現れたインナーカラー女子

 釣りを楽しみながら、俺は会話に花を咲かせた。


「春風さんはアニメとかゲームに興味は?」

「へえ、勤勉っぽい会長がそんなことを聞いてくるだなんて」


「意外だった?」

「うん。あんまり興味ないかと」

「そうでもないさ。妹がどっちも好きでね。ヌンテンドー・ソイッチとかブレステ5とかな」


「定番だよね。アニメは?」

「いや、俺はアニメはそんなに。どちらかといえば洋画だな」


 俺は映画が大好きだ。

 特にアクション映画とかSFは何千と見てきた。

 レンタルするだけでなく、実際に映画館に一人で見に行ったりもしている。生粋かどうかは別として、割と映画マニアな方だと自負している。


「サブスク?」

「二つ契約しているよ。アマドンプライムとネットブリックスね」

「お~、会長ってば気が合うね。わたしも映画とか海外ドラマを見るよ」


「マジか! それは驚いたな」


 春風さんの趣味って、全然イメージ湧かなかったけど俺と共通していたんだ。これは嬉しいな。

 映画とかなら話題は尽きないぞ、俺。

 無限に話せるぜ。


 さっそく何か話そうかと思ったが、誰かを呼ぶ声がした。



「――ハル! ハルってば、こんなところで何してるのさ」



 ハル?

 誰のことだ……って、まさか春風さんのことか。


 インナーカラーの髪色が目立つ女子高生は、春風さんの肩を気安くポンポン叩く。


 だが、春風さんは目を吊り上げて明らかにブチギレていた。……こ、怖ッ!



「あぁ!?」

「なんでガン飛ばすのさ。あたしよ、あたし」

「……なんだ、マキか。髪色が変わっていたから気づかなかった」

「さっき変えたの。……で、そっちの男子って……あれ、生徒会長じゃん!?」


 俺を知っているのか。

 生徒会長の知名度、そこそこあったんだな、知らなかったよ。


 だけど、俺は彼女を知らない。

 多分、春風さんの友達かな。

 ていうか、友達いたんだ。


「三年の桜田 紅です。よろしく」

「やっぱり、会長じゃん。三年で別のクラスの西崎にしざきマキ。ハル……春風とは愛――もがもがぁぁぁ!?」


 春風さんは、いきなり西崎さんの口を塞いだ。おいおい、それ窒息するだろうに。


 ジタバタ暴れて顔を真っ赤にする西崎さん。


「お、おい。春風さん、それ死ぬって」

「おっと……悪い」


 春風さんは手を離す。

 西崎さんはゼェゼェ息を乱して死にかけていた。


「こ、殺す気か!!」

「ごめんごめん」

「……ったく。ワケありなのかよ」

「会長にはまだ秘密」

「秘密って、もうバレてるだろ。昨日もニュースになっていたし」



 と、西崎さんは妙なことを言った。

 ニュース? ニュースといえば、なんかあったな。


 あ~…確か、暴走族の『あい』と『デストロイヤー』の抗争か。


 なんの関係があるんだか。



「そうでもない。マキ、これ以上は邪魔しないで」

「……まったく。でもね、不穏な動きがあるみたいだから気をつけてね」

「ありがと」


 短く返事をする春風さんは、釣りに集中していた。


 いったい何の話かサッパリだ。

 西崎さんは、諦めてきびすを返した。



「じゃ、会長。あたしは行くわ」

「了解」



 彼女は手を振って出口へ戻っていく。

 いったい、何をしに来たんだか。


 ぼうっとしていると春風さんが俺を名を呼ぶ。


「会長、糸が引いてるよ」

「なぬっ!?」



 気づけば竿の先がブルブル震えていた。これは大物だぞ!


 俺は力いっぱいリールを巻いていく。


 ガリガリ、ガリガリガリ……と。


 力強く引っ張られ、大物の予感しかなかった。


「おぉ、これは大きいよ」

「らしいな。がんばって釣り上げるよ……とと! 力強いッ」


「ちょ、大丈夫? わたしも手伝うよ」



 俺の背後に立つ春風さんは、一緒に竿を支えてくれた。こ、これは想定外のシチュエーション!


 どうしよう、緊張して手が震えてきたぞ。


 しかし、魚は待ってくれない。

 くそっ、釣り上げて……良いところを見せたいぞ!

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