第14話

「ギルバート、お前は何をしているんだ………。」


 ぐったりとして頭をくらくらさせてしまっているメアリーをそれはそそれは大事そうに、愛おしそうに抱いているギルバートを呆れた表情で見たレイナードがこれは何事だと言わんばかりに頭を抱えながら言った。


「レイナード王太子殿下には関係ございません。」

「そうか………。」

「そうです。だから放って置いてください。」

「分かったよ……………。」


 レイナードは一向にブレる雰囲気のないギルバートを見て常識を求めることに早々に諦めたが、だがやっぱりこの状態に物申したいと思ってしまった。


「コレット嬢はやっぱりコレット商会会長の愛娘なのか?」

「えぇ、そうです。お陰様で私も囲い込むまでに長い時間を必要とすることになってしまいました。」

「あぁ、可哀想に………。」


 気に入ったものならばどんなに汚れて壊れようとも絶対に手放さない病気じみた性格のギルバートのことをよく知っているレイナードは心の底からメアリーに同情した。彼女はもう彼の元から離れることはできないだろう。


「大丈夫よ、レイ。彼女も大分嫉妬深そうだから。」

「そうなのかい?」

「えぇ、私がギルバート様のことを聞いた時に、周りに気づかれないギリギリのラインで私に対して地味ーに威嚇してきていたから。子猫ちゃんみたいにふしゃー!!って。きゃー!!あぁ!やっぱりあれは本っ当に可愛かったわぁー!!」


 またもや踊り出さんばかりに舞い上がったキャサリンに対して、レイナードは暴れ馬を落ち着けるかのようにドウドウと言って宥めていた。


「ギル、もう私は疲れたわ。王太子殿下にこれまでの経緯を説明して帰りましょう?」

「ははは、確かに疲れたね。」

「えぇ、帰って一緒にケーキが食べたいわ。」

「分かったよ。」


 やっと落ち着いたメアリーはぎゅっとギルバートに抱きついて、甘えるように囁いた。得体の知れないキャサリンのことが怖いのだろう。だが、そんな頬を染めて子猫のように擦り寄るメアリーの姿は、またもやキャサリンへと餌を与えるようになってしまった。


「きゃー!!可愛いわ、可愛いわ!!可愛いわぁぁぁぁーーーーー!!!!」


 くるくると美しいステップを踏みながら奇声を上げるキャサリンに、メアリーは目に涙を溜めてプルプルと震えながらギルバートに抱きついた。


「あーあ、怖がられちゃった。キャサリン、こういう子猫ちゃんみたいな子は時間をかけてちょっとずつちょっとずつ気づかれないようにそーっと囲い込まなくちゃだめなんだよ?」


 レイナードの優しい微笑みの奥底に隠された腹黒に気がついたメアリーは、もう社交会なんて一生出たくないと切に思ってしまったが、これからの商売のための必要なことだと頭によぎった瞬間、自分の恐怖などどうでも良くなってしまった。


(ルーラー様はこれから絶対に大口のお客様になってくださるはず。なら、自分の恐怖心や苦手意識なんて関係ないわ。使えるものは全部使う、たとえそれが自分の容姿だとしても………!!)

「ルーラー様は可愛いものがお好きだとのことですので、今度我が商会の可愛らしい商品を選りすぐってお持ち致しますね。」

「まぁ!!嬉しいですわ!!楽しみにしていますわね!!」


 メアリーは僅かに引き攣りながらも、微笑みを浮かべた。

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