メアリーは訂正したい

 婚約破棄騒動の次の日、メアリーはギルバートにどうしても言いたいことがあって、ベッドで散々悩んだ末にギルバートを自室に呼び寄せて、彼に打ち明けることにした。


「ねえ、ギル、昨日あのお馬鹿さんに私こう言われましたの。

 『キャサリン・ルーラー

  爵位を傘に着る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。』って。」

「………あのクソ野郎、ダイヤモンド鉱山なんて生ぬるい場所にぶち込まずに、散々いじった後に生きたまま動物の餌にでもしてやった方がよかっただろうか。」

「もう!!物騒なこと言わないでくださいませ!!それに、あれでも発掘における『人財』になり得るかもしれないでしょう?使えるものはどんなものでも徹底的に使わなくっちゃなりませんわ。」

「………君がそういうなら。」


 ぶすーっと膨れた未来の愛しの夫たる愛しの婚約者に、メアリーはクスッと笑った。本当に可愛らしくて頼りになって物騒な婚約者様だ。


「私、この言葉がずっと、そう、昨日の夜からずーっとずーっと気になっていましたの。」


 神妙な顔で見つめてくるメアリーに、ギルバートはゴクリと唾を飲み込む。


「何で?」

「『爵位を傘に着る卑しい女め!!』のところ、正確には『爵位を笠に着る卑しい女め!!』じゃないかと思いまして!!」

「へ?」

「だってそうじゃありませんこと!?『傘に着る』って一体傘をとって何がどうなりどうなりますの!?雨でも降るのですか?『笠』じゃないと意味がありませんこと!?」


 一気に叫んだ捲し上げたメアリーは、はあはあと息を吐いた。どうやら相当に感情がこもってしまっていたらしい。


「そ、そうだね。あそこの場面では『笠に着る』が正解だね。」

「そうですの。あぁー、スッキリしましたわ。お聞きいただきありがとう存じます、ギル。私、やっとこれで睡眠不足から解消されそうです。」

「そ、そうか。よかったよ。」


 やっと訂正できたことに満足したメアリーは、ギルバートのお膝に頭を乗せてすやすや眠り始めた。従者もメイドも誰もいない空間で起こった、嬉しい出来事とも、地獄の所業とも言えるこの状況に、ギルバートが苦鳴を上げたことは言うまでもない。

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