第21話 得意分野

「じゃあ、ミーティングを始めよう」


 清水さんも合流し、ミーティングが始まった。


「緑野さん、例の画像をお願い」


「はい」


 目の前のモニターに画像が映し出される。


「これは……」


「あれだね……あれ……」


「確かケンタウロスだっけ?」


「……近いと思います」


 俺達はそれぞれ画像を見た感想を口にする。


「あれ?違うっけ?」


「ケンタウロスは上半身は人で下半身は馬だったと思います。でも画像の亡霊ゴーストは普通に馬ですよね?上半身に腕は四本ありますし、頭に大きい角が生えていますけど……」


「言われてみればそうかも」


「じゃあ、ユニコーンとかの方が近いか」


「おそらくは……。馬系であることは間違いないとは思いますが……」


「そうだね。獄羊基地からは馬の亡霊ゴーストと報告がきていた。これが今回双園市に入ってきたステージ3の亡霊ゴーストだ」


「…………」


 俺は画像を凝視する。確かに強そうだった。


「動画もあります」


 緑野さんはモニターに動画を流す。ほんの数秒の死神と戦っている動画だった。


「はっや……」


「おいおい……」


 動画では死神が馬の亡霊ゴーストに轢かれていた。


「さらに直線だと速度が上がります。時速80㎞は出ているかと思われます」


「車かよ……」


「ヤバ……」


「大きさはどれくらいですか?」


「標的の大きさは3mほどです」


「特殊な能力はわかってるの?」


「いえ、わかっていません。戦闘が少なく情報が不足しています」


 ステージ3との戦闘で大切なのは事前の情報だ。戦闘能力、特殊能力がわかっているとそれだけで戦闘が有利になる。


「今ってどこにいるかわかっているんですか?」


「西区の繁華街付近にいます」


「え……それは姿を隠していないってことですか?」


「はい。姿を堂々と見せています」


「これは……誘っているのか?」


「かもしれませんね……」


「とにかく探す手間が省けたのはラッキーだな」


「ですね」


 俺はもう一度モニターに映っている馬型の亡霊ゴーストの画像を見る。


「今は何かしてるんですか?」


「レーダーの反応を見る限り何もしていません」


「それは心力マナを集めているわけでもないってことですか?」


「おそらくは……」


 緑野さんが言葉に詰まるのも当然だった。


「ま、亡霊ゴーストの目的はさておき、作戦を立てようか」


 口を開かなくなった俺達の代わりに生田所長が口を開く。


「こういう足が速い奴は足から潰すのがセオリーですよね」


「うん。そうだね。そうなると作戦の肝になるのは……山村君だね」


 生田所長の一言で全員の視線が山村さんに注がれる。


「ま、そうなりますよね……」


 銃はメインの心器しんきとしても、サブ心器しんきとしてもよく使われる。扱いはシンプルである上に、比較的当てやすいということが理由だ。しかし、遠距離狙撃となると話が別になる。

 俺も一応遠距離狙撃技術を習得しているが、せいぜい10mが限度の上に精度もそこまで高くない。しかし、山村さんは元自衛官で遠距離射撃技術を現実でも会得している。狙撃距離は30mまで可能だ。


「そして山村君を守る役目は雪城さんにお願いしたい」


「え……はい」


 雪城さんは少し戸惑っていた。


「俺もそれが一番いいと思います。この4人の中で一番心力マナがあるのは雪城さんですし、一番硬い防御ができます」


「だな。あとは今回がステージ3初戦闘だし、無理をさせたくない」


「そうなると……私と銀崎君がメイン攻撃役ってことになりますね」


「そうだね。清水さんと銀崎君には一番危険な役目をお願いすることになるけど頼めるかな?」


「はい」


「もちろんです」


 俺は最初からそのつもりだったし、清水さんもあっさりと受け入れていた。


「よし、作戦は決まりだ。銀崎君と清水さんで釣って、山村君で動きを止める。そして銀崎君と清水さんで止めをさす。できれば一撃で仕留める。これでいいかな?」


「私も大丈夫です」


「はい」


 雪城さん、清水さんが賛同する。しかし、俺はその作戦に不安があった。


「2人はどうかな?」


「俺は少し変更して欲しいです」


 山村さんも俺と同じだったようだ。


「何かダメなところがあったかな?」


「いえ、作戦は基本に忠実だと思っています。しかし、それでステージ3とぶつかるのは不安があります。もっと余計な部分をそぎ落として尖らした方がいいです」


「どこを変更すればいいかな?」


「囮役を仁だけにした方がいいと思っています。仁には負担をかけることになるけどいいか?」


「もちろんです。清水さんには奇襲特化にするってことですね?」


「ああ。そういうことだ。仁で釣って、俺が狙撃で足を止める。そして、凛ちゃんが奇襲する。そっちの方がそれぞれの得意分野を生かせる」


 清水さんの戦闘スタイルは奇襲からの一撃必殺だ。清水さんは俺達の中で一番気配を消すのが上手い。武器も大剣で一撃の威力が大きい。


「それはもちろんそうだけど……銀崎君が危険すぎないかい?」


「俺は大丈夫です。俺と清水さん2人が囮になるより、俺が1人で囮になった方が、敵の動くルートを絞れます」


「……わかった。けど、くれぐれも無茶はしないでね」


「……はい」


 これで俺達の動きは決まった。しかし、これはメインのプランだ。


「じゃあ、次にサブプランをいくつか考えておこう」


 ステージ3の亡霊ゴーストとの戦闘はとにかくイレギュラーが起きやすい。そのためいくつかのサブプランをあらかじめ組んでおくというのは鉄則だ。


「私と銀崎君が前衛で戦って、山村さんが狙撃っていうのが狙撃が中心の時のサブプランでしたよね?」


「ああ。でも、今回は心白ちゃんがいる。心白ちゃんは前衛ポジションだから……3人で叩くか?」


「俺が間に入りますよ。心器しんきを飛ばして、足を止めます」


「オッケーそれでいこう。あとは、初撃が外れた時のことを考えよう」


「俺のいる位置がバレたら普通は襲ってくるから、その場から離れるのがセオリーだな。しかし、今回の亡霊ゴーストから逃げるのは厳しいな……」


「そこは俺達が足止めする感じですかね?山村さんを追ったら追ったらで隙ができますし、ある意味チャンスかもしれないです」


「わかった。俺達はその場から離れるってことでいいか?」


「はい。再び狙撃場所を確保して、援護してもらえると助かります」


「それはもちろんだ」


「……僕が口を挟まなくても作戦は大丈夫そうだね。現場では山村君が指揮を執ってもらっていいかい?」


「そのつもりです」


「さて最後に最悪の場合のことを考えておこうか。最悪の場合、つまり負傷者が出た時だね」


「いつも通り、俺が時間稼ぎをします」


「……今回もお願いできる?」


「はい」


 その後細かいことを詰めて作戦会議は終わった。近くまでは車で行くことになった。


「銀崎君、少しいいかな?」


「……はい」


 俺は一人だけ生田所長に呼び止められる。


「……すまないね。いつも君に危険な役を押し付けてしまって」


 2人になったのを確認して生田所長は話し始める。


「俺は押し付けられてとか思っていません」


「……ありがとう」


 おそらく生田所長も山村さんと同じ作戦が思い浮かんでいただろう。しかし、俺を危険にしないように清水さんと2人で囮をするような作戦を提案した。


「俺は大丈夫です」


「……うん。知ってる。君が誰よりも強いってことは。でもね、たまにね見てられないんだよ」


 生田所長は悲しそうな笑みを浮かべる。


「……すみません」


 俺にはそう返すしかできなかった。


「いや、銀崎君は悪くないんだ。危険な目に行かせているのは僕だからね。この気持ちは子供を見守る親の気持ちみたいだね。僕には子供はいないけど……」


 生田所長の言っていることもあながち間違っていないだろう。生田所長と俺は10年以上付き合いがある。小学生の時から見ていれば、親の気持ちになってしまうというのもわかる気がする。


「無事に帰ってきますよ」


「……うん。待ってる。頑張って」


 俺は生田所長に見送られ作戦室を退出した。

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