柊璃月

背後からやって来た、柊が声を漏らしていた。


「だめ、あそこいや、ひいくん」


そう言いながら、柊が俺の方に近づいて来る。

俺は振り向いて、柊の方を見た。

柊は自分の手から、刃物を取り出していた。

吸収効果を持つ刃物を、鎖でブラつかせながら、ゆっくりとやってくる。


「何がダメなんだよ、お前。俺は行くぞ。プラネットに」


「なんで?どうして?それが、私は、嫌なのに」


段々と口調がしっかりしてくる。

そうして、柊は、じっとりとした視線を俺の方に向けた。


「生きている私よりも、死んでいるかも知れない千幸さんの方が良いんだ」


「…あぁ、そうだ」


俺は柊から逃れずに、刀を強く握り締める。

柊、幼児退行していた柊の姿は何処にも無い。


「嫌…すごく、物凄く、私が居るのに、私が傍に居れば、それで良いでしょ?ねぇ、比良坂くん」


「…幼児退行してたんじゃなかったのかよ、演技剥がれてるぞ、柊」


俺の言葉に、柊は儚げに笑った。


「だって、幼児退行あれじゃあ、比良坂くんを引き留める事は出来ないから…」


演技。

一体、何時から柊は自分を偽っていたのだろうか。

いや、それはもうどうでもいい話だ。


「知ってるよ、比良坂くん、貴方が私を助けてくれたのは、私がおかしかったから、傍に居て支えないとって、そう思ったんでしょう?だから、私も、比良坂くんが離れない様に、そう演じたんだよ?」


「そうか、気が付かなかったわ、じゃあこれで終わりだ。お前は正常なら、一人でも生きていけるだろ」


お前がプラネットに行きたくないと言うのなら。

俺とお前との道は違えたと言う事だ。

その状態で俺は強要する様な真似なんかしないし、お前が違う場所に行こうと誘っても、俺はそれに乗る必要も無い。


だから、俺たちの共同は此処で、終わりだ。


「駄目、比良坂君、駄目なのそれじゃあ、私を、私を見て?千幸さんなんかよりも、私を選んで欲しいの、この世界で、誰も居ない所で、私と比良坂くんだけ、二人だけで、一生を過ごしたいの」


「それはテメェの勝手だ。都合で動くのは俺も同じだからよ…だから、柊、俺は、俺の道を進む」


それだけは譲れないし、譲る気も無い。

俺の決意ははっきりと口にしたと共に。

俺は強く、刀を振るった、その一瞬で、硬いモノと接触する音、金属が擦れる音が響いた。

柊が俺に向けてナイフを投げていた。

その鎖が、俺の黒刀の鎖に当たったのだ。


「じゃあ都合で良いよ。比良坂くん、私が正常だからそれで終わりなら、異常になるよ」


鎖を振り回して、器用にナイフを操作して、柊は笑っていた。


「けど、異常になるのは比良坂くんの方、今度は私が、比良坂くんを介護してあげる」


ぶんぶんと、ナイフを振り回す。

どうやら俺を、傷モンにしようとしているらしい。


「やってみろよ」


俺は黒刀を構えた状態で柊を見た。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る