第22話 連携

「こちら、清水。位置につきました」


「オーケー。こちらも狙撃位置に到着した。仁、聞こえているな?」


「……はい」


 俺は歩き始める。


(…………あれが……)


 すぐに馬型の亡霊ゴーストの姿が確認できた。距離は20mほどだ。馬型の亡霊ゴーストは腕を組み動かない。


(寝てる……?道路の真ん中っていう目立つ場所で?)


 亡霊ゴーストが動きを止めるというのは見たことがあったが、寝ているというのは見たことがなかった。そもそも亡霊ゴーストが睡眠をとるのかというのは明らかになっていない。


(それとも待っている?)


 目の前の亡霊ゴーストからは王者の余裕のようなものを感じられた。


反転リバース


 俺は反転状態になる。


(このまま殺れるなら、一番楽だが……)


 このまま鋏を飛ばしてみるという案が浮かぶ。そんな簡単に仕留められるとは思っていなかったが、試してみる価値はある。


(ここからだと精度が落ちるな……。もう少し近づこう)


 俺はさらに距離を詰めていく。そして距離は5mほどになった。


「…………」


 無言で鋏を10本ほど展開し、俺はそのまま亡霊ゴーストに向かって発射する。


「なっ……」


 俺の目の前にいたはずの馬型の亡霊ゴーストの姿が消える。そして、気が付けば俺に近づいており、首をめがけてラリアットを繰り出していた。


「ぐっ……」


 俺は上体を大きく曲げ、何とか躱す。ラリアットは空振りし、馬型の亡霊ゴーストは3mほど離れていた。空を切った音が聞こえた。


(くらったら、首が飛んでいたな……。想像以上にヤバい早さだ……)


 馬型の亡霊ゴーストはくるりと向きを変え、俺を見る。そして、口元が緩む。


(そういうタイプか……)


 おそらく好戦的なタイプだ。強い相手を求めて戦う、そんな亡霊ゴーストもいる。


形成クラフト!!スターティアー銀狼ウルフ!!」


 俺は鋏を構え、馬型の亡霊ゴーストを見る。再び、馬型の亡霊ゴーストの姿が消える。


「!!」


 俺は背後にジャンプする。目の前には馬型の亡霊ゴーストが現れ、4本ある腕でパンチを繰り出していた。



ドゴォォォン!!!!



 アスファルトが砕ける。現実世界に干渉するということはそれだけ強い攻撃ということだろう。


「ガラララっっ!!」


 馬型の亡霊ゴーストは大口を開けて、笑う。それはやっとまともに戦える奴を見つけたというような笑いだった。


(それにしても異常なスピードだな……。今まで戦ってきた中で間違いなくトップクラス。ということは……特殊能力方面ではなく、肉体的方面に強くなった亡霊ゴーストか……)


 俺は何とか敵の動きに辛うじて反応できていた。


(しかし、敵はフェイントなどはまだ一切使っていない。使われるとかなり苦しいな……。なら、油断しているうちに……殺しきるっ!!)


 地面から鋏を出現させ、足を止めようとする。


「!!」


 しかし、馬型の亡霊ゴーストは大きくジャンプし避ける。


(反射速度も半端じゃねぇな……)


 俺の視界から馬型の亡霊ゴーストの姿が消える。


「ガラァっ!!」


 一瞬のうちに距離を詰められていた。今からでは回避は間に合わない。俺はもう一本鋏を出現させ、両手で盾のように構える。


「ぐっ……」


 同時に前方の防御を固める。


「ゴオオオっ!!!!」


 俺は4本の腕から繰り出されるパンチを何とか受け止める。


「ぅううっ……!!」


 俺と亡霊ゴースト心力マナで押し合いをしていた。しかし、抑えているのは俺の方だった。俺の身体は徐々に地面をつぶしていく。


(このままだと……マズイっ!!)


 俺は心力マナを大量に放出する。


「お……らぁっ!!」


 そして、なんとか馬型の亡霊ゴーストを押し返すことに成功した。


「っ……」


 敵の拳と鋏が離れたのを見て、さらに後方に距離をとる。


「ふうっ……」


 額から汗が流れる。


(少し誘導するだけで精一杯だ……。伊達にステージ3名乗ってねぇな……。こいつ相当強い……)


 ステージ3の亡霊ゴーストは天馬市で戦った鬼型のように分身という特殊能力に発達するタイプ、猿型の亡霊ゴーストのように肉体的機能に発達するタイプ、両方がバランスよく発達するタイプに分けられる。今回の馬型の亡霊ゴーストはまさに肉体的機能が発達したタイプであろう。しかし、ここまで肉体的機能に特化した亡霊ゴーストも珍しい。


(さて……どうやって誘導するか……)


 決めた作戦を実行に移すためには俺がこいつを狙撃ポイントまで誘導する必要がある。単純に誘導できるとは思えない。


「……形成(クラフト)」


 俺は空中に鋏を大量に展開する。こいつと接近戦をするのはどう考えても不利だった。


「はぁっ!!」


 俺は後退しながら鋏を発射する。馬型の亡霊ゴーストには当たらない。しかし、これはわかっていたことだ。


(よし……誘いに乗った)


 好戦的な性格の馬型の亡霊ゴーストは誘いに乗ってくると思っていた。俺が恐れていたのは、誘いに乗らずこの場から去ってしまうことだった。


(しかし……これは……)


 鋏を大量に発射する戦い方は心力マナを大幅に消費してしまう。雪城さんほど心力マナがあれば話は別だが。


「くっ……」


 距離をとって戦いところだが、馬型の亡霊ゴーストはどんどん距離を詰めてくる。


(いや、これでいい。狙撃するにはさっきのようにぶつかり合うのが一番狙いやすい)


 山本さんがいくら狙撃が上手いと言っても超高速で動き回る馬型の亡霊ゴーストを狙うのは難しい。俺が動きを止める必要があった。


「っ……!!」


 狙撃ポイントであとわずかというところで馬型の亡霊ゴーストに追いつかれる。すでにパンチを繰り出す準備はできていた。


(この角度で攻撃をくらうのは……)


 防御の準備ができていない俺がここで攻撃をもらってしまうと山村さんが待機している建物から大きく離れることになる。この機会を逃すと次のチャンスがあるとは限らない。それに俺が動けなくなってしまう可能性もある。


(っ……!!もうっ……少しっ……!!)


 俺は鋏を地面に叩きつけ、無理やり身体を飛ばす。


「いっ……」


 馬型の亡霊ゴーストのパンチは地面を割る。しかし、それだけでは終わらない。すぐに追撃に入る。


(……一瞬だが、時間は作れた……っ!!)


 俺は馬型の亡霊ゴーストの間に鋏を出現させ心力マナをまとわせる。さらに全体防御を展開する。馬型の亡霊ゴーストは怯むことなく、突撃してくる。



ギィィィン!!



 金属音が響き渡る。すぐに鋏にまとわせていた心力マナは破壊される。


(さすがの攻撃力っ……!!でも、動きは止めたっ……!!)


 

バァァン!!



 大きな狙撃音が聞こえる。馬型の亡霊ゴーストは一瞬だが、動きを止める。


(今だっ……!!)


 俺は馬型の亡霊ゴーストの足元から鋏を出現させる。


「ァっ!!」


 俺以外に気を逸らしてしまった影響か鋏は馬型の亡霊ゴーストの足に刺さる。このレベルの亡霊ゴーストの動きを止められるのは一瞬しかないだろう。だが、それでいい。


「ガァァァァァァっ…………!!」


 銃弾は馬型の亡霊ゴーストの首に直撃する。馬型の亡霊ゴーストは大きな悲鳴を上げる。


形成クラフトっ!!不可視インビジブルシャドウ大剣ソードぉっ!!」


 隙を見逃さす、清水さんが追撃する。


(いけるっ……!!)


 清水さんの心器しんきは奇襲に特化した大剣だ。清水さんの素質と組み合わせることで完全に姿を消すこともできる。レーダーでも探知ができない。心器しんきの姿を消すことができるし、大剣の影からもう一対大剣を出現させ、攻撃することもできる。大剣の攻撃力もあって、まさに必殺の一撃だ。


「はぁぁぁぁっ!!」


 清水さんの大剣が馬型の亡霊ゴーストの首を刎ねる。


「今っ!!」


「はいっ……!!」


 俺も鋏で馬型の亡霊ゴーストを斬ろうと立ち上がる。


(よし!!いけるっ……!!)


 俺が山村さん、清水さんと俺の3人の必勝パターンだった。この連携は簡単にできたわけではない。何回も練習を積み重ねた成果なのだ。今までこうして手ごわい亡霊ゴーストを倒してきた。


「はぁぁぁっ!!」


 俺は馬型の亡霊ゴーストを全力で斬りつけた。

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