第15話
「良かったね、よく頑張ったよ、アリー。」
「うん、私頑張った。頑張ったよ………!!」
ギルバートは労うようにメアリーの頭をそっと撫でた。
「ではレイナード王太子殿下、これまでに起きたことを掻い摘んでお話しいたしますね。」
「あぁ、客観的な内容を頼むよ。」
レイナードの心配はよそに、ギルバートは今回起こった出来事を分かりやすく丁寧に1から説明した。レイナードはその過程で怒りで顔を赤く染めたり、申し訳なさで顔を青くさせたり、ギルバートの激怒を感じ取って顔を真っ白にしたりした。
「まぁ、掻い摘んだらこんな感じですね。」
「私からも内容の正しさを保証しますわ。」
真っ青な顔色でそれは本当かと言わんばかりのレイナードから視線を受けたメアリーは、こくんと頷いた。
「本っ当に、すまない!!この愚兄は北の塔に誰にも接触できないように厳重に閉じ込めて一生出られないようにする!!」
「もっと誠心誠意謝ってください。」
直角よりも深く頭を下げたレイナードに対してギルバートが不機嫌そうに言った。
「謝罪も閉じ込めるのも結構ですわ。その変わりと言ってはなんですが、彼の身柄をこちらにくださいな。国王陛下にももう許可を得ていますから。」
「はい?」
「ふふ、私、先日お父様からお誕生日プレゼントとしてダイヤモンド鉱山をいただきましたの。ですが、残念なことに人材が足りていなくて………。」
横顔に手を添えて伏し目がちにした表情を作り、メアリーはレイナードに訴えるように話した。
「猫の手も借りたいくらいに困っていますの………。」
「左様ですか。」
「左様ですわ。」
にこっと笑ったメアリーに、レイナードはひくついた笑みを返した。
「では、愚かな兄上でよろしければ、お渡しするよ。塔に閉じ込めるのにもお金がかかるからね。」
レイナードはひょいっと肩をすくめた。
「感謝いたしますわ。有効に活用させていただきますわね。」
「あぁ。………一国の王子を相手にしてこき使うと言えるご令嬢は、世界中探しても君くらいだろうね。」
「お褒めに預かり光栄ですわ。」
メアリーは美しい微笑みを浮かべて扇子をぱらりと開いた。
指先にまで気を使われた美しい動きだった。
「ねぇ、コレット様、メアリー様とお呼びしてもいいですか?」
「……えぇ、構いませんわ。私もキャサリン様とお呼びしても構いませんか?」
「えぇ!!私、とっても嬉しいわ!!」
キラッキラとした笑みを浮かべたキャサリンにメアリーは小さく威嚇したが、キャサリンには抵抗できない子猫が怯えて震えながら毛を逆立てているようにしか見えなかった。
「よかったね、キャサリン。」
「えぇ!!私、とっても嬉しいわ!!」
レイナードとキャサリンの会話をどこか遠くの世界のことのように見ていたメアリーは、ふと思いついたことをギルバートに質問した。
「ねぇギル、この国の王族が贔屓にしている商会はどこなの?」
「………現王妃、君の言う馬鹿クソゴミ屑虫野郎の母親の実家だよ。」
「そう、商会名は?」
「グロッサム商会。」
ギルバートの言葉にメアリーは小さく口の端を上げ、悪い笑みを浮かべた。
「ふん、弱小の威張り商会ね。」
「潰すのかい?」
「えぇ、この機会に潰すわ。」
「それは楽しそうだ。」
「やることは何1つとしてないのに?」
「それでもあのクソババァの実家が潰れるのは楽しそうじゃないか!!」
「王妃のことが嫌いなのね。」
「あぁ、嫌いだよ。」
ギルバートもメアリーと似たような悪い笑みを浮かべ、悪い男女は獲物を見つけた猛獣のような視線を、息子の失脚によって打ちひしがれている王妃に向けた。
「王太子殿下、賠償金替わりに、1つ、お願いを聞いていただけますか?」
「あ、あぁ、内容によるがこちらにできる範囲のことなら構わないよ。」
「ありがとう存じますわ。」
メアリーの楽しげな笑みに、レイナードは本能的な恐怖を感じた。
そして、隣に立っている婚約者の異変に気がつかないキャサリンは今度メアリーが家に来るということに羽の生えた天使のように舞い上がっている。
「殿下方には、これからこちら国で立ち上げます私の実家のコレット商会の妹商会にあたる商会、クラディッシュ商会をご贔屓にしていただきたいのです。」
「そんなことで良いのか?」
「えぇ、私としましては王家にご贔屓にしていただけるだけでも、身にあまる光栄ですから。」
危険な王妃の派閥を排除できる願ってもない提案に、レイナードは訝しげな表情を作った。
「それに私、win-winな関係の契約以外は絶対に結ばないようにしていますの。」
暗にこちらの利益は十分だと言われたレイナードは、安心したように破顔した。
「あぁ、承知した。これからはそちらの商会で買い物させていただくとしよう。」
「まぁ、光栄ですわ!!
ですが、今まで王家に入っていた商会は大丈夫なのですか?」
メアリーは嫌味たっぷりに王妃へと視線を向けた。
そのことに気がつき、びくりと身体を震わせた王妃は国王に縋りとこうとしたが、冷たい表情をした国王によってあえなく無視されてしまった。
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