第38話 村の少女と友だちになる。

「おわったよ~」


 コロニーを壊滅させた二人が村に戻る。


「えっ!? もうですか?」


 出発してから三〇分もたっていない。

 村長は信じられないといった顔つきで二人を出迎える。


「うん。誰か、確認に行ってよ。クロードが案内するから」


 クロードが村人の男を連れて森に向かった。


「ねえねえ?」

「ん?」


 ユーリに一人の少女が話しかけてきた。

 歳は一〇歳くらい。青い髪の少女だ。


「わたしはフミカ。あなたは?」

「ユーリだよ」

「ほんとうに冒険者なの?」

「そだよ」


 ユーリが冒険者プレートを見せると、フミカはキラキラと目を輝かせる。


「うわぁ~、ホントだ。ユーリちゃんってスゴいんだね」

「まあね」

「冒険者ってモンスターを倒したりするんでしょ?」

「そうだね。さっきもゴブリン倒してきたよ」

「えっ、あの男の人じゃなくて?」

「うん。クロードは見てただけ。私が全部やっつけたよ」

「えええ!?!?」


 フミカは確かめるようにユーリの腕を握る。


「わたしより細くて小さいのに……」

「力はなくても、魔力があるからね」


 ユーリは落ちていた木の枝を掴み、上に放り投げる。

 そして、腰のダガーを抜く。


 ヒュンヒュンヒュン――。


「魔力を使えば、こんなこともできるんだ」


 言い終わったユーリの手に、2センチに刻まれた枝の破片が落ちてくる。

 木片はひとつの漏れもなく、すべて手のひらに収まった。


「えっ、なに、なにやったの?」

「投げた枝をコイツで斬っただけだよ」

「ええ~!? なんにも見えなかったよ~」

「これくらい、鍛えれば誰でもできるよ」


 優秀な人間というのは、自分にできることは当たり前で、誰でもできると思いがちだ。

 できないのは努力が足りないから――とできない人を見下す。


 ユーリはそうではない。

 彼女が「誰でもできる」と言ったら本当に「誰でもできる」のだ。

 ただ、その「鍛えれば」というハードルが異常に高すぎるだけだ。


 ユリウス帝の軍に所属する者は「誰でもできる」ことができるようになるまで、鍛えられる。

 死んだ方がマシだと投げ出したくなるが、それでも鍛えられる。

 そうやって、不撓ふとうの軍ができあがるのだ。


「やっぱり、ユーリちゃんってスゴいんだね」

「鍛えないと生きていられなかったからね」


 遠い目をするユーリに同情したのか、フミカが抱きついた。


「ユーリちゃん……かなしそう」

「…………大丈夫だよ。今は、一人じゃないし。楽しく生きてるよ」

「ユーリちゃん」


 フミカはギュッとユーリの細い身体を抱きしめ、それから、そっと身体を離す。


「ねえ、ユーリちゃん。お友だちになってくれるかな?」

「うん。もちろんだよ」

「やったー」


 フミカは飛び上がって喜ぶ。


「村にはわたしと歳が近い子どもがいないんだよね。だから、ユーリちゃんとお友だちになれて嬉しいな」

「私もだよ。知り合いの子はいるけどね」

「もういっかい、ぎゅってしてもいいかな?」

「うん」


 フミカは感激しているが、ユーリはそれ以上だった。

 友人――前世では得られなかった。


 配下か敵か――それがすべてだった。


 心の中に生まれた温かさに、ユーリは戸惑いを覚える。


「ユーリちゃんって、お姫さまみたい。それにキレイな髪」


 フミカはユーリのストロベリーブロンドのふわりと流れる髪に憧れの眼差しを向ける。


「さわっていいよ」

「うわぁ、さらさら~」

「フミカの髪もキレイ。空みたいな色。私は好きだよ」

「ええ、そんなことないよ~」


 褒められて嬉しかったようで、フミカの頬にさっと朱が差す。


「そうだ。村を案内してあげるね」


 フミカはユーリの手をとって、歩き始めた。


「いい村だね。みんな幸せそう」

「でしょ? みんな家族みたいなんだよ」


 貧しい寒村だ。

 だけど、ユーリにとっては羨ましい。


 皇帝時代には、小さな農村まで視界は届かなかったし、そこで暮らす者の生活は想像できなかった。

 あのとき、村人たちは幸せだったのか――今のユーリには知るよしもない。


「そうだ。いいこと思いついた。ちょっと、村長と話をしてくる」

「ついていってもいい?」

「じゃあ、二人でいこう」







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ゴブリン討伐依頼を完了する。』


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