おまけ 元中二病患者 傀儡

 オフィス。シャツにネクタイの傀儡は、上司に怒鳴られていた。


「この前の書類、全然書けてなかったぞ」

「え? あ、すみません」

「『え?』、『あ』じゃない! 社会人だろ!」

「すみません」


 傀儡はペコペコ頭を下げた。


 


 時計が10時を回り、ようやく会社を出た。外は真っ暗だ。疲れきって歩く気もしない。

 

「はあ」


 


 散らかったボロアパートの部屋のベッドに、スウェットで寝っ転がった。

 缶ビールを飲みながら、異世界転生ラノベを夢中になって読む。読みきると本を放り投げた。

 ベッドの下には、異世界転生ラノベが山のように積まれている。

 

「異世界転生してー。……いや、やっぱいいや」

(異世界は怖いからな)

 

 中学2年生のころ、異世界に転生する夢を見て怖い思いをした。目覚めたとき、夢でよかったと本当にほっとした。

 その後、2流高校に進学した。滑り止めのFラン大を卒業した。高い講座代を払って臨んだ公務員試験は、全落ちした。就活は面接で苦戦し、苦労して入社できたのは零細ブラック企業。手取りは月14万くらい。

 人生うまくいかなさすぎて、ようやくありのままの自分が受け入れられるようになった。

 自分は平凡以下の人間だ。それでいいじゃないか。

 あおむけになり、白い天井を見てほほえんだ。

 今のままでいい。今が一番幸せだ。

 生きていることに、感謝しよう。

 






 

 腹の肉が喰いちぎられる。触覚を生やしたバケモノの、尖った剥き出しの牙により、上腕がひきさかれ、足をもがれた。

 痛みはもはや、感じない。

 苦痛のない、今が一番幸せだ。

 幸せな夢に、ひたれたことを感謝しよう。

 まぶたはちぎられた。もう二度と閉じることのできない目で、空を見る。

 

 今日の空はパステルホワイト。真紅の雲が飛んでいく。

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肉喰い教 Meg @MegMiki34

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