愚かな男

 太陽のような輝きを放つ金髪に、サファイアのような瞳を持っていた隣国の王太子たる男は、見るも無惨な姿に変わり果ててしまっていた。

 太陽のような輝きを放っていた金髪は沢山の汚れによって煤け、サファイアのような輝きを放っていた瞳はひどく濁って澱んでしまった。いつもピシッとしたゴージャスでお金を沢山かけてもらっていた服も、ここにきてからはボロ布に変えられてしまった。


「しゃんと働けや!!」

「ひぃっ!!」


 ぼーっと昔の栄光の余韻に浸っていると、後ろから大柄な男の怒鳴り声が聞こえた。

 いつも褒められて持ち上げられていたガイセルにとっては、ここは耐え難い屈辱的な場所だった。鉱山で働くなど、考えもしたことがなかった。重たいものを運び、鉱脈を掘るなど地獄のような行為だ。


(全てはあの女のせいだ!!自分は無害ですって顔をしてとんでもないことをしやがるっ!!)


 きらきらと輝く銀髪に若葉のような瞳を持った女を思い出し、ガイセルは心の中で盛大に悪態をついた。


 ドン!!


 後ろから強い衝撃がガイセルを襲った。

 ガイセルの2倍近くある巨体を持った男が、ガイセルにぶつかったのだ。


「お、すまん。お前、影が薄すぎておることすら分からんかったわ」

「ーー、」

(こいっつっ!!)


 強い怒りに襲われるが、ここで悪態を口に出し、手を出せば、ここでの生活の唯一の楽しみたるご飯が抜かれてしまう。ガイセルはただただ必死になって耐えた。


 屈辱的な生活も、いつかは終わりが来るかもしれないと、そう自分に言い聞かせて必死になって耐えた。だが、この愚かな男が、陽の光を浴びることは2度となかった。


 何故なら、この日とある顔だけはいい男が掘っていたところの鉱脈が崩れたからだ。


 そして数年後、鉱山の奥である日突然帰ってこなくなった男の白骨が見つかった。

 その男の首には、平民には一生手にできないような宝石がいっぱいあしらわれた十字架がかかっていた。


 この男の死は、隣国には一切、微塵も届かなかったとさ。

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