第四話「クリスマス?いいえ誕生日です!」

【一章】私の特別

 十二月になり冬の寒さが本格化してきた今日も寒さに震える。バイトから帰宅して夕食を食べ、風呂でのんびりしていれば、冷えた体は温まって行った。だが凛はどこか浮かない顔をしながら自室のベッドに寝転がる。スマホのカレンダーを見て、二十二日に赤色が付いているのを再確認する。


(日曜は部活ない、はず……)


 十二月二十二日は、凛の誕生日だ。クリスマスが近い事もあり、クリスマスと一緒に祝われる事も多いが、それでも今年の誕生日は日曜なのだ。

 葵の連絡先を開いて、でも何を打てばいいのか判らなくなる。否、本当は判っている。だけど、凛と葵は恋人同士ではない。クリスマス直前の休みには大切な人と予定があるかもしれない。


(特別だから、いいよね?)


 何が特別なのか。凛にとっては誕生日も葵も特別だ。だから、特別な日に特別な人と過ごしたいと思ってしまうのは自然な事。葵に予定がない事を祈りながら、ベッドに座ってメッセージを入力していく。予定が空いているかという簡潔な質問だけ送ってみた。

 すぐに既読は付く。だけどいつもすぐ来る返事が来ない。予定を確認しているのかもしれない。少しだけ待ってみて、だけど一向に返事がないまま数分が経過した。

 

(だめだったの……かな?)


 だから返事に悩んでいるのかもしれない。どうやって断れば凛を傷つけないのか、慎重にメッセージを入力している。きっとそうだ。もう判ってしまった返事を見るのが嫌になってしまう。画面を閉じようとスマホに指を近付けた。


『空いてるよ』


 その瞬間に葵から返事が来た。トーク画面を開いたままだったのがバレてしまっただろうが、その返事に凛は目を丸くする。だけど冷静になって返事を入力していく。


『クリスマス近いから、一緒に遊びに行きたいなって!』

『良いね。行きたい所はある?』


 順調に話が進んでいき、行きたい場所と集合時間を決めて連絡は終わった。十日後に迫った誕生日が益々楽しみになってしまう。今からどの服を着て行こうかなんて考えるのが楽しくなってしまう位には特別な日にしたいと、凛は幸せそうにベッドに寝転んだ。



 *



 翌日も昼休みには三人で昼食を摂っていた。どこか落ち着きのない凛。楓は凛の誕生日を知っているので、それだろうか?と思いながらいつもの様に昼食を摂っている。だが落ち着きのない子がもう一人。凛の隣で黙々と弁当を食べる葵もどこか落ち着きがなく、なんとなく楓は察する。誕生日の翌日どうなってるだろうかと、色んな意味で楽しみが増えた楓は面白そうな笑みを浮かべて、落ち着きがないまま昼食を摂る二人を見ながら弁当へ箸を動かしていく。


「あ、凛、今日バイトないでしょ?」

「え? ないけど?」

「じゃあちょっと付き合って」

「ん? うんいいよ!」


 楓から放課後に誘いがあるのは珍しいのだ。だから驚きつつも、久しぶりに楓と一緒に帰れる事が凛は嬉しくなる。


「ぼ、僕も行っちゃ駄目……?」

「部活どうすんのよ?」

「う、そ、そうだけどさ」

「たまには凛を独り占めさせて欲しいのよねー」


 最近凛は葵と過ごす時間が多い。だからと言って楓は不満がある訳ではないが、大切な友達と過ごす時間を増やしたいのは楓も一緒なのだ。それに葵は冬の大会も近い。サボったら何を言われるか解らない。それ所か信用を失うだろう。だから渋々諦めて、楓に顔を近づけた。


「何があったかは報告して」

「んー、まあいつかは、ね」


 内緒話をする二人が可愛いなと凛は思う。女同士で話したい事もあるだろうし、三人での関係も勿論だが、もっと二人と仲良くなれたらいいと、少し照れながら言い争っている二人を見つめていた。



 *



 放課後、楓が部活を終えると、教室にいる凛を迎えに行ってから二人で校門を出る。楓は近くの雑貨屋に行きたいらしく、楓が雑貨屋なんて珍しいと思いながら久しぶりの楓との時間を楽しんでいる。

 雑貨屋に着き、アクセサリー売り場で悩む楓の隣で、凛も新しく髪留めを買おうかなんて選び始める。


「これがいいかな」

「おお、大人!」


 真紅の細いリボンが付いた髪留めを楓はレジに持っていく。少しして凛は、楓って髪留め使うのだろうかと疑問に思った。結べない程ではないが楓も髪は短い。でも楓が真剣に悩んでいたし、いいのかと思いながら楓が会計を済ますと店の外に出て、凛に先程買った髪留めを渡している。


「ちょっと早いけど、誕生日プレゼント」

「え!? あ、ありがとう……! 似合うかな……」

「うん。きっと葵も好きだと思う」

「え!?」

「デートでもするんでしょ?」


 何故デートの事を知っているのだろうか。葵から話したのだろうか。否、違う。これは楓の察しが良すぎる結果にバレてしまっているのだと、凛は気付いた。


「付けて行かないと泣くから」

「え!?」

「いや泣きはしないけどさ。絶対、好きだと思うのよね」


 その楓の言葉に髪留めを見つめる凛。凛にしたら大人っぽいリボンなので、似合うか不安はある。だけど楓が真剣に選んでくれて、自分に似合うと思って買ってくれたのだから、きっと似合うのだろう。葵もこういうのが好きなのだろうか。凛は女子の様な行動をするけども、本当の女子の気持ちは解らなかったりするのだ。でも、そんな大切な二人が喜んでくれるから、大切にしようと思う。


「絶対につけてくね!」


 そう満面の笑みを見せた凛に、楓も嬉しそうに笑って、帰路に着いた。

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