第8話 昔話

 お姉ちゃんがあたしに、昔の話をしたのは、あたしが十三になってからだった。


「願いの存在を知らなければ、当然、使うことはできないよね? そうすれば、なんでも願いを叶えられる力を、得られる。悪い大人がそう考えたから、まなはずっと、魔法から隔離されてたんだよ」


「そういうこと――」


「願いを使えるようになるには、八年かかる。それなら、まだ願いを使ってなさそうな、まなを捜す方が、早いでしょ?」


「それで、あたしは土を布団にしなきゃならないわけね……」


「そういうこと」


 隠れるみたいに、森の中で暮らして。土や木や葉っぱの上で寝て。


 本当に、たまーに、ベッドで眠ることはあるけれど。お金も身よりもないあたしたちには、贅沢がすぎるから、一年に一回、あるかないかで。


「分かってはいたけれど。改めて説明されると、色々と、実感するわね――それにしても、サンタさんはどうやって、わたしたちの位置を調べてるのかしら?」


 じと、と、私は隣の人物に、疑いの眼差しを向ける。


「お姉ちゃん、では、ないのよね?」


「……え? そんなこと考えてたの? あははっ、ないないない! だって、いつかに、まながもらったやつ、家が買えるくらい高いものだったじゃん。無理無理」


「そう、よね。じゃあ、本当にサンタさんは、存在するってことね」


 サンタさんになりたいけれど。きっと、すごい魔法が使えないと、なれないのだろう。


 あたしは、ただの一度も、魔法を使ったことがない。

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