第13話 肉盾肉盾肉盾
「あのトゲの射手は恐らく魔獣。地面に仕掛けた罠に反応した外敵に、自らが操作するトゲを飛ばす。この罠の探知が難しく、設置場所、設置範囲、設置数が分からん以上、罠の破壊が難しく相手を無視して進むのも色々とリスクがある厄介な相手だ」
気絶したミカエルが目を覚ますのに大した時間はかからなかった。
「魔獣……正直言って私はその類や魔術の知識に乏しい。その考察が正しいかはともかくとして、ここは貴方に従った方が良さそうです。今後の方針を既に考えているんでしょう」
その間にまとめた考えを伝える。話を聞いているミカエルの目に虚無感は無く、この状況を切り抜ける事に対して前向きのようだった。気絶前の言葉といい、復讐を遂げる前に死ぬ気は無いようだ。
「この魔獣はアイツらとの合流前に倒しておきたい。その為にはまずヤツの居場所を割り出さなければならないが」
「罠で思うように動けませんね。何か良い対処法が?」
「とてつもなくシンプルだ。さっきの攻撃はお前の背後からだった。まずはその方向に進む。恐らくその道中で罠を踏むだろうから、飛んで来たトゲの軌道を観察し必要に応じて進む方向の微調整を行い、発射元へと近づいていく」
「……地道な作業ですね。相手との距離次第では何度も罠を踏む必要がありそうです。それと、相手が発射元を隠す為にわざと迂遠なルートでトゲを飛ばしていた場合は?」
「それも一度踏んでみなければ分からんだろうな。観察と踏んでからトゲが到着するまでのラグの大きさで判断しよう。こちらより相手が
「分かりました。ただその方法だと、最初の数回は罠を踏む役と離れた場所からトゲの軌道を遠目で観察する役で別れた方が確実そうですが……」
見定めるような視線。そう、この方法には囮が必要だ。加えてトゲの軌道を観察する以上、さっきのような壁を防御用に出してしまうと視界が塞がる。
確実に軌道を観察するには、基本的に囮がトゲの一撃を受けなければならない。
「――その作業は交代で行こう。発射元の方角をある程度特定した後は俺が先導しトゲを壁で防ぎながら進む。ちなみに、回復術は何度使っても問題が無いんだな?」
「ええ、まあ。使われる側も、さっきのように血を流さないよう即座に治せれば影響は無いでしょう。副作用も重傷でなければ起こりません。先程と違って不意打ちでなければ軽傷で抑えられる筈です」
「良し、動くぞ。最初の囮役を任しても良いか」
「それは構いませんが……理由を聞いても?」
「軌道を観察しつつ、お前にトゲが当たるギリギリにさっきの壁を出して防げるか試してみたい。トゲの速度次第だが、俺にそれが出来れば傷を負う必要性が無くなるだろう」
「成程。では私から先導しましょうか。……期待していますね、首席卒業生殿」
そう言ってミカエルは壁の向こう側へと歩き出す。さあ、ここからだ。
行く手を阻む木を避けつつ、ゆっくりと進んでいくミカエル。俺も後ろから距離を空けてそれに追従する。
そして、二十歩ほど進んだ辺りで。
「来ます!」
その足元から魔術式の起動を示す光が放たれ、その場でミカエルが身構えた。
五秒、十秒、十五秒、罠の起動からその辺りでやや左前方から、木々を通り抜けて迫るトゲが視認出来た。
ミカエルへの着弾まで猶予は数秒。手元に握った〈堅絶〉の札は――使わない。
「左前方だ!」
「っ!」
俺の警告、ミカエルの反応。それらとほぼ同時にトゲは迫り、ミカエルが防御の為に差し出した左腕に突き刺さる。
「くっ……!」
「すまん、警告が精一杯だった」
ミカエルの足跡を丁寧に辿り合流する。左腕をダラリと下げ、苦痛に汗を流すヤツの目には若干の失望の色が見えた。
「予防線は張りつつも確実に出来る事しか提案しないタイプだと思っていたのですが、買い被りすぎましたかね……」
「ぐうの音も出ないが、軌道は視認出来た。進路を修正する。回復術の準備は?」
「……いつでもどうぞ。さっきと同じく一息に引き抜いて下さい」
指示通りにトゲを引き抜き、即座に無事な方の右手で術を行使する。今回は十秒もかからないようだ。
「……完了しました。さて、次は貴方が囮役をする番ですが――」
「ああ、そうだな」
治療が終わった直後、俺はヤツの首元に手を伸ばした。
☆
「あのトゲの射手は恐らく魔獣。地面に仕掛けた魔術式に反応した外敵に、自らが操作するトゲを飛ばす。この罠の探知が難しく、設置場所、設置範囲、設置数が分からん以上、相手を無視して進むのも色々とリスクがある厄介な相手だ」
「魔獣……正直言って私はその類や魔術の知識に乏しい。その考察が正しいかはともかくとして、ここは貴方に従った方が良さそうです。ところで、
「一度攻撃を受けた場所にいつまでも留まるのは危険だと思ってな。お前を背負って警戒しつつ場所を変えたんだが、その移動中に魔獣の話を思い出したんだ。罠を踏む前に気づけたのは幸運だった」
「成程……事情は把握しました。それで、今後の方針を既に考えているんでしょう?」
「この魔獣はアイツらとの合流前に倒しておきたい。その為にはまずヤツの居場所を割り出さなければならないが――」
☆
「あのトゲの射手は恐らく魔獣。地面に仕掛けた魔術式に反応した外敵に、自らが操作するトゲを飛ばす。この罠の探知が難しく、設置場所、設置範囲、設置数が分からん以上、相手を無視して進むのも色々とリスクがある厄介な相手だ」
「魔獣……正直言って私はその類や魔術の知識に乏しい。その考察が正しいかはともかくとして、ここは貴方に従った方が良さそうです。ところで、何故私達は先程居た場所から移動を?あの壁が見当たりませんが」
「一度攻撃を受けた場所にいつまでも留まるのは危険だと思ってな。お前を背負って警戒しつつ場所を変えたんだが、その移動中に魔獣の話を思い出したんだ。罠を踏む前に気づけたのは幸運だった」
「成程……事情は把握しました。それで、今後の方針を既に考えているんでしょう?」
「この魔獣はアイツらとの合流前に倒しておきたい。お前が気絶している間、お前に刺さったトゲの向きから逆算して射手の居る方向へと進んだが、相手がわざと迂遠なルートでトゲを飛ばしている可能性がある。確認の為に囮を――」
☆
記憶消去魔法の弱点として、その時点から一時間ほど前までの記憶しか消せないというものがある。が、逆に言えばそれは一時間が経過しない限り何度でも記憶を消し、記憶の始点を固定出来るという事だ。俺はこれを利用した。
囮として罠を踏ませトゲの軌道確認とそこまでの安全経路を確保、俺もそこへ進みミカエルが自分の傷を治した直後に記憶消去。ヤツの記憶を
後はこれの繰り返しだ。目を覚ましたヤツに状況を説明、説得して罠を踏ませる→傷を治した後に罠を踏ませた記憶を消す→状況を説明、説得して罠を踏ませる……。
その過程でヤツは何度も傷を負うが、その度に回復術で奇麗サッパリ治るし、服の破損も修復機能で元通り。つまりヤツは自分が何度も傷を負っているという事実に気づけない。
魔獣との距離が縮まる毎に状況説明や説得の文言を変える必要はあるが、これで俺はヤツに罠の処理を全て押し付け、何の消耗も無く魔獣にまで辿り着ける。
……正直、ある程度軌道の確認を終えた後は普通に壁を出して守りつつ前に進めばいいのだが、それだと札を無駄に消費する事になるからな。
良いよな?そもそもこんな事態になったのはお前が勝手に森の中に入っていったのが原因。仮にあの
だからお前を肉壁にし続けて前に進んでも――良いよなァ!
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