葉杖を使わなくても歩けるようになった。


 まだヨチヨチ歩きしかできないけど、自分の足で立てることが凄く嬉しい。


 だというのに、『遠出をするから』と言われ車いすで運ばれている。


 エレベーターに乗って、俺ははじめて病室のあるフロアからの脱出に成功した。



 エレベーターから出ると、眩しい陽の光と、海の香りを含んだそよ風に包まれた。


 太陽の光を手で遮りながら、前方を見る。


 車いすは屋上を進み、端のフェンス手前で停止した。


 俺は車いすから立ち上がり、思わずフェンスにしがみつく。


 気がつくと、力いっぱいフェンスを握りしめていたせいで指が痛い。


 空の蒼。


 海の青。


 彼方の水平線では2色が混ざり合い、大気がユラユラとうごめいている。


「あぁ、やっと帰ってきたって実感できた!」


「良かったですね」


 声のした方を見る。


 海風を浴びて髪をサラサラと揺らしている鹿妻さんが、ニコリと笑いかけてくれた。


 太陽の光を浴びてキラキラと髪を輝かせている彼女は、まるで女神のよう。


「今日まで、世話をしてくれて感謝している。ありがとう」


「あっははー。それが仕事ですからねー」


 ちくしょう!


 やはり、女神に見えたのは一瞬の気の迷いだったか!


 見た目で判断するのはよくない。


 異世界で学んだことを、自分に何度も言い聞かせる。


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