第25話 ステージ4①

「……さん、銀崎さん……」


「ん……」


 俺は車の中で雪城さんに身体を揺らされて目を覚ます。どうやら眠ってしまっていたらしい。


「ごめん」


「いえ……。それよりも大丈夫ですか?私だけで行ってきましょうか?」


「……大丈夫。ここまで来たんだ。俺も行くよ。ここからは危険なので一度離れてください。もし、迎えが必要になったら連絡します」


「わかった。気をつけてな」


 俺と雪城さんは車の外に出る。


「「!!」」


 外に出た瞬間、濃度の高い心力マナが空気に含まれるのを感じた。雪城さんも同じらしい。


「これがステージ4だ」


「これが……」


「この気持ち悪いほど心力マナが混ざった空気……相変わらず嫌になる」


 その時だった。



 ドオオン!!ドオオン!!



 音と共に地面が少し揺れる。


「ぎ、銀崎さん……あれ……」


 雪城さんが指をさす。俺はその方向を見る。巨大な黒い塊が見えた。俺たちとの距離はざっと5㎞ほどだろうか。


「あれが……ステージ4……?」


「そうだ。ステージ4はデカい奴が多いけど、今回のはまた……」


「大きいってレベルじゃ……ないんですけど……。じゅ、10mは余裕で超えて……そうですけど……」


 雪城さんは明らかに動揺していた。それも当然だろう。今回出現したステージ4は15mは有りそうな巨大な姿だったのだ。


「あれは……何だろう?ヤドカリ?アンモナイト?」


 遠くから確認できたのは巨大な巻貝だった。ゆっくりと移動しながら黒い霧をまき散らしていた。


「あれって……倒せるものなんですか?」


「一応ね……」


 俺も正直自信がなかった。


「…………ステージ4はステージ3とは全くの別物だ。亡霊ゴーストはステージに分けられているのは知っているよね?」


「……はい」


亡霊ゴーストは出現した時には例外を除いて全部ステージ1だ。ステージ1、ステージ2、ステージ3と心力マナを集めて成長していく」


心力マナを獲得して順に成長していくんですよね?」


「そうだ。しかし、ステージ4は別だ」


「えっ……」


「ステージ3の次がステージ4なのかというのも正確にはわかっていないんだ。」


「……てっきり数字が繋がっているから、ステージ3の次がステージ4だと思っていました」


「普通そう思うよね。亡霊ゴーストがステージ3までは進化する瞬間は確認されているけど、ステージ4に進化する瞬間は確認されていないんだ。本当に何の前触れもなく現れるんだ。ひとまずカテゴリーとして並べられているってだけ。わかっているのはステージが高い亡霊ゴーストが連続で出現している場所で出やすいってことかな」


「…………ステージよりも強いですよね?」


 雪城さんの表情は不安そうだ。


「ああ。それは間違いない。さ、移動しよう。全体防御を張っておいて」


「は、はい」


 俺と雪城さんは全体防御を張って移動を始める。


(戦える時間は1時間ちょいってところかな……)


 時計を見ると朝の4時半を回っていた。日が昇ると亡霊ゴーストは消えてしまうので、急いで情報を集めないければいけない。


「高い建物とかあったかな……」


 俺は周りを見渡す。するとちょうど良さそうな背の高い建物が見えた。


「獄羊タワー……。あれがいい」


 確か観光スポットになっている建物だ。


「そうですね。亡霊ゴーストの進行方向からは外れていますし、いいですね」


「少し急ごう」


「はい」


 俺達は急いで獄羊タワーへ向かった。


「あ……」


「茜さんっ……!!」


 俺達がタワーの上部に上ると茜さんと篁さんが先に到着していた。


「……来てくれたんだ」


 茜さんは少し笑った。


「お久しぶりです。なぜこちらに?応援はまだ頼んでいませんよね?」


 篁さんが俺達に質問を投げかける。


「まだです。ステージ4の情報がそこまで集まっていないと聞いたので、少しでも情報を集められたらって思って」


「さすがだね。すごく助かる。そういえば2人は会ったことなかったよね?」


「たぶんそうです」


「初めまして。双園基地所属の雪城 心白です」


「え……このタイミングで自己紹介?」


 篁さんは困惑していた。そして、俺と茜さんを見る。


「…………天馬西基地所属の篁 樹里です」


 二人の自己紹介が終わる。


「で、どうです?」


「いや、まだ私達も来たばかり」


「火村さんどうします?」


 篁さんが茜さんに質問する。少し焦りが見えた。


「うーん、少しつついてみたい気持ちもあるけど……」


 茜さんはステージ4の亡霊ゴーストを見る。


「良くないよね?」


「なんで俺に聞くんですか……?」


「自分の意見と仁君の意見をすり合わせたいって思って」


「…………下手に攻撃すると進行方向を変えたり、被害が出る可能性はあります。かといって、何もしなければ情報を集められません」


「だよねー……。どっちもどっちって感じ」


「ただ戦う余力もそこまでないですよね?」


「うん。こっちはステージ3を1体とステージ2を3体倒した後だからね。そっちも?」


「はい。こっちもステージ3の戦闘直後です」


「お互い満身創痍ってわけだ。ははっ、これは辛いね……」


「笑い事じゃないですよ……」


 篁さんは呆れていた。


「…………雪城さん?」


 雪城さんは会話に入らず、ずっとステージ4の亡霊ゴーストを見つめていた。


「この方向って……双園市ですよね?」


「……ああ。このままだと……2日くらいで到達するだろうな」


「討伐の作戦はいつ実行されることになるんですか?」


「……明日だろうね。今夜は現実的じゃないと思ってる。人員を集めるのもだし、死神の体力回復もしなければいけない」


「…………これが……双園市に……」


「双園市付近で決戦が妥当でしょうね」


「……そんな……」


「心白。しっかりと気を持って。落ち込んでいるだけじゃ、状況は変わらない。やらなくちゃいけないことが山ほどあるんだ」


 茜さんは雪城さんの肩を優しく叩く。状況は最悪と言ってもいいし、落ち込む気持ちはわかる。その時ステージ4の亡霊ゴーストに動きがあった。


「もう亡霊ゴーストが群がってきたな……」


 ステージ4の亡霊ゴーストの足元に亡霊ゴーストが1匹寄ってきた。おそらくステージ1だろう。


「子分みたいに一緒に動いてる……?」


「もう感じているとは思うけど、ステージ4は黒い霧を大気中に放出する。黒い霧が心力マナってことは知ってるよね?」


「……はい」


「あれはステージ4から心力マナを得ているんだ。今は数匹だけど、作戦決行時はもっと数は増えるだろうね」


「「…………」」


 あまりの状況の悪さに雪城さんと篁さんは言葉を失ってしまった。


「…………よし、集まっている亡霊ゴーストが少ない今ならまだ接近しやすい。この4人で仕掛けよう」


 茜さんが俺達に声をかける。俺達は同時に頷く。


「まず、役割を決めようか。私は接近戦を行うから仁君は近くで補助をお願い。樹里と心白は離れて、私と仁君のフォローとステージ4の様子を観察してもらっていい?」


 茜さんは役割を決めていく。


「俺も隙を見つけて攻撃して大丈夫ですか?」


「うん。お願い。2人もね」


「「わかりました」」


「他に確認しておくことはある?」


「この戦闘のゴールは何にします?」


「そうだね……。攻撃が通りやすい箇所を見つけたいな。コアの場所を掴めれば最高だね。あとはどんな攻撃をしてくるかも引き出したいね」


「了解です。ひとまず今ステージ4にくっついている亡霊ゴーストは俺が倒しますね」


「頼むね。さ、今は時間はないから作戦はこれくらいでいこうか。あと、常に全体防御をしておくこと。これは徹底しておいて」


「「「了解」」」


「じゃあ、いくよ!!」


 その掛け声とともに俺達は一斉に駆ける。

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