第14話 情報端末



 この世界に戻って来て一ヶ月が経過した。


 リハビリを続けているが、車いす生活からの脱却はできていない。



 朝食が終わったタイミングで、事務員の岩沼さんがやって来た。


「おはようございます。

 今日は新しい支給品を持って来ました」


 そう言って取り出したのは、タブレット端末だった。


 今の時代では”情報端末”と呼ぶようで、画面は10インチで、とても薄くて軽い。


 使い方の説明を受け、電源オン。


 画面にはアイコンが並んでいて、俺が知っているスマホとかと使い勝手が似ている。


 これは特殊な端末で、ネットには接続できないそうで残念このうえない。


 あらゆる情報へのアクセスは、まだ規制されるようだ。



 端末の中には、小・中等部の教科書一式と、暇つぶし用の娯楽小説が入っていた。


 中等部の教科書の中から、数学を流し読みしてみる。


 2年生の教科書に知らない公式が載っていた。


 それは二次関数で、俺の時代では高校で教わるものじゃないかな?


 このままだと、今の時代の中等部卒より勉強の出来ないダメな大人になってしまうかも?


 そんな焦りを感じてしまう。


 二次関数を知らなくても、己の肉体を鍛えて戦闘力を上げれば生き残れる!


 それもひとつの方法だろうが、多くの知識を身に着けておいて損はない。



 たとえば、魔獣の砦を攻略する場合。


 ファイヤーボールをどの角度で打ち出せば、砦の中に攻撃が届くのか?


 その計算ができれば効率がよくなる。


 パーティーメンバー各個人の戦闘力を上げることは基本戦略。


 それ以外の部分で敵を出し抜く方策を練らないと、数で勝る敵に力技で負けてしまうこともある。


 異世界から召喚されたと言っても、俺には特別な力があるわけではない。


 一騎当千の活躍なんてできない、普通の人間だ。


 だから俺は、異世界での知識を貪欲に貪り、生き残るための作戦を練り続けていた。



 この一ヶ月は、久しぶりにのんびりと過ごすことができた。


 休暇は終わりにして、これからは勉強も頑張ることにしよう。


 幸い、自習の時間はたくさんある。


 知識のリハビリを開始するとしよう。


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