第16話 西岡 豪③
琴美を失い失意のどん底に落ちていた真人を托卵ゲームの駒として選んだ俺の目に狂いはなかった。
真人は献身的な女を演じる香帆に惚れ……結婚した。
琴美を愛しているとかずっとほざいていたが……所詮は女を知らない陰キャ童貞。
ちょっと女に良くされただけであれだけ愛していた琴美のことなんぞ忘れて香帆を取った……チョロすぎて腹抑えて笑ったわ。
まあ……真人には俺が香帆に生ませた優を我が子として育てさせ、ゲームの駒として働いてもらっているから、きちんと感謝しないといけないな。
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ゲームは始まってから3年が経つが……真人はいまだに優が自分の子だと信じて疑わない。
香帆はチンケな金を餌に両親に家事と育児を押し付けている。
あいつらは琴美というATMを失い、借金返済のために財産を全て失ってホームレス状態。
そんな連中に金をやるとは……香帆のボランティア活動には感服するぜ。
まあ金は真人の貯金から出しているらしいから、どうでもいい。
ゲームの方はかなり盛り上がり、子供が20歳になったら億単位のボーナスがもらえることになっている。
脱落者もチラホラ出てきたため、俺から出すボーナスが下がった。
だが、ゲームに脱落していても、ボーナスを支払う義務は残るため、俺の得るボーナスは増えて行っている。
ゲームが自分の想い通りに進むのは、女を寝取るのとはまた違った快楽を得られる。
ホント、真人君には感謝だな!
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そんな絶好調な俺の元に、香帆から電話が掛かってきた。
『優が死んだみたいなの』
「げぇぇぇ……マジかよ……」
優が交通事故で死んだ……訃報の連絡だった。
俺はマジでへこんだ。
そりゃそうだ……俺にとって優はセーブデータみたいなもの。
あいつが年齢を重ねる分、俺はゲームの勝者として賞金を得られる。
そのセーブデータがぶっ壊れたんだぜ?
誰でもメンタルズタボロだわ!
托卵についてはバレていないらしいから、香帆にまた仕込めばコンテニューはできる。
だが、子供の年数をリセットされるのは精神的にきつい。
でも順調に進んでいたゲームを放り出すのも惜しい。
超絶メンドくせぇが、こればかりはどうしようもねぇな……。
クソッ! 真人の野郎ドジりやがって……。
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優の訃報を聞いてからしばらくして、また香帆から電話が届いた。
『豪!? どうしよう……真人に托卵がバレたみたい』
「えっ!?」
『あたしと豪に不倫と托卵の件で慰謝料を請求するって……あたしとも離婚するって……』
「……」
はぁ!?
マジふざけんなっ!!あの野郎!
俺のゲームを台無しにしておいて何が慰謝料だ!?
こっちが払ってほしいくらいだ!!
『豪……どうしょう?』
「まあ慰謝料なんてたかが数百万程度だ……それくらい一括で払える。
大したダメージも負わねぇよ」
『ごめんなさい……あたしがもっとしっかりしていれば……』
ホントそれな?
真人の野郎も悪いが、そもそも優を放置して俺と会っていた香帆も悪い。
結婚後も俺は香帆を抱き続けていたが、あれは俺の意図したことじゃない。
香帆が会いたいと駄々を捏ねるからしただけだ。
真人の野郎は俺と香帆は不倫関係だとかほざいているらしいが……誤解もいいところだ。
俺にとって香帆は優同様……俺の駒。
香帆は俺を愛しているが俺は香帆を愛したことなんてない。
俺が香帆を手放さないのは、あいつの俺に対する愛情が狂っているからだ。
愛する俺に命令されたからと言って、愛もない男と結婚して托卵までできる女が普通いるか?
何人もの女を知る俺でさえ、そんな女は香帆しか知らない。
全く便利な女を手に入れたもんだ……。
「気にするなって! 真人は捨てて別の駒を探すことにする。
また頼むぜ? 香帆」
『うん! 絶対次は挽回するから!』
香帆はまだ30代……まだゲームに使うことはできる。
真人のように女を知らない陰キャ野郎なんて、この世に腐るほどいる。
また香帆に適当な男を引っかけてしまえばそこまで時間は掛からないだろう。
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後日……俺と香帆は真人が雇った弁護士に呼び出された。
内容はもちろん、慰謝料についてだ。
その席で俺は不倫の証拠と托卵についての証拠が提示された。
さすがに無罪放免にはできないし、ごまかすのもメンドくせぇから俺は不倫と托卵については全面的に認めた。
俺は真人に見せつけてやろうと香帆の肩に手を回すが、奴は無反応だった。
マジで面白くねぇ野郎だ。
「こちらは慰謝料として500万を請求します」
「どうぞどうぞ……いくらでもお支払いしますよ?」
「なんだその態度は!? 自分が何をしたのかわかってるのか!?」
俺の態度が気に入らなかったらしく、真人は声を荒げやがった。
使えねぇゴミが喚きやがって……。
「わかってますよ。 だから慰謝料払うって言ってるでしょ?
それで万事解決じゃん? なんなら2,3人女を紹介しようか?
院長の息子って肩書きがあれば、結構上玉狙えるんじゃね?」
「お前は優の父親だろ!? 優が可哀そうだと思わないのか!?」
「そりゃあ……俺の子だからな? でも死んじまったもんはどうしようもないでしょ?」
「優をゲームの駒にしておいて……その言いぐさはなんだ!?」
「ゲーム? なんのことだ?」
「お前は俺に優を托卵させて、お金をもらっていたんだろ!?」
なっなんでこいつがそんなことを知ってるんだ!?
さすがにゲームのことまでバレたらヤバイ!
俺は動揺を隠し、あくまで余裕の態度を取る。
冷や汗は少し流してしまったのが、俺らしくない失態だった。
「しょっ証拠でもあるのか!?」
「それは……」
真人は口ごもりやがった!
どこで嗅ぎつけたのかは知らないが、明確な証拠はないみたいだな!
脅かしやがって……。
「証拠もないのに、妙な言いがかりつけんじゃねぇよ!」
「……」
「何黙ってんの? つまらねぇ言いがかり付けてきたんだがら、謝罪くらいするのが人としての礼儀だろ?」
「……よかった」
「は?」
「あんたがそう言う人で本当によかった……」
「何いってんの?」
真人はいきなりスマホを取り出し、どこかへ電話をかけやがった。
聞こえてくる内容から、誰かをここへ呼び出したみたいだ。
「どうぞ、入ってきてください」
「!!!」
部屋に入ってきた女が視界に入った瞬間、俺は我が目を疑った。
「初めまして……私は牧村 栄子(まきむら えいこ)と言います。
そこにいる西岡豪の”婚約者”です」
その通りだ……彼女は俺の婚約者である栄子。
近々結婚するつもりだった。
どうやら真人が探偵を使って調べていたらしい。
しかも托卵のことや香帆とのこと……俺の寝取り趣味のことまでしゃべっていやがった。
このゲス野郎……ふざけたことしやがって!!
※※※
「私は豪との婚約を破棄します。 もちろん、慰謝料も請求します」
「まっ待ってくれ!栄子! 考え直してくれ!」
栄子は冷たく俺に婚約破棄を言い渡してきた。
俺はプライドなんか捨てて彼女の足にしがみ付き、考え直すよう懇願した。
俺がそこまでする理由はもちろん……栄子を心から愛しているからだ。
だが結局……彼女は婚約破棄を撤回してくれなかった。
香帆が隣で何か言っていたが、今の俺にはどうでもいい。
どうしてなんだ栄子!
俺はお前を心から愛しているんだぞ!!
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栄子は3年ほど前……俺がひまつぶしに参加した合コンで知り合った女だ。
初めて彼女を見た瞬間、俺は今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じた。
一言で言えば一目ぼれだ。
今まで数多くの女を喰ってきたが、どいつもこいつも体しか価値がないゴミカスばかりで中身はろくでもない奴ばかりだ。
だが栄子は違う……容姿は完璧に俺好みだし気遣いもできる。
俺はその場で栄子の連絡先を聞き、何度もデートを重ねた。
栄子は相手を常に尊重するが、自分の意見はしっかりと言う。
デートの際は手作りの弁当まで作ってくれる。
これまで女の手料理を食べたことは数知らずあったが、その中でも栄子の料理は群を抜いている。
デートを重ねるうちに、俺達は互いに想い合う関係になった。
体の相性も抜群だった。
今まで味わったことのない極上の快楽に溺れることができた。
まさに栄子は俺にふさわしい女だ。
彼女の家は一般家庭ではあるが、俺には親父の圧倒的な財力と権力があるから問題はなかった。
俺はすぐに栄子以外の女と関係を切った。
栄子と比べたら雑魚ばかりだったしな。
香帆はゲームの駒として動いてもらわないといけないから例外とした。
でも俺は栄子と結婚して幸せな毎日を過ごすと決めている。
香帆がその障害になるようなことがあれば、即座にカットする。
それほど俺は栄子を愛していたんだ。
なのに……どうして……。
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栄子に婚約破棄された俺の心には大きな傷が残った。
今まで俺から別れを切り出すことはあったが、その逆は経験したことはなかった。
それが初めて愛を感じた女となれば……その傷がどれだけ深いか、他人には想像もつかないだろうな。
だが俺の不幸はそれだけにとどまらない。
真人がネットにばらまいた托卵に関する記事が世間の目に触れ、壮絶な非難の言葉がネット上で飛び交い始めた。
それは罵声だけに留まらず、俺やゲーム参加者達の個人情報までも公開されていた。
俺以外の連中はそのせいで、家族もろとも破滅していったらしいが、そこはどうでもいい。
俺にとって致命傷になったのは、親父の失脚と逮捕だ。
どうやら親父は当時未成年の女をゲームの駒にしていたらしく、それがバレて世間の批判を買っちまった。
まあ親父の女癖の悪さは今に始まったことじゃねぇ……保釈金を払えばそれで終わりだ。
ところが問題はそれだけじゃない。
お袋が暴力団関係の男と不倫しやがった。
しかもバラしたのはゲーム主催者の智樹だ。
托卵がバレてもノーダメージな親父や俺を逆恨みし、探偵を雇ってバラしたらしい……ふざけやがって!!
元々親父とお袋の仲は冷え切っているため、お袋の不倫に関して親父は無関心。
それでも離婚しないのは互いに不倫の証拠を握っているからだ。
不倫による離婚となれば……親父は世間体が傷つき、お袋は路頭に迷うことになる。
要するにお互いに脅迫し合っているってことだ。
だが相手が暴力団となれば話は別だ。
親父はもちろん無関係だが、大会社の社長のそばで暴力団の影がちらついていれば記事の良いネタになる。
世間の連中は面白おかしく親父と暴力団のありもしない関係を記事にして酒のつまみにしていた。
親父はすぐにお袋と離婚するが、今度は社員達が集団訴訟を起こしやがった!
内容は親父のパワハラについてだ。
親父は会社を大きくするために、無能な社員を切り捨て……有能な人材を育ててきた。
その結果……会社の効率が上がってここまで大きくなったんだぜ?
なのに自分達の無能を棚に上げてパワハラだ?
恩知らずにもほどがあるだろ?
あいつらは親父のパワハラのせいで心を病んで自殺した社員もいるんだとかほざいていたが知るか!!
ちょっと怒鳴られたくらいでメンタル病む奴が悪いんだろ!?
社員は会社に貢献する奴隷だ。
会社の歯車として生きて行くことがあいつらの存在意義だろ?
それができないなら、成人する前に死んどけよ!
マジで人の迷惑考えないゲスばっかだな!
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托卵……暴力団……パワハラ……それらの問題が明るみになったことで親父は社長の座を下ろされた。
親父は莫大な損害賠償を背負ったことで闇金に手を出し、行方を眩ませた。
お袋はあの後すぐ癌になって死んだ。
親父の力を失ったことで、俺の周りから人が離れて行った。
金の切れ目が縁の切れ目とはよく言ったもんだ。
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「ねぇ豪? あの栄子って女のことなんか忘れて、あたしと一からやり直そう?」
騒動の際、話がしたいと香帆に喫茶店へ呼び出された。
席に着いた途端、香帆が口にしたのが今のセリフ。
思えば全てを失った俺から離れなかったのはこいつだけだ。
「あたし……豪に婚約者がいたことなんて気にしないから。
2人で人生をやり直して、一緒になりましょう?」
俺が1人になったこといいことに、香帆は交際を求めてきた……いや、結婚前提の交際だなこれ。
「お金なんてなくたって、あたしは豪のこと愛してる!
一生、豪のこと支えるからお願い!
あたしだけを愛して!
豪だってあたしを愛してるでしょ?」
何を言ってるんだ? この女は。
悲劇のヒロインみたいに懇願しやがって!
「無理。 俺が愛している女は栄子だけだ……お前じゃない」
「でっでも婚約破棄したんでしょ? だったらあの女は豪のことなんか愛してないよ!
本当に愛していたらそんなことしないでしょ?
だいたいあんな大した家柄でもない女の何がいいの!?
顔だって地味だし、スタイルだってあたしの方が上じゃない!
あんな女、豪には似合わな……」
パチンッ!
俺は怒りのまま香帆に平手打ちを喰らわせていた。
周囲の客や店員が俺達に注目しているが、もうどうでもいい!
「ご……豪?」
「黙れクソビッチ!!
この際はっきり言ってやる!
俺にとってお前は真人や優と同じ便利な駒なんだよ!!
全てが完璧な栄子のことを股を開くしか能のないお前が悪くいうんじゃねぇ!!
次にそんな口を効きやがったらぶっ殺してやるからな!!」
愛する女を香帆ごときが侮辱したんだ……できればマジで殺してしまいたいが、この女にそんな価値はない。
「なっなんでそんなこと言うの?
あたしは豪に愛されたくて……」
「お前に愛なんかねぇ……あるのは利用価値だけだ。
そんなこともわからないのか?
つくづくバカな女だな」
「!!!」
香帆は涙で顔をぐしゃぐしゃにして喫茶店から出て行った。
自分の身の程を知ったみたいだな。
だがもう香帆なんぞどうでもいい。
全てを失った俺にはもう栄子しかいない。
しっかりを話し合えば、彼女も俺との復縁を考えてくれるはずだ。
だって俺達は愛し合っているんだからな!!
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