人工呼吸されちゃった……

 竿が折れそうなほど引っ張られている。

 驚くほどしなっているし、釣り糸が強引に引っ張られてまくっている。


 まてまて、この釣り堀には主でもいるのか!?


「春風さん、これほどの大物がいるのか?」

「たまにいるっぽいよ。一メートル以上のとかね」

「それ、ヤベェな」


 子供のくらいの大きさってことだ。

 そんなモンを釣り上げられるのか?

 その前に竿が折れてしまいそうだけど。


 とにかく俺はリールを巻きまくった。


 ――が、しかし。


 ガリ、ガリ、ガリ……と、ちょっとずつしか巻けない。


 マジか!


 重すぎる……!!


「落ち着いて、会長。焦りは禁物」

「そ、そうだな。ありがとう、春風さん。俺、がんばって釣り上げるよ」

「うん、会長ならできるよ」


 ひたすらリールを巻いていく。

 少しずつ、確実に。


 魚はいつか疲れて脱力する。その時がチャンスだ。



「よし、少しずつ巻けるようになってきた」

「その調子」



 恐らく、魚の方も疲弊しているはずだ。という俺も、だいぶ緊張とかで頭が鈍り始めているけどな。お腹の横も痛いし。


 くそ、なんとか釣り上げたい。


 ……お?


 急に軽くなった。

 もしかして、魚の方が諦めたのかもしれない。今だ、今しかない。


 俺はガリガリとリールを巻いていく。



「これでッ!」



 海面には大きな影が見え始めていた。

 もうすぐだ。



「すご、これは大きいよ。網取ってくるね」

「ああ、頼む」



 だが、次の瞬間だった。


 魚が急に暴れ出し、糸をグイグイ引っ張った。あまりの強さに俺は足元がグラついて、竿ごと持っていかれそうになった。


 ……やっべ!


 転倒する……!



 魚は、まるでバーサーク状態になったかのように大暴れ。行ったり来たりを繰り返し、糸を食い千切ろうと必死だ。



 このままでは俺が海に落ち――うわッ!?



 強烈に引っ張られて、俺はダイブするかのように倒れていく。……やべ、やべ、やべえええええ……!!



「ちょ、会長!! なにしてるの!!」

「魚に竿を持ってかれるぅ~~~!!」


「ちょおおおお!! 会長ぉぉ!!」



 春風さんが再び俺の背中を支えてくれるが――遅かった。


 魚の勢いの方が強すぎて、俺は転倒。海へ転落した。しかも、春風さんも巻き込んで。


 爆弾が爆発したような音がしたと思う。

 心の準備もなかった俺は息をし忘れていた。……く、苦しい。


 やべ、水を飲んで…………しまった。



「――――ッ」



 意識が一瞬にして遠く。

 けれど、春風さんが俺の体を支えてくれていた。


 それからどうなったのか分からない。


 …………。


 俺は死んだのか。

 いや、幸いにも死んではいないらしい。



「会長! 会長ってば!!」


「げほっ……げほ」



 水を吐き出す俺。

 そうか、助けてくれたんだ。春風さんが。



「良かった。水を飲んでいたから、人工呼吸して吐き出させたからね。これでもう大丈夫だから」


「……す、すまん。カッコ悪いところを見せた」

「ううん、いいの。会長から離れたわたしも悪かったから」


 頬を赤くする春風さんは、そう謝罪した。

 ん、なんか目が泳いでいるような。気のせいかな。


 責任を感じてくれているのかな。

 そんな、俺の方が悪いのに。


「命の恩人だ」

「う、ううん。いいよ……その、はじめて貰っちゃったし……」

「ん? はじめて? なんのこと?」


「な、なんでもない。追及したら殴る」


 それは勘弁して欲しい。

 ので、俺は追及しないでおいた。


 ……それにしても、唇が温かいような。気のせいかな。


 ――って、まさか!!


 追及って、そういう意味だったのかよ。

 俺……意識を失っている間に……春風さんと……。マジかよぉ!!

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