間章『密会』

第13話 あたしの初デート決定!(前編)

『ねえ、メイド喫茶好き?』


 深夜。あたしはベッドで横たわって、多久馬たくまにLINEをしている。

 のぞみのおかげで告白は大成功だったけど、次の挑戦はデートだ。しかし、あたしはデートに行ったことがないから、どこで行けばいいのかさっぱりわからない。ゆめゐ喫茶しか思いつかなかった。

 だから、もしかしたらメイド喫茶にハマっているのかなと思ってて……。

 突然、携帯が震えた。多久馬たくまから返事が来たんだ。


『実際に行ったことはないけど、メイドがかわいいし、食事もおいしそうだな』


 そのメッセージが画面に映ると、あたしは安堵の溜息を吐いた。

 返事をできるだけ早く考えてから打った。


『じゃ、メイド喫茶に行きたい?』


 ドキドキしながらメッセージを送信した。彼の返事を待ちながら、あたしは顔を枕に埋めて、足をバタバタさせる。

 恋人と話すのは意外と刺激的。返事を待っているならなおさらだ。

 数分後、携帯が再び震えた。また返事が来たんだ。

 あたしは枕から顔を上げて、素早く携帯を掴んだ。

 何分か枕が視界を埋め尽くしていたせいか、目が画面の明るさに慣れていない。

 この深夜の密会が母にバレないように天井灯を消しておいた。しかし、そのせいで画面がやけに明るく見えた。

 少し見づらいので、できるだけ早くこの会話を終わらせたい。

 

『面白そうだ! 場所や時間は?』


 んー、難しい。あたしはいつも暇だけど、彼のほうが忙しいだろう。勉強を重視している人は放課後塾に通うから、平日は無理。でも週末なら、誰でも暇じゃないか?

 みっちりと勉強している人にも、休憩は必要なんだ。 

 少し考えてから、あたしは無難そうな時間を提案した。


『午前九時、秋葉原駅の前で。明日は土曜日だから暇でしょ?』


 多久馬たくまは少し間を置いてから返事した。


『わかった、予定を空けておくよ』

『ホント? ありがとう!』


 気持ちをメッセージに出さないようにしたけど、あたしはすっごく嬉しい。

 嬉しいけど、もうLINEする時間がない。

 今寝ないと、明日寝坊してしまうかもしれない……。


♡  ♥  ♡  ♥  ♡


 そして、翌日。

 あたしは午前七時に起きて、朝食を摂った。


姫奈ひめなぁー? どこかに行っているの?」


 と、お母さんが台所に入ってきて言った。

「べ、別に……友達と……」


 デートのことを母と話しているのは本当に恥ずかしい。

 必死に言葉を出そうとしている間に、あたしは紅潮してしまった。

 言葉に詰まったあたしに、お母さんは怪訝そうに首を傾げた。


「週末にしては結構早いけど……。もう少し寝たくなかったの?」

「相手はかなり忙しいから早いほうがいいと」

「そうなんだ。とにかく、楽しんでね!」


 頷いて、あたしはお皿を片付け始めた。

 それから、階段を駆けのぼって自室に戻ってきた。

 着替えてから、あたしは姿見の前で容姿をうかがった。

 タートルネックの襟元に挟まった後ろ髪を引っ張り出して、くしで梳かす。

 容姿を見てから、メイクをし始めた。


 ーーそういえば、学校以外の場所で待ち合わせるのは初めて。多久馬たくまはあたしの私服が気に入るかな……。


 化粧を終えると時計を見た。午前八時過ぎだった。彼ならデートの約束を忘れるだろうと思って、あたしは念のため確認のメッセージを送った。


『そろそろだね。準備できた?』


 返事を待ちながら、あたしは準備を続ける。

 ドタキャンを食らったらだ、と覚悟を決めて自分に誓った。

 下駄箱から靴を取り出して履くと、携帯が突然震えた。画面を見ると、彼から返事が来たことに気づいた。


『今出かけるところだ』


 その返事にあたしは安堵の溜息を吐いて、頭を鞄の紐に通した。

 紐に挟まった何本かの髪の毛を出してから、あたしは振り向かずに家を出ていった。

 

♡  ♥  ♡  ♥  ♡


 三十分後、あたしたちは集合場所で待ち合わせた。


姫奈ひめなすごい……。まるで別人みたいだ!」


 言って、多久馬たくまは口をポカンと開ける。


「どうでしょ? センスがいいよね?」


 彼は何も言わずに頷いた。


「じゃ、メイド喫茶に行こうか? あたしについてきてねー」


 歩きながら、あたしは迷子にならないように思いを巡らせてゆめゐ喫茶への道を思い出そうとした。

 あたしは案内が苦手だけど、多久馬たくまは秋葉原を散策しているだけで満足しそうだった。

 どこかで失敗したのか、ゆめゐ喫茶にたどり着いたときは十五分も経っていた。前回は五分くらいだけだったっけ……。


 とにかく、無事に着いてよかった。

 あたしがドアを開けると、その聞き慣れた音が耳に入った。


 カランコロンカランーー


 あたしは多久馬たくまに振り返って、入るように手招いた。

 店内に踏み出すと、のぞみの姿が目に入ってくる。


「お帰りなさいませお嬢様、ご主人様! のぞみと申します。願い事、聞かーー」


 あたしのことを思い出したのか、彼女は突然言葉を失った。


「と、さきさんですか?」

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