第35話 ゴブリン討伐依頼を受ける。


 ――ロブリタの件から、一週間後の朝。


 ユーリはクロードを伴い、冒険者ギルドを訪れていた。

 今日はアデリーナがルシフェを見ていてくれるということで、久々に二人で依頼をこなすつもりだ。


「おめでとうございます。ユーリさんはDランクに昇格です。この年齢、登録してからの日数。どちらも、新記録ですね」


 ユーリにとっては些末なことだが、屈託のない笑みを返す。

 その笑顔に受付嬢の頬がほころぶ。


「Eランクは街周辺での依頼だけでしたが、Dランクになると、街から離れた依頼も受けられます」

「そうなんだ。たとえば、どんなの?」

「ダンジョンや僻地での討伐・採集依頼。他にも、護衛依頼なんかがあります。後は実際に掲示板で確認ください」

「うん、わかった! ありがとっ!」


 ユーリはクロードを連れ、掲示板に向かう。

 昨日まで見ていたEランク向け依頼の隣がDランク向け依頼になっている。

 いくつも並ぶ依頼票のうち、赤線が引かれたひとつがユーリの目を惹く。


「クロード、これは?」

「ああ、これは緊急依頼ですね」

「へえ、そんなのがあるんだ」

「はい。昨日は貼られていませんでしたね」

「じゃあ、一番乗り?」

「いえ、この時間になっても残っているということは、不人気な依頼でしょう」


 クロードは依頼票に顔を近づけ、詳細を確認する。


「やはりそうですね。これは割に合わない依頼です」

「よし、じゃあ、それにする!」


 ユーリは依頼票に手を伸ばそうと背伸びするが届かない。

 その場でぴょんぴょんとジャンプしても、あとちょっと届かなかった。


「むぅ。クロードお兄ちゃん、抱っこ」


 そう急かされ、クロードはユーリの脇に手を入れ、彼女を持ち上げる。


「ありがと」


 ユーリは依頼票を剥がし、クロードは彼女を下ろす。


「へえ、ホーヘン村付近にゴブリンが現れたと。それで、ゴブリンがコロニーを作っている可能性があるかも。それを調査し、可能ならば壊滅させる、か。なんで、不人気なの?」

「ホーヘン村はこの街から歩いて一日。たまたまゴブリンが現れただけであれば、報酬が安すぎます」

「ゴブリンは弱くて安いからね」


 ただのゴブリン退治なら、今までも何回かあったし、ユーリには弱すぎるモンスターだ。


「そして、ゴブリンコロニーがある場合は、Dランク冒険者には危険が高すぎます」

「そっか。緊急依頼ってことは、早くなんとかしないとホーヘン村が危ないってことだね」

「そうですね。コロニーがあるのなら、数日ももたないと思います」

「それなのに、受け手がいないんだ」

「こういうのは高ランク冒険者が善意で引き受けるのです」

「へえ、冒険者も捨てたものじゃないね」

「なので、それほど心配する必要はないかと思いますが……」


 ユーリは依頼内容を理解して、にっこりと微笑む。

 まるで「今日はプレゼントを買いに行こう」と言われた幼女のごとく。


「やはり、そうなりますよね」

「うん。今日はこの依頼だね」

「承知いたしました」

「クロードは行ったことある?」

「いえ、生憎と」

「そっか。じゃあ、ヴァイスで向かおうね。カウンターに行ってくる」


 ユーリは待ちきれずに駆け出す。

 そして、手続きを済ますと――ギルドを飛び出し、ヴァイスのいる厩舎に向かった。


「おっちゃん、おはよう!」

「おはよ。ユーリお嬢ちゃん。どっか行くのかい?」

「Dランクになったからね。ホーヘン村に行ってくる」

「ええ、もうDランクかい? その歳でDランクなんて、聞いたことないよ。まあ、でも、ユーリちゃんだからなあ」

「えへへ」


 ユーリが厩舎に入ると、他の使役獣たちが身を低くする。


「みんな、おはよっ。そんなにかしこまらないでよ」


 獣だから知っている。

 自分とユーリ、どちらの格が上かと。

 そんな中を軽い足取りで歩き、ヴァイスの房へ向かう。


「いいこにしてた?」


 ヴァイスはぶるるといななく。

 ユーリが扉を開くと、ヴァイスはユーリに鼻先を押しつける。


「しばらく、ほうっておいてゴメンね。今日は、お散歩だよ」


 ユーリとヴォイスが歩くと、まるで皇帝の行幸のように、皆、こうべを垂れる。


「クロードはおっけー?」

「はい。いつでも出られます」


 クロードも白馬をつれていた。

 ヴァイスには及ぶべくもないが、立派な駿馬だ。


「良い馬だね」

「カレンという名です」

「カレン、よろしくね」


 ユーリはその白馬の首筋を撫でてから、ヴァイスにまたがる。

 続いて、クロードもカレンの背に乗る。


「よ~し、しゅっぱ~つ!!」

「御意」


 今日はヴァイスの全力を出すつもりはない。

 カレンがついてこられるスピードだ。


 ホーヘン村までは歩いて一日。

 だが、二頭にとってはすぐそこだ。

 一時間足らずで村に到着した。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ゴブリン退治に向かう。』


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