未来の王太子夫妻の恋 1

 キャサリンはその日、婚約者に会うために登城していた。

 暑苦しいドレスに痛い靴、複雑に編み込まれて痒い髪に辟易としているところに、追い討ちをかけるように最低最悪の婚約者ときた。

 当時6歳のキャサリンはもう全てが面倒臭くなっていた。

 そして今、彼女は親達からの厳命で婚約者と一緒に散歩に出て、婚約者に置いて行かれて、絶賛迷子中だ。


「はあぁー、なんであんなクソに一生を捧げないといけないわけ?さっさと死ねば良いのに。」


 ついつい漏れた独り言は、まさにキャサリンの心情を映し取ったものだった。


「くすくす………、」

「!?」

「あぁ、ごめんね。盗み聞きするつもりはなかった、って言っても、信じてはもらえないか………。」


 とても綺麗な少年が、キャサリンの後ろから笑いながら現れた。

 ミルクティー色をしたふわふわのチワワみたいな髪に、優しいものだけをぎゅうっと詰め込んで煮込んだかのような、鮮やかで見入ってしまうサファイアの瞳。キャサリンはこの世にこんな天使みたいな子が存在しているのかと、呆然とした。


「えっと………、」

「あ、ごめんなさい。あなたがあんまりにも綺麗だったから。」


 キャサリンがにこりと微笑むと、少年の顔がぶわっと赤く染まった。はにかむような美しい笑顔に、キャサリンの頬までもがゆっくりと熱を持ってしまう。


「えっと、あの、………………。」

「レイー!!どこにいるのー?」

「あ、ごめんね。僕もう行かなくちゃ。僕の名前はレイナード。また会おうね。」

「え、あ、………、」


 キャサリンはレイナードという名の美しい天使のような少年が走って行った方向に、呆然と右手を伸ばし、そしてその手をおずおずと抱き寄せた。

 痛いほどに速くなった鼓動と、真っ赤になっているであろう顔。キャサリンはレイナードにまた会いたいと思った。


「キャサリン!!貴方どうしてこんなところに1人でいるの!?」

「あ、母さま。………馬鹿なクズに置いて行かれました。

 『お前と結婚するなんか死んでもごめんだ。、さっさと死ねよ、ブスが。』

 と言われましたので、もう面倒くさいですし、あんな馬鹿なクズ放っておこうと思いまして………、1人で散策しておりました。」


 キャサリンはお口が悪めだ。すぐに満面の笑みで汚い言葉をなんの躊躇いもなく吐いてしまう。キャサリンの両親はそんな彼女を見て、どこで教育を間違えてしまったのかと、いつも頭を抱えていた。

 だが、今の娘の話を聞いて、彼女の母親はいつもの比にならないくらいに頭を抱えてしまった。顔合わせの時から薄々感じはしていたが、2人の相性はものすごく悪いらしい。


「ーーーでも、私、ここでとーっても素敵な人にお会いできましたので、今日のところは満足ですわ。お馬鹿なクズに一生仕えるきは毛頭ありませんが、少しの間ならば、ここに通うのも良きででしょう。」

「………あなたねぇ………、この婚姻は王家たってのというか、王妃様の大暴走によるものなのよ?婚約解消なんて夢のまた夢に決まっているでしょう?」

「うふふっ、大丈夫ですわ。私、やると決めたことはやり遂げますので。」


 キャサリンは今日この瞬間決めたのだ。

 クズでお馬鹿な婚約者といつかというか、近い将来おさらばすると。


▫︎◇▫︎

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