不機嫌そうなおじいさん。

街の人々が、雪と寒さに慣れ始めて


すっかり日常に溶け込んだある朝のこと。


青年が、街を歩いていると


向かいから、不機嫌そうな顔をしたおじいさんが歩いてきた。


そのおじいさんは、腕を摩りながら「これだから雪は嫌いじゃ」と言って


青年の横を通り過ぎたのだ。


すぐに青年はおじいさんを引き止めて、こう尋ねた。


「おじいさん、雪はお嫌いですか?」


するとおじいさんは、不機嫌そうに空を見つめながら答えた。


「あぁ、嫌いさ。こいつのせいで電車が止まってしまったんじゃ。今日は大事な予定があるというのに・・・」


「大事な予定って?」


「今日は孫の五歳の誕生日なんじゃ。毎年この日は、孫の家でパーティーをしていての。今から行くところだったんじゃが、電車が止まったから行けないんじゃよ」


青年はそれを聞いてすぐに、おじいさんを助けてあげようと思った。


「それは大変だ。場所はどこですか?一緒に行きましょう」


青年がそう言うと、おじいさんはずっと向こうの方を指差した。


「ここからずっと遠くの、赤い煙突の家じゃ。歩いていたら間に合わないぞ」


青年は、うーんと考えた。


雪の積もった道。


おじいさん。


赤い煙突・・・


そうだ!


「おじいさん!いい方法を思い付きました!」


そう言って青年は、心からこう願った。


(お日さまお願いです。このおじいさんをサンタさんにしてください)


すると、おじいさんの顔に白い髭がもじゃもじゃと生えてきて


みるみるうちにサンタの姿に変身していった。


「な、な、なんじゃ!!」


おじいさんはとても驚いてそう言うと、青年は


「さあサンタさん!お孫さんにプレゼントを渡しに行きましょう!」と


雪だらけの道路を指差しながら言った。


すると突然、道路の雪が舞い上がって小さな渦を作り出したのだ。


「今度はなんじゃ!?どうなっておる!」


おじいさんが目を見開きながら言うと


雪たちは一ヶ所に集まって、ソリの形を作り出した。


青年はそれに乗って、おじいさんに手を差し出す。


「サンタさん!お日さまが落ちる前に!」


「ええい!間に合うなら、サンタでもなんでもやってやるわい!」


そう言っておじいさんは、青年の手を掴んでソリに乗り込んだ。


すると、雪のソリはふわふわと浮かんで


その下から、長いアーチのような線路を作った。


「この線路に沿っていけば、きっと辿り着けるはずです!」


「雪の線路か。昔、孫と一緒に見た絵本みたいじゃ!」


「これはサンタさんがお孫さんにプレゼントを届ける絵本の世界です!」


「それなら遅れるわけにはいかないのう!」


そう言って、そのサンタさんは


白く長い髭を触りながら、大きな声でこう叫んだ。


「出発進行〜!!」

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