第37話 ゴブリンコロニーを壊滅させる。


『――【身体強化ライジング・フォース】』


 ドン――という音とともに、ユーリは飛び出した。

 発射された弾丸のように。


 ゴブリンにとって、いつもと変わらぬ日常。

 それが破られたと理解したときには、すでに一八体のゴブリンが死んでいた。

 襲撃に気づいたリーダーが配下に命令する。


 それに従い迎撃態勢を整えるが。

 ユーリは高速で戦場を駆け抜け。

 一刀でゴブリンを亡き者にする。


 ユーリが一歩踏み出すたびに、土煙が上がる。

 至るところで血しぶきが上がり、空気が赤くかすむ。

 外から見たら、なにが起こっているのか把握できないだろう。

 蹂躙の中にいるゴブリンたちは、混乱の極みだ。


 ほとんどの者は、気がつく前に死んでいる。

 なんとか反応できた者も、その瞬間に殺される。

 通常種のゴブリンでは、ユーリの勢いを落とすことすらできない。


 ――一分経過。


 通常種ゴブリンは全滅。

 残りは上位種と、ボスであるリーダーのみ。


 ゴブリンリーダーは一番奥に控える。

 ゴブリンアーチャーは矢をつがえる。

 ゴブリンマジシャンは詠唱を始める。

 ゴブリンナイトは彼らの前で構える。


 リーダーが棍棒を振り下ろし、攻撃を命じた。


 飛んでくる矢と魔法。

 威力よりも手数を優先した広範囲、高密度の攻撃。

 回避するのは不可能――そう思わせる攻撃だ。


 ユーリは怯むことなく。前に駈け出す。

 回避は最小限。当たる攻撃は【身体強化ライジング・フォース】で無効化する。


 彼女の接近にゴブリンナイトが仲間を守ろうと立ちふさがるが、彼女にとっては通常種のゴブリンと大差ない。

 あっという間に斬り伏せ、ついでにアーチャーやマジシャンも容易く葬る。


「あとは、キミで終わりだね」


 ――グルゥウゥ。


 ヨダレを垂らしたリーダーが唸る。

 並みの冒険者なら怯えて、すくんでしまうだろう。

 だが、ユーリは残念に思っただけだ。


「知性はないんだね。話せないなら――」


 ――スパン。


「――用はないよ」


「ムゥ?」


 彼女は、もしできるなら、リーダーと会話してみたかった。

 上位種のモンスターは高い知性を有し、会話できる者も存在する。

 だが、リーダーにはそこまでの知性はない。


 がっかりしたユーリが動き。

 リーダーが違和感を覚え。

 元の場所に戻り。

 リーダーの首が地面に落ちる。


「おーわりっと」


 ユーリはダガーを鞘にしまい、全身を見回す。

 彼女が身につけているのは布の服。

 上質な生地を使っているが、防御力は皆無だ。

 利点といえば、軽くて動きやすいこと。


 戦闘用の防具ではないが、「当たらなければ一緒」と考えているので、彼女にとってはこの服で十分だ。

 そんな彼女が服をチェックする理由――それは彼女が自分に課したふたつ目の制約を守れたかどうか確認するためだ。


「うん。一滴もついてないね。よしよし」


 ふたつ目の制約。それは――返り血を一切浴びないこと。

 この制約は二分という時間制限よりも、はるかに難しい課題だ。

 今の身体でできるかどうか――その限界を知っておきたかった。


「まあ、これだけ動ければ、とりあえずは合格かな」


 ふたつの課題をクリアでき、ユーリは満足そうに頷く。


「どうだ、クロード」

「二分ぴったりです。相変わらず、すさまじいですね」

「準備運動にもならなかったよ」


 身体に染みついた最適な動き。

 体力はなくても、これだけ動ける。


 ユーリはニヒヒと笑って、胸を張る。

 クロードはユーリの望みを学習していた。

 大きな手のひらで、ユーリの髪をクシャクシャにする。


「うむ、大義である」


 ユリウス帝が顔を出したのではなく、幼女が大人の真似をして背伸びしている様にしか見えない。

 この生活を送っているうちに、ユリウス帝らしさは日を追うごとに薄まってきた。

 ロブリタ家に乗り込んだときのように激高した場合以外は、ほとんど顔を出さない。

 クロードも前世の主であることを忘れてしまいそうになるくらいに。

 そして、ユーリと自分の新たな関係に慣れ始めていた。


 クロードの行動は正解だったようで、ユーリは気が済んだようだ。

 ご機嫌で告げる。


「後は任せたぞ。拾いやすくしてやったからな」


 ゴブリンを倒したという証明が必要だ。

 モンスターを倒した証明には、身体の一部を持ち帰る必要がある。

 ゴブリンの場合は左耳だ。


 しかし百体を超えるゴブリンにそれは面倒くさい。

 なのでユーリはすべてのゴブリンの首を切り落とした。

 耳があればいいのならば、頭ごと持っていけばいいと。


「死体は?」

「村人に確認させた方がいいでしょう」

「そうだね」


 たいした時間もかからず、クロードは作業を終え、二人はこの場を後にした――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『村の少女と友だちになる。』


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