第25話 俺がなんかしたか?
二人組の
他にも事情を知らんリスティアとミカエルからすればコイツらが夜の内にいきなり消えた事になるが、そこも適当に誤魔化せるだろう。何か理由があってどこかへ消えたのかもしれないとでも言うのも良いし、実は盗賊だったが俺とトゥエンティで撃退した結果逃げたと言っても良い。
ヘレンの好感度を下げない為にも、ただ単に盗賊であるコイツらを正当防衛で殺したと正直に告白するのは避けたいところだった。
「おいおいコイツは……」
そして、俺は死体の処理の前に例の荷物袋の確認をしていた。あの男の遺言に応えてやる気は正直言って全く無いが、死を受け入れてでも誰かに託そうとした点、ソイツが檻に閉じ込められているという点が好奇心を刺激した。中身が危険ならさっさと処理するという目的もあった
。
だが、結果的に言えばこの判断は間違っていたのだ。
「嘘だろ?」
光の強い場所へと檻を置き、中を見た俺は思わずそんな事を呟いていた。それほどまでに中に居たソレは衝撃的だった。
微かに残る文献の記述、希少すぎる目撃情報。大きさこそ違うが、それらとその容貌がピタリと一致する。
「大手柄じゃねえか……!」
次の瞬間、その生物の利用価値が俺の頭の中を駆け巡っていた。魔王討伐の達成には流石に劣るが、それには大きな価値がある。
少なくとも王国の魔術界においては前例が無い。ソレの幼体を捕獲し研究したなどという話は。
「どうにかして学院に持ち込みたいが……クソッ、
降って湧いた幸運。それをどうにか活かす為、俺の思考は傾いていた。
だから気づかなかった。檻の中のソレが、地面に横たわるディスマの死体をジッと見つめていた事を。
「──は?」
それに気づいた頃には、檻の中のソレは淡い赤の光を発し始め。
──ィィィィィィィッ!!!!!
次の瞬間、やけに響くソレの甲高い声と強まった光と同時に、俺の身体は吹き飛んでいた。
☆
竜。それはしばしば伝説の中で語られる生物であり、実在が疑問視される生物であり、確実に実在するとも言われる生物である。
鋼鉄の鱗、強靭な四肢、鋭利な爪、自由に空を駆ける翼、灼熱の息。共通認識として伝わるこれらの特徴は、竜が一個の生物として優れた戦力を持つ事を表している。
その特徴からトカゲや蛇が多量の魔力を吸収した結果変貌した魔獣だという説もあり、生まれた瞬間から竜は竜であり通常の生物としての枠組みを超えた何かであるという説もある。もちろん空想上のデタラメだという説もあり、とにかく竜に関する情報は曖昧だ。
その理由として大きなモノが一つある。死体が見つからないのだ。
目撃情報はある。人里が被害を受けたという情報もある。あるいは特定の自然災害や人間によって打ち倒され殺されたという情報もある。
しかし死体が見つからない。どころか戦いや生活の過程で剥がれ落ちる筈の鱗や爪も見つからない。仮に加齢による自然死を超越した存在だとしても、争いによって死ねば死体となり形跡が残る筈である。しかし見つからない。
加えて竜の目撃証言は基本的に巨大な成体であり、翼や灼熱の息を持つのが本当であれば生かして捕獲する事はほぼ不可能。幼体の捕獲例は数例あるがそのどれもが詐欺か見世物にするのが目的の偽物だ。
それが竜自体の共通認識は広がりつつも、未だ曖昧な議論が続いている大きな理由である。
──さて、竜にまつわる話の中にはこんなモノがある。
竜は通常の生物のようには成長しない。幼体から成体へ。徐々に、緩やかに身体機能や外見を変化させていくのではない。
爆発的に成長するのだ。人間が踏みつけられる程度の大きさから、人間を容易に踏みつけられる大きさへと。犬にも劣る大きさから城門にも匹敵するような大きさへと。ほんの一瞬の間で。
その理由は様々である。環境に適応する為、死に直面した為、
しかしこれは、学者ですらない名も無き男が発した論説にも満たない妄想に分類される話である。
ウィンザーには知る由も無い。
☆
「うおおおおおおおおっっっ!?」
驚愕の声を上げる。少なくとも吹き飛ばされている間はそれしか出来なかった。
檻の中の竜らしき生物の幼体。それが突如として光を放ち声を発した瞬間、俺はその場から生じた風圧によって通り道の方へと吹き飛ばされていた。
「クッ……ソッ! 何が起こった!?」
どうにか受け身を取り、着地と共に状況を確認する。見ればヤツらが拠点にしていた家屋の残骸は完全に崩れ去っている。
「マジか?」
その直上に浮かび上がった、竜としか呼べない生物。
大きさ的にはさっきのトゲネズミを一回り大きくしたほど。深紅の鱗が発する薄い赤の光。静かに羽ばたく二対の翼。凶悪な四肢。
そして何より、その顔面からは見て感じ取れるほどの怒気があった。
「意味が分からん! 急激に成長したとでも……ッ!!」
続いて放たれる咆哮。その音量に思わず耳を塞ぐが効果が無い。頭の奥まで響き身体中が揺さぶられるような奇妙な感覚だった。
「ああああッ! これはっ──!」
謎の咆哮。その分析をしてる暇も無い。目の前でヤツは依然滞空し、今はその大口を空けていた。あれはどう見ても。
「息を吸っているのかっ!」
次に何が来るのかバカでも分かる。俺は咆哮によってぐらつきの残った身体を動かし、竜から離れるように通り道を全力で走る。
「何なんだ!!」
次の瞬間、背後から煌々と溢れ出した光。取り出した札に魔力を込めつつ、そこから迸る熱──
「何が起こってるんだ!!!」
なんで俺は何の脈絡も無く竜に襲われてるんだ!?
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