第14話 あたしの初デート決定!(後編)

「まさか、お客様が再びがここに戻ってくれるとは!」


 困惑しているのぞみに、あたしはあははと吹き出した。


「はい!また来ますって言ったでしょ」

「すみません。社交辞令だと思ってました……」


 会話を聞きながら、多久馬たくまはあたしに眉を寄せた。


「あの、このメイドは知り合いなのか?」

「あたしはゆめゐ喫茶に行ったことあるんだわ」

「そうか……。だからこそ今日のデートはここにしたのか」

「そうよ。一流のメイド喫茶だからさ」


 あたしの褒め言葉にのぞみが少し頬を染めた。

 彼女は視線をさまよわせると、多久馬たくまと目が合った。

 彼が例の西野にしの多久馬たくまだと気がついたのか、のぞみはびっくりした表情を浮かべた。


「もしかして、この人は……?」


 あたしが無言で頷くと、のぞみは「よりによって、なぜここでデートしたいのか?」と言わんばかりに首を傾げた。

 そして、彼女は会話を戻そうと台詞を続ける。


「そうなんですか。では、ご案内いたします!」


 多久馬たくまは一目惚れしたようにのぞみを見つめた。あたしが多久馬たくまをにらみつけて口を尖らせると、彼は視線をのぞみから外した。


「まったく、デートの相手があ・た・しだよ! 数学の方程式が覚えられるなら、そんなことはでしょ?」

「ご、ごめん姫奈ひめな! ただ、彼女を見ると……メイド喫茶が最高だなと思ったんだ」

「そうね。メイド喫茶が大好き!」


 と、あたしが言うとテーブルに着いたことに気がついた。


「どうぞおかけください」


 言って、のぞみが一礼をした。

 あたしたちは言われるがままに席について、テーブルに置かれたメニューに目を通した。

 ゆめゐ喫茶に初めて来たとき、あたしの注文はとっくに決まっていた。

 

 ーーキチャ、だった。


 願いを叶えるためにゆめゐ喫茶に行った。

 多久馬たくまとは対照的に、正直あたしはメイドに興味がなかった。もちろん、基本はわかっていたけどそれ以上の興味は微塵もなかったんだ。

 でも願いが叶ってから、あたしの意見も変わった。

 メイド喫茶は素敵だなぁとやっと実感できた。

 しかも、あたしはのぞみに大感謝している。だから、願い事が叶うチャンスを使い切ったとはいえ、ゆめゐ喫茶の常連客になりたいと思う。

 このメニューには、たくさんの美味しそうなものが載っているし。


「ねえ、多久馬たくまは何を頼むの?」

 

 あたしの問いに、多久馬たくまは唐突にメニューから顔を上げた。


「んー、選択肢はかなり多いよね。もう少し考えないとな。……ちょっと待って、姫奈ひめなはもう決めていたのか?」

「いや、実はまだ決まっていないけど……。だから訊いたの。多久馬たくまが美味しそうなものを答えたら、あたしもそれを頼もうと思っていたんだ」


 その言葉に、多久馬たくまは笑顔を見せて、あははと笑った。


 ーー何がおかしいのか……?


「右に同じってことか……。けど、姫奈ひめなは別のものを頼んだほうがいいと思うよ。そうしたら、僕たちはお互いの食事を食べてみることができるし」


 しばらく考えてから、あたしは頷いた。なぜなら、お互いの食事を試食している間に、間接キスができることに気がついたから。


「じゃ、もう一度メニューを見ようね!」


 あたしは元気よくそう促した。

 そして、のぞみが食堂に戻ってきた。


「あの、ご注文に迷っていますか?」

「ちょっとだけですね。何かおすすめはありますか?」

「おすすめ、ですか? んー。実はメニューに詳しくないけど、カルボナーラは美味しそうだと思います!」


 ーーカルボナーラ? なんかわからないけど美味しそう!


「じゃ、あたしはカルボナーラをください! ねえ多久馬たくま、注文を決めたの?」


 多久馬たくまは注文を熟考しているのか、目を閉じて頬杖をついた。


「うん、決まった」

 数秒後、彼はやっと答えた。

 のぞみはコホンと咳払いをして、台詞を紡いだ。

 

「では、ご注文はお決まりでしょうか?」


 あたしたちはやっとのことで注文を決めた。

 デートは意外と難しいものだ……。 


「「はーい!」」


 そう口に揃えてから、あたしたちは注文したいものを伝えた。

 のぞみは何かをメモ帳に書き留めて、食堂を出ていった。


♡  ♥  ♡  ♥  ♡


「お待たせしました!」


 と、のぞみは食堂に一歩踏み出した途端に行った。

 彼女はゆっくりと歩きながらあたしたちの食事をお盆で運んでいる。

 こちらにたどり着くと、のぞみはお盆をテーブルに置いて、配膳した。

「うわー、美味しそう!」

「ほう、美味しそうだ!」


 のぞみは二つのお皿をテーブルに置いたあと、口を開いた。


「それでは、一緒に呪文を言ってみましょうか?」


 あたしたちはのぞみに頷いて、口を開いた。


「「「萌え萌え……キュウウウウウン!」」」


 あたしの初デートがこんなに最高なんて……。そう思うと、あたしは今にも泣きそうになった。

 本当に嬉しかったんだ。

 今日は終わらせたくなかった。しかし、そろそろ多久馬たくまは勉強に戻らないとね。

 それでも、一緒に過ごせる時間がたくさんある。毎日学校で鉢合わせるし、週末には一緒に遊べる。 


 ーー多久馬たくまと過ごす日々が始まったばかりだ!

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