第36話 ゴブリン退治に向かう。

「ここがホーヘン村だね。思っていたより小さいね」

「農村はどこもこれくらいです」


 ホーヘン村は百人足らずの村だ。

 二人が馬から下りると、近くにいた男が「少々お待ちください」と村の中に駈けていった。

 しばらくして、老人の男が現れる。

 そして、離れた場所から、村人が様子をうかがっていた。


「わたしはこの村で村長をしております、タリスという者です。冒険者のお方とお見受けしますが」

「うん。依頼で来たんだよ」


 ユーリが依頼票を見せると、村長の視線はユーリとクロードの間を行き来して、やがて、落ち着く。

 幼いユーリに不安を感じたが、クロードが立派な冒険者だと悟り納得したようだ。

 なぜ、幼女を連れているのは謎に思ったが、それ以上の詮索は控えることにした。


「こんな寒村までわざわざお越しいただき感謝いたします」

「依頼だからね。気にすることないよ」


 クロードではなく、ユーリが受け答えするのを、村長は不思議に思った。


「ゴブリンが出たんだってね。詳しく教えてよ」

「はぁ、それが――」


 村長の説明を受け、ユーリは「なるほどね。わかったよ」と頷く。


 子どもがこの話を聞いたら怯える。泣き出す子もいる。

 なのに、ユーリはまったく変わらぬ表情だ。

 村長は不気味なもの見るような目をユーリに向けた。


 村長の話では、数日前から村近くの森でゴブリンが数体いるのを村の者が何度か見かけたそうだ。

 その話を聞きユーリはクロードを見る。

 クロードの表情から、急いだ方がいいと彼女は判断した。


「さっそく、倒してくるね」

「では、案内の者を――」

「いらないいらない」

「ですが――」

「ここまでにおってくる」

「臭いですか?」


 村長だけでなく、他の村人も感じ取れず、しきりに首をかしげる。

 だが、ユーリもクロードもゴブリンの臭いを嗅ぎとっていた。


「大丈夫、すぐに終わらせるよ」

「そうですか……」

「ねえ、クロード?」


 村人を安心させるため、クロードに振る。


「はい。まったく問題ありません。一時間もかからないでしょう」


 いかにも凄腕冒険者だと分かるクロードの言葉に、村人たちはようやく安心できた。

 ヴァイスとカレンを預け、二人は森に向かう。


「一〇〇体くらいかな?」

「一一三体です」

「うーん、この身体はまだまだだね」


 森に入る前に、二人はゴブリンコロニーの存在を把握する。

 それだけでなく、クロードは具体的な数字までわかる。

 だいたいの数がわかるだけでも、十分凄いことなのだが、ユーリは納得していないようだ。


「違うのも何体かいるね~」

「上位種ですね」


 クロードは説明する。


 通常のゴブリンだけでなく。

 武器を持つゴブリンファイター。

 弓を構えるゴブリンアーチャー。

 魔法を使うゴブリンマジシャン。


 そして、それを統べる――ゴブリンリーダー。


 今、コロニーで一番強いのはゴブリンリーダーだが、コロニーが大きくなると、ボスも成長し強くなる。

 ゴブリンリーダー、ゴブリンジェネラル、ゴブリンキング、そして、ゴブリンエンペラー。


「ゴブリンキングならBランク、エンペラーならAランク冒険者でないと厳しいです。今回は早期発見できたので、そこまで育っていなかったですね」

「詳しいね」

「一応、Aランク冒険者ですから」


 クロードがこの知識を得たのは今生になってからだ。

 前世では二人とも、この程度のモンスターを相手することはなかった。

 大抵は軍で対応できたし、二人の出番と言えばドラゴンなどの最上位種モンスターだけだ。


「クロードならどれくらいかかる?」


 もちろん、魔法を使えば一瞬で焼け野原の完成だ。

 そういう意味ではないと、クロードも承知してる。


「【身体強化ライジング・フォース】アリなら10秒。なしでも20秒ってところでしょうか」

「前世とあまり変わっていないんだね」

「ユーリ様がいつ現れても対応できるよう準備してましたから」


 クロードは事もなげに告げる。

 彼にとっては至極当然なことだった。


「私ならどれくらいかかると思う?」

「三分……と言いたいところですが、二分で終わらしてしまうのでは」


 客観的にユーリの戦力から判断すると、三分というのが妥当なラインだ。

 だが、クロードは知っている。

 本気を出したユーリは、常識を超えた強さを発揮すると。


「じゃあ、期待に応えないとね」


 クロードに向かってウィンクすると、ユーリはダガーを抜く。

 前世を思い出すかのように、ユーリを取り巻く空気が張り詰めた。


 今回、ユーリは自分にふたつの制約を課していた。

 ひとつ目は二分以内にゴブリンを全滅させること。

 そして、もうひとつは――。


『――【身体強化ライジング・フォース】』


 ドン――という音とともに、ユーリは飛び出した。

 発射された弾丸のように。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ゴブリンコロニーを壊滅させる。』


【宣伝】


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