第31話 究極形成①

「……頃合いだ。火村、始めろ」


 須波さんから指示が入る。


「了解」


 茜さんは目を閉じ、右手を胸に置く。そして、茜さんの周りから赤い心力マナが放出され始める。


「我が心、今ここに顕現せよ」


 空気が変わるのを私は感じた。


「私はあかい流れ星に憧れた。憧れているのは私だけではない。それを知るもの皆の憧れだ。同時に希望でもあった。私はあかい流れ星を追いかけるが、追いかけても追いつけない。あかい流れ星と私には見えている距離以上に距離があるのだ。それでも、いつかは追いつけるはずと私は夢中で追いかけた。しかし、あかい流れ星は突然消えてしまった。ああ、あかい流れ星よ、なぜ私を置いて逝ってしまったのだ。あなたと一緒であれば、私に怖いものなどなかったというのに」


 それはとても悲しい唄であった。


あかき流れ星は必要な存在であった。なればこそ、私があかき流れ星になろう。皆の希望となるために。あかき流れ星の願いを叶えるために」


 まるで茜さんの人生を語っているようにも思えた。憧れ、後悔などを語っているように感じた。


 放出していた赤い心力マナが茜さんの身体に一気に戻っていく。


究極形成アルティメットクラフトっ!!レッド流星メテオになる鳳凰フェニックスっ!!」


「!!」


 茜さんの手には刀が握られていた。見た目はいつも茜さんが使用している刀と変わらないように見えた。しかし、中身が全然違っていることは私にもわかった。


「さっき話したけど究極形成アルティメットクラフトっていうのは自分の心力マナを全部使って行うんだ。心力マナを全部、外に出すっていうのは想像以上に難しい。それは隠したいものとか言いたくないことを全部さらけ出すことになるからね。だから、さっき私は言葉を唱えたんだ。あれが私の心の内、本心だ。少しカッコよく言ってるけどね」


「…………なるほど……」


「さ、行くよ。フォローお願い」


「……はい」


 茜さんは巻貝の亡霊ゴーストの前に立つ。距離は5mほどだ。私はその後ろに立つ。


「防御、しておいてね。火傷じゃすまないから」


「はいっ……」


 私は慌てて自分の身体を防御で覆う。


「…………」


 茜さんは刀を頭上に構える。


「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」


 次の瞬間、刀から特大の炎が湧き上がる。炎の柱は雲をかき消し、暗い空を明るく照らす。


(っ……!!熱いっ……。防御しててこれってことは……)


 周りの建物を見ると熱で窓ガラスが割れていた。それだけのエネルギーが発生しているということだ。


「やあぁぁぁぁぁっ!!」


 そして、刀を大きく振り落す。


「え……」


 あれだけあった炎が一瞬で消え、刀は地面を割る。


(炎は……どこに……?)


 次の瞬間だった。激しい爆発音と共に巻貝の亡霊ゴーストの巨体を炎が包んでいた。


「す、すごい……。これが……究極形成アルティメットクラフト……」


形成けいせい鯨波葬槍げいはそうそう


 須波さんが形成をする声が聞こえる。


「はっ……!!」


 巻貝の亡霊ゴーストの触手が燃えたまま切り落とされる。遠めでよく見えないが須波さんが長い槍のようなものが握られていた。おそらく切り落としたのだろう。とにかくこれで反撃はなさそうだ。


「「究極形成アルティメットクラフト!!全てを見通フォーキャスト女神ヴィーナス一撃ブロー!!」」


 不二山姉妹が究極形成アルティメットクラフトをしたようだ。狙撃の準備は万全のようだ。


「もうすぐ巻貝が割れる。割れ次第攻撃し、コアの場所を明らかにしろ」


 須波さんが指示を出した数秒後に、巻貝が割れる。そして、巻貝の中から軟体の生物が出てくる。


「なっ……」


 亡霊ゴーストは身体を広げる。周辺の建物が壊されていく。まさに災害だった。


「雪城、何をしているっ!!早くコアを探せっ!!」


 私が唖然としていると須波さんから怒号が飛ぶ。その声からは焦っているようにも感じた。


「はいっ……!!」


 亡霊ゴーストの身体を切り刻む必要はなかった。理由は巻貝の中から出てきた亡霊ゴーストの身体が半透明だったからだ。地面が透けて見えるほどだ。


「どこにっ……あるのっ……!!」


 私は必死にコアを探すが見つけられない。


「早く探せっ!!逃げられるぞっ!!」


 巻貝の亡霊ゴーストは身体をどんどん広げていく。どこまで広がるのだろうか。このままマンホールなどから地下に逃げられると完全に手に負えなくなる。


「もしかして……コアも透明に?それだったらマズいな……」


 茜さんの声も動揺していた。


「探せっ……!!」


「わかってますよっ!!けど、こんなに早く身体を広げられると私たちの手じゃ足りないですって」


「現在、標的の亡霊ゴーストは地下に逃げようとはしていません。となると……」


 篁さんは動きを報告する。


「川だっ!!北側に大きな川がある。地下に逃げないなら、そこから逃げる可能性が高い」


 須波さんが通信で知らせる。皆にこの半透明で川に逃げられたら、もう追えないのは確実だった。


「っ……!!」


 無慈悲にも時間が過ぎていく。


コアを発見しました。これより狙撃します」


 驚くことにコアを発見したのは千早さんだった。


(えっ……嘘……。一番遠いのに……なんで……)


 不二山姉妹がいた場所は巻貝の亡霊ゴーストからかなり離れていたはずだ。しかも、狙撃のためビルの屋上から動いていないはずだ。


「さすが……いい目をしている。全員、標的から距離を取れっ!!」


 須波さんの指示で私は亡霊ゴーストから離れる。


「!!」


 すぐに極太の光が美しい放物線を描いて、高速で落ちてくる。あれがとんでもない威力を持っているのは直感でわかった。


「きゃっ……!!」


コアの割れる音が大きく響く。同時に暴風が私を襲った。


「……終わった……の……?」


 あまりにもあっけなさ過ぎて間抜けな声が出てしまう。


「……うん。終わったよ」


 茜さんが私の隣に移動してくる。巻貝の亡霊ゴーストは端から徐々に消滅していった。


「私……何が起こったのか……わからなくて……」


「不二山姉妹の究極形成アルティメットクラフトは攻撃する弓矢だけじゃなくて、目もセットなんだ」


「目……ですか?」


「そ。究極形成アルティメットクラフトをすると千早の目はすごく見えるようになるんだ。視力はもちろんだけど、心力マナの流れとか普通は目に見えないものが見えるようになる。おそらく、それでコアを探したんだろうね」


「なるほど……。すごい……」


「本当にすごいよ。彼女がいるだけでこっちはめちゃくちゃ情報を得ることができるんだ。さらに、その目を千鶴と共有することができる」


「…………そんなことが……」


「私も初めに聞いた時、耳を疑ったよ。いくら双子でもそこまでできるのは不二山姉妹しかいないんじゃないかな。で、視力を共有して千鶴が狙撃するって戦法だね」


「今回お二人がいて本当に助かりましたね……」


「2人がいなきゃ、逃げられてた可能性が高かっただろうね。あっ、私はタイムアップだ。これじゃ残党狩りに行けないや……」


 茜さんの身体が反転状態から元の身体に戻る。どうやら究極形成アルティメットクラフトが終わってしまったようだ。というかあれだけの炎を出した後もしばらく動けていたというのがすごいと思った。


「私、行ってきます」


「うん。お願い。大丈夫だと思うけど、樹里と一緒に動いて」


「わかりました。その前に茜さん、基地まで送りますよ」


「……そうだね。お願いしようかな。亡霊ゴーストと出くわしたら戦えないしね」


「任せてください。失礼します」


 私は腕に心力マナを込め、茜さんをお姫様だっこして移動をする。ここから基地は10分ほどだ。


「樹里、聞こえる?」


「はい。聞こえています」


「今から作戦基地に向かうから、そこで心白と合流して残党狩りに向かってもらっていい?」


「わかりました。すぐに向かいます」


 篁さんとの通信が終わる。ふと巻貝の亡霊ゴーストがいた場所を見ると身体は完全に消滅していた。


「待て。一度、不二山姉妹のいる建物に集合しろ。全員だ」


 須波さんから指示が入る。


「え……?」


「何で……?」


 私は意味が理解できなかった。それは茜さんも同じようだ。須波さんはそのまま北側か南側のどちらにすぐに向かうものだと思っていたからだ。


「命令だ。早く来い」


 理由も詳しく話さず言われたため、正直納得できなかった。これまで効率を重視していた須波さんとズレを感じる。


「納得はできないけど……行くしかないね」


「……はい」


 確かに作戦基地よりも不二山姉妹がいる建物の方が近い。しかし、茜さんをこのまま戦闘区域に置いておけないので作戦基地に向かった方がいいのではないかという考えが頭をよぎる。しかし、作戦の指揮は須波さんにあるので逆らうわけにもいかない。私は方向転換して、不二山姉妹がいる建物に向かう。


「…………」


 茜さんは須波さんの真意を考えているようだった。


(……私には……わからないな……。後で聞いてみよう)


 私は交差点を曲がる。あと1kmほど直進すれば目的地だ。


「「!!」」


 私の足が止まる。目の前には全身白い服を着て、フードを深く被っている2人が道を塞いでいた。


「心白っ、逃げてっ!!」


 焦った茜さんの声に私は白い服の2人から目を離してしまう。


「……っ……!!」


 私は倒れていた。茜さんもお姫様抱っこされていたため、一緒に倒れる。私達の身に何が起きたのが全く分からなかった。


「何が……起こっ……」


 瞬間、殺意を感じる。目の前には白い服の人物が足音もなく移動してきており、迷いなく私の首を刎ねにきていた。何で狙われているのかを理解する暇も与えてくれなかった。


「ぁ……」


 私は本能的に察した。ここで死ぬのだろうと。茜さんの逃げろという声がやけにスローモーションに聞こえる。私の身体が動かなかった。



キィィィィン!!



 目前で金属がぶつかり合うような音が響く。


「……ぎ、銀崎さん……」


 私の首は刎ねられなかった。理由は首を刎ねられる前に銀崎さんが迫りくる一撃を防いでくれたからだ。


「…………お前、何者だ?」


 銀崎さんの視線は私ではなく白い服の人物に注がれていた。

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