第24話 心強い相棒

 俺達は馬型の亡霊ゴーストと対峙する。馬型の亡霊ゴーストは口元を緩める。亡霊ゴーストの中には大きいダメージを負うと怒り、行動が粗くなるタイプもいる。こいつはそういうタイプではないらしい。


「「形成クラフトっ!!」」


 俺達は同時に叫ぶ。


スターティアー銀狼ウルフっ!!」


無垢ピュア白竜ドラゴンティアーズっ!!」


 俺は銀色の鋏を、雪城さんは白色の鎌をそれぞれ握る。馬型の亡霊ゴーストも戦闘準備に入り、まさに一触即発という感じだ。


(…………久しぶりだ……。ここまで頭を空にできるなんていつ以来だろう……)


 同時に身体も軽く感じだ。脳の中の雑念がすべて消え、思考がクリアになった。


(身体が軽い……。すごくいい感じだ……)


 不思議と口元が緩む。すべてが上手くいくような気がした。


「はぁっ!!」


 先に攻撃を仕掛けたのは俺だった。


「!!」


 馬型の亡霊ゴーストは反応し、背後に飛ぶ。しかし、飛んだ先には雪城さんがすでに飛んでいた。完璧なタイミングだった。これには俺も驚いた。


(瞬間移動したのか……!?ふっ、やるじゃないか……!!)


 完全に馬型の亡霊ゴーストの背中をとった。


「ぐぅぅぅっ……」


 しかし、馬型の亡霊ゴーストも反応し、後ろ脚の蹴りを喰らってしまう。


「はぁぁっ……!!うぁっ……!!」


 雪城さんは防御で攻撃を防ぎ、反撃する。馬型の亡霊ゴーストの意識は雪城さんに集中する。


(ここだっ!!)


 奴の意識をいい感じに逸らすことができている。


形成クラフトぉぉ!!」


 地面から無数の鋏を生やす。


「ガァァァァァっ!!」


 馬型の亡霊ゴーストは回避を試みるがすべてを躱すことができない。数本は足に刺さる。一瞬動きが止まったところを雪城さんが追撃する。


「ォォっ……!!」


 雪城さんは2本の右腕を切り落とす。馬型の亡霊ゴーストは強引に距離をとる。


「ふぃーーーーーー……」


 呼吸する暇すらない攻防だった。


「大丈夫?」


 俺は馬型の亡霊ゴーストから目を離さないまま雪城さんに問いかける。


「はぁっ……はぁ……だ、大丈夫です……」


 雪城さんの息は少し切れていた。


(無理もないか……)


 瞬間移動に、これまでに経験したことのない速度での戦闘、一瞬ではあったが想像以上に雪城さんに負担がかかっているようだ。


「私、今までに経験したことのないくらい調子がいいんです」


「……実は俺もなんだ。辛いと思うが頑張ってくれ。俺達の攻撃は効いている。このまま一気に押すぞ」


「……はいっ……!!」


 足と腕にダメージを与えた今を逃したくなかった。


「ガァァァァァ!!!!」


 馬型の亡霊ゴーストが咆哮を上げる。奴も本気になったようだ。俺は持っていた鋏を2つに分解する。


(……もっと速く……もっと鋭く……。残りの心力マナなんて気にするな……。全力で……仕留める!!)


 全神経を集中させる。


「!!」


 俺は前方に飛ぶ。すぐ背後には馬型の亡霊ゴーストのパンチが迫ってきていた。


「っ……。らぁぁっ……!!」


 向きを変え、俺は馬型の亡霊ゴーストに向かって突撃する。相打ち覚悟で大ダメージを与えるつもりだ。


「ガラァっ!?」


 馬型の亡霊ゴーストも一瞬驚いた様子を見せるが、受けて立つと言わんばかりにパンチを放つ。


(そうくると……思った……。勝負だっ!!)


 好戦的な馬型の亡霊ゴーストなら乗ってくるという確信があった。俺は頭と胸に防御を張る。


「ぐううっ……!!」


 胸にパンチが刺さる。一瞬で防御が貫かれる。


「っぅぅ……形成クラフトぉ……!!」


 先程地面から出した倍以上の長さの鋏を地面から大量に出現させる。まさに捨て身の一撃だった。鋏は馬型の亡霊ゴーストの身体を貫く。


(やっと……見つけた……)


 馬型の亡霊ゴーストを見てからずっと疑問に思っていたことがある。それはコアの位置だ。身体の表面にはなかったので、身体の中にあるということだ。先程清水さんが首から上を落とした時には首から上は動かず、首から下が動いていた。ということは首から下にコアがあるということだ。


「身体の中央だっ……!!」


 鋏で身体が裂けて初めて馬型の亡霊ゴーストコアを見つける。


(一人なら……勝てなかったかもな……)


 それほどの強敵だった。しかし、俺は一人じゃない。心強い相棒パートナーがいる。


「はいっ!!」


 俺は吹っ飛ばされながら、ニヤリと笑う。俺は空を見ながらコアが砕ける音を聞いた。


「いって……」


 地面に思いっきり身体をぶつける。馬型の亡霊ゴーストを見ると身体の崩壊が始まっていた。


「ふう…………」


 緊張の糸が切れ俺は倒れ込む。


「だ、大丈夫ですか?」


「……うん。大丈夫……。雪城さんは?」


「私は大丈夫です」


「そっか。お疲れ様。今回は本当に助かった」


「銀崎さんの方こそお疲れ様です。今回の相手めちゃくちゃ強かったですね……」


「ああ……。ステージ3との戦闘はきっついよ。それと……本当に強くなった

……」


「わ、私がですか?」


「うん。雪城さんは俺の想像以上に強くなってた」


「……嬉しいです」


 雪城さんは照れていた。


「そうだ。緑野さんに連絡しないと……」


 俺は緑野さんに通信を繋ぐ。


「こちら銀崎。馬型の亡霊ゴーストの討伐、完了しました」


「良かった……。2人とも無事なのね?」


「はい。大丈夫です。清水さんの容体はどうですか?」


「……意識はまだ戻っていないけど、容体は安定してる。大丈夫よ」


「そう……ですか……。生田所長に繋いでもらえますか?」


「…………」


 緑野さんはなぜか黙り込む。


「緑野さん?」


「音羽だ」


 通信に出たのは音羽副所長だった。


「ステージ3の討伐お疲れ様。よくやってくれた」


「いえ……」


 俺は違和感を覚える。ステージ3が出現するというのはかなり良くない状態で生田所長が席を外すとは考えられない。となると何かがあったということだ。


「生田所長は今、獄羊基地の所長と話しているところだ」


「何かあったんですか?」


「ああ……。獄羊市でステージ4の亡霊ゴーストが……出現した」


「…………!!」


 茜さんの嫌な予感が当たってしまったようだ。


「今後の対応を協議中ではあるが、ひとまず基地に戻ってきてくれ。動きも決まっていないし、2人とも休息をとらないといけない」


「…………ステージ4の情報は十分にあるんですか?」


「……それもすぐにわかるだろう。とにかく……」


「……俺はこのまま獄羊地区に向かいます」


「お、おい……待て。今のお前じゃ……」


「わかっています。情報を集めるだけです。戦闘はしません」


「そうは言ってもだな……」


 音羽副所長は悩んでいるようだ。しかし、俺も引くわけにもいかない。


「今は朝の3時過ぎです。日中は亡霊ゴーストは姿を消してしまうので、今のうちにできるだけ情報を集めておくべきです」


 おそらく近いうちに討伐が実行されるだろう。その時までに情報をどれだけ集めておけるかで討伐難易度が大きく変わる。


「…………本当に大丈夫なんだな?」


「はい」


「私も行きます」


 雪城さんも声を上げる。


「……わかった。2人にお願いする。車を回すからその場で待機をしててくれ」


「わかりました」


 そこで通信は終わった。


「さて……厳しい状況が続くな……。悪いね。付き合ってもらって」


「いえ……それよりも……」


「……ああ。ステージ4の亡霊ゴーストをどうするかだな……」


「向こうの状況も気になりますね。茜さんは大丈夫なんでしょうか?」


「そこもあっちの基地に聞かないとなんとも言えないな……。けど、茜さんなら大丈夫だと思う。何も考えていないように見えて、結構考えている人だから」


「ステージ4を倒す面子は今から集めることになるんですか?」


「そうなる。基本的にステージ4が出現した地域に近い基地から死神を集めることになる。さらに「色付き」を3名以上招集するんだ」


 ステージ4の亡霊ゴーストの討伐には最低3名の「色付き」を集め、「色付き」を中心に作戦が立てられる。


「私達も行くことになりますかね?」


「メンバーはこれから作られる討伐本部が決めるからなんとも言えないかな……。茜さんは確定だと思うけど……」


「そうですね。茜さん強いですもんね」


「それもあるけど、単純に近いっていうのがある」


「え……」


「「色付き」は全国各地にいて、すぐに来れないことも多いんだ」


「あっ……なるほど……」


「今も現場にいることが一番の理由だろうね。ステージ4を実際に見ているっていうのは大きい」


「そうですね。あっ、車が来ました」


「うん」


 俺達は車に乗り込んだ。

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