春風さんの家(豪邸)

 人工呼吸とはいえ……唇と唇が触れ合った――ということだ。実質、キスだよな。考えただけで、頭が吹き飛びそうになった。


 死ぬほど早まる鼓動。

 乱れる脈。


 嘘だろ?

 これ、夢?



「どうしたの、会長。気絶してからおかしいよ」

「あ~、頭がぼうっとしてさ。それより、助けてくれてありがとう」


「当然のことをしただけ」


 誇るわけでもなく、春風さんはクールにそう言った。……カッコ良すぎか。


「お礼をさせてくれ」

「必要ないよ。わたしは会長と遊べるだけで楽しいからさ」


 そう言ってくれるとは……なんだか嬉しいな。俺も春風さんと一緒にいるだけで楽しい。普段とは違う景色が見れるし、なにもかも新鮮だ。


「とりあえず、服を乾かさないとな」

「それなら家へ来るといいよ」

「え……春風さんの家に?」

「だって、そのままじゃ帰れないでしょ。風邪引いちゃうし」

「そうだけど……いいの?」


 黙ってついて来いと春風さんは手招きする。拒否すれば蹴り殺されるかもな。あの目つきには敵わない。


 釣り堀から少し歩いた場所に豪邸があった。



「ここがわたしの家」


「――ええっと、別荘?」

「だから家だってば」



 いやいや。どう見たって豪邸なんだが。普通庭にパターゴルフなんてないし、プールだってない。なんで池もあるかね。


 高級車とかバイクも置いてあるようだし、何だこの家。


 俺のボロアパートとは真逆じゃないか。



「春風さん、金持ちの家だったのか」

「釣り堀経営してるくらいだからね」


 言われてみればそうだ。

 あんな広いお店を構えて維持しているくらいなんだ……あのパパさん、実は凄腕の経営者なんだな。


 感心しつつも庭を歩き、大きな玄関の前。……いちいちデカイな。


 というか、普通は玄関が観音開きフレンチドアとかありえないだろッ。


「広くて開放感のある家だね」

「そうかな。とりあえずタオル持ってくるね。会長、そこで待っていて」

「分かった」


 春風さんは風呂へ向かったらしい。

 しばらくするとバスタオルを持ってきてくれた。


「会長の服とか乾かしておくから……えっと、脱いで?」

「――なッ!」


「ああ、安心して。わたしはリビングにいるからさ。会長がお風呂に行った後に回収しておく。ドラム式洗濯機の衣類乾燥機能があるからさ、一、二時間もあれば乾くと思う」


 俺にとっては百年先をいくテクノロジーじゃないか。そんなものが、この家には置いてあるのか。……すげぇや。驚きしかないぞ。



「なんか悪いね、春風さん」

「遠慮しないで。お風呂はこの廊下の突き当りを右ね」


「お言葉に甘えるよ」



 俺は、まずは靴下を脱いで裸足になった。タオルで拭いてから、そのまま案内された通りに向かった。


 それにしても広い廊下だな。

 良い匂いもするし、なにかの芳香剤かな。


 落ち着かないながらも、俺は風呂らしき扉の前に到着。


 しっかり暖簾のれんがあるし、温泉とか銭湯みたいだ。本格的すぎだろう……。


 スライドドアを引いて、俺は中へ。


 暖簾を押しのけて中へ入ると――。



「……姉ちゃん、勝手に入るなっていつも……へ」



 タオルで頭をゴシゴシしている裸の女の子は、俺の方へ振り向いて驚いていた。……って、裸ァ!?


 ちょ、誰かいるだなんて聞いてないぞ!!



「あ、あの……俺は、その……」

「きゃああああああああ、変態!! 覗き! 痴漢!」


 涙目の女の子は、グーで殴りかかってきた。

 俺は辛うじて回避した。

 あっぶねえ……。


「すまない。これは誤解なんだ」

「なにが誤解よ。この犯罪者がっ!!」


 ブン、ブンとストレートパンチが向けられるが、俺はなぜかかわせた。なんでだろう、今、アドレナリンが過剰分泌しているせいかな。


 なんか、変な気分だ。


「やめてくれ、ちゃんと説明するから!」

「なにが説明よ!! ふざけんな!!」


 このままだと殴り殺されるぞ、俺。

 慌てていると春風さんが駆けつけてくれた。



「騒がしいと思ったら……なにやってんのよ、なみ



 この女の子は南波というか。

 ……って、妹がいたのか!?

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