第30話 役目②

「さっすが、仁君。無茶な仕事を振られてもしっかりとやってくれますね」


 茜さんがタブレット端末で亡霊ゴーストの動きを確認していた。


「それは俺への当てつけか?」


 茜さんの言葉に須波さんが反応する。私の目から見ても銀崎さんと山村さんが2人で亡霊ゴーストの半分を引き寄せるのは無茶だとわかった。しかし、2人はやり遂げた。


「そんなつもりはないですよ。ただ、仁君のこと信頼してるなーって思っただけです。須波さんはできないことをさせるような人じゃないですし」


「……当然だ。あいつを「色付き」に推したのは俺だ。あいつの力がこんなもんじゃないことくらい知っている」


「意外に素直に認めましたね」


「お前は認めなかったら、しつこいからな。俺は持ち場に行く」


「了解です」


 須波さんは補佐官の榎本さんと篁さんと移動を開始する。


「ああいうのってツンデレって言うのかな?」


「……ですかね。それにしても意外でした。須波さんがあんなに銀崎さんのことを買っていたなんて」


「昔は色んな任務に連れまわしていたんだ。須波さんは師匠の後を仁君に継がせたかったみたい。仁君は拒否して、結局私が継ぐことになっちゃたけど」


「そういう経緯があったんですね……」


 私は茜さんが「色付き」になる経緯を初めて知った。


「須波さんは私と仁君の師匠のライバルみたいな人だったんだ。だから、私達にも色々良くしてくれているんだ。もしかしたら、本部にいることが多い須波さんが出てきたのは私たちの様子を見に来てくれたとかありえるかもね」


「……それが本当なら重症度高いですね……」


「お前ら……そういう話は通信を切っている時にしろ」


 須波さんの冷静な声が聞こえる。


「!!」


「私は知ってますよ。通信切ってから話すと陰口になっちゃいますし」


 身体がビクっと反応してしまう。


「…………まあ、いい。最後に作戦の確認をしておく。まず火村が巻貝の亡霊ゴーストの粘液をできるだけ広範囲を焼く。その後、俺と榎本、篁がメインで標的を切り刻みコアの場所を探す。場所は俺が中央、榎本が左、篁が右だ。見つけたコアを不二山姉妹が潰すだ。伊織と雪城は不二山姉妹、火村の護衛だ」


「「「「「「「了解」」」」」」」


 正直、私に与えられた仕事は少ない。一言で言ってしまえば、篁の代わりだ。茜さんの補佐官である篁さんが茜さんから離れてしまうため、私が代わりに護衛することになったのだろう。

 推測でしかないが本当は篁さんの役目を銀崎さんがするはずだったのではないのだろうか。しかし、銀崎さんには単独で亡霊ゴーストを巻貝の亡霊ゴーストから引き離すという銀崎さんにしかできない役目があったため、私が選ばれたのではないのだろうか。


「ふぅーー……」


 私は大きくため息をつく。この配置に不満があるわけではないが、疑問はあった。それはなぜ私が茜さんの護衛をすることになったかだ。私以外にも適任はいたと思う。この前に聞いたが心力マナが多いからとしか答えてくれなかった。


「緊張してる?」


「そうですね……」


「大丈夫だよ。心白はそこまで危険なことはしないし」


「…………はい。この前にも聞いたんですが……なぜ私を茜さんの護衛に選んだんですか?確かに心力マナの数値は高いかもしれませんが、私以外にも適任は……いると思います」


 私は思い切って聞いてみることにした。


「そうだね。ステージ4との戦闘経験がある死神もいるし、その死神に任せるっていうのも最初は考えた。今回の心白のポジションは心力マナを多く使うってわけでもないし、実際他の死神でも務まると思う」


「ですよね……」


「そんなことわかった上で心白を指名したんだ」


「……なぜか聞いてもいいですか?」


「須波さんは怒るかもしれないけど、心白に経験を積んで欲しかったんだ。ステージ4との戦闘を経験しておくのとそうじゃないわけじゃ結構違ってくるからね」


「…………」


 思いっきり茜さんの個人的理由だった。


「ステージ4の亡霊ゴーストを肌で感じで欲しいんだ。そして、「色付き」の戦い方を見て欲しい」


 茜さんは私の顔を見る。その表情は私に期待をしている顔だった。


「……はい。ありがとうございます」


 私にこれほど期待してくれることが誇らしかった。


究極形成アルティメットクラフトって知ってる?」


「……え……アルティ……メット……?」


 形成の派生の技術だろうか。銀崎さんはもちろん山村さん、清水さんからも聞いたことがなかった。


「やっぱりね……。究極形成アルティメットクラフトっていうのは死神の戦闘における最終手段みたいなものだよ。誰にもできるわけじゃない。もちろん危険もある。というか危険があるから仁君は教えなかったんだろうね。でも、もう仕方ないよね?」


 確かに銀崎さんはこれまでも私に危険なことをさせないようにしていてくれていた。


「例えばだけど、心白にこのコンクリートの壁を思いっきり殴れって指示を出すとする。そして、心白はそれに従って思いっきり殴る。さて、心白は何%で殴ったでしょうか?」


「えっと……全力だから100%ですか?」


「全力だからね。普通そう答えるよね。でも、違う。本人は全力で殴ったつもりでも実際には良くて80%ほどでしか殴れないんだ。全力で走ったりとかそういうのも同じ」


「あ……どこかで聞いたような気がします。脳がリミッターをかけてるとか……」


「おっ、知ってるんだ。なら話が早い。さっきの例だと無意識に拳の怪我を恐れたりとかで脳にリミッターがかかってしまう。これは死神の戦闘にも通じることだ。強い心器しんきを形成するにはそれだけ心力マナを注ぎ込むことになる。ありったけの心力マナを込めて心器しんきを形成したとしてもそれは自分のもてる80%ほどの心力マナでしか作れないんだ」


「……残りの20%は……使えないってことですか?」


「使えない。人間である以上不可能だ。でも、その不可能を可能にするのが究極形成アルティメットクラフトだ。究極形成アルティメットクラフトは不可能なはずの100%の心力マナを使った心器しんきを形成できる」


 脳のリミッターを無理やり突破するとなると危険もありそうではあるが、大きな力を手にすることはできそうであった。


「いや……違うか。正確に究極形成アルティメットクラフトは100%の力でしかできない」


「??」


「普通の形成クラフトだとある程度自分で使う心力マナは調整できるよね?けど究極形成アルティメットクラフトは今ある全部の心力マナを使って形成することになるんだ。これは強制的にだ」


「つまり……究極形成アルティメットクラフトをすると残りの心力マナがゼロになってしまうってことですか?」


「そういうこと。究極形成アルティメットクラフトが破壊されたり、自分の意思で消したりすると強制的に反転状態も解除されるんだ」


「たしかに……最終手段ですね……」


「そういうこと。ちなみに心力マナが完全にゼロになってしまうとどうなるか知ってる?」


「いえ……知らないです」


「ゼロになると心力マナの回復速度が急激に落ちるんだ。人によって個人差はあるけど、だいたい3分の1くらいになる。その上、心力マナが全快するまで反転状態になることができなくなる」


「それは大きいデメリットですね……」


「だから、仁君は教えなかったんだろうね。心白って教えてしまえばできてしまいそうだし、結構無茶するから」


「…………そうですね……」


「デメリットに見合うメリットはあるよ。強さを数字にするのは難しいけど、究極形成アルティメットクラフト形成クラフトの3倍以上の強さはあると思っていい」


「いつもより……20%ほどしか多く心力マナを使っていないのにですか?」


「普段は使わない心力マナを使っていることと脳のリミッターが外れている状態にあるからとは言われているね」


「なるほど」


「ま、実際に見る方が早いよね」


 茜さんはニヤリと笑った。


「……見せてあげる。私の究極形成アルティメットクラフトを」

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