第13話


 試験が終わった生徒は全員、中央講堂で待機することになった。

 そこはかなりの広さで、全学年の生徒(六クラスが三学年分)が入っても余裕があるほどである。


 全員の試験が終わってしばらくすると、教師がやってきて、クラス分け一覧表を魔法によって空中に表示させていく。

 大半が緊張感に包まれている生徒たちは恐る恐るといった様子で結果を見ている。

 基本的には成績順にクラスが分かれていた。


「──えっと、僕のクラスは……」


 クラスごとに試験番号が記されており、その隣に名前も併記されている。

 試験結果から自分の成績を把握しているため、カイルは自然な流れで真ん中から順番に下のクラスへと向かって探していく。


 他の生徒たちは緊張と興奮交じりで上のクラスから見ているために下のほうはまだ空いており、余裕を持って探すことができる。


「…………やっぱりここだったかあ」

 少し離れた上位のクラスの前では、歓喜の声が上がっているなか、力なく呟いたカイルの視線の先にあるのは一番下のFクラスだった。


「まあ、学ぶのにクラスは関係ないか……よし、がんばろ」

 しかし、すぐに気持ちを切り替えて講堂を出て自分のクラスへと向かう。

 各クラスの場所は出口で簡易地図を渡され、確認しながら移動していくことになる。


 初めて通る道を案内に従って校舎内を進んでいくが、Fクラスの場所だけやけに奥まった場所にあった。


「ここ……だよね」

 そこはなぜか他の教室からは切り離されたはなれのような立ち位置になっており、完全に別棟として建設されている。

 迷ってしまったのかと勘違いしてしまうほどに、今までとがらりと雰囲気の変わった場所だった。


 そのため、カイルは思わず疑うような一言を呟いてしまったが、入り口の上には確かに【1─F】と記されておりもらった地図にもこの場所が記されている。


 他のクラスはここに来るまでの廊下沿いに等間隔に並んでおり、一般的な石造りの様相だった。

 学院の長い歴史を感じさせる雰囲気ではあったが、清潔感を覚える綺麗な造りである。


 だがこのFクラスがあるエリアだけなぜか完全な木造で、しかも薄暗いうえに劣化が激しく、床も歩くたびにギシギシと音をたてていた。

 古びた扉は開いているが、先に来ている生徒はおらず、カイルが一番乗りのようだった。


 もちろん室内も廊下と同じような古びた雰囲気で、教壇が下にあり、階段状になっている教室に使い古された机と椅子が並んでいる。


「とりあえず一番奥に座ってみようかな」

 誰もいない教室をぐるりと見渡すものの、座席表がないため、カイルは全体を見渡すことができる窓際の一番上の席を選ぶ。


 しばらくすると、組分けを確認した生徒たちが順番に教室へと入ってくる。

 

 その中でもひときわ目立つ容姿をしているのは、何番目かに入って来た水色の髪をした美少女ともいうべき女生徒だった。

 腰のあたりまで伸びている髪を編み込み、それを上品に結わえ、大きなリボンをつけている。


 ロングスカートの制服を着ていても気品が感じられる立ち振る舞い。

 一見するだけで貴族のお嬢様なのだろうというのは、カイルの目から見ても明らかだった。


 だがどこか悲しそうな表情で、俯き加減で教室に入ってくると、静かな足取りで段を上がってカイルと同じ机に着席する。


(まあ、一番下のクラスなのがショックということなんだろうね。貴族にとってFクラスに入るのは不名誉なことらしいからなあ……)

 商家の出身であるカイルには理解できない考え方だが、名誉を重んじる貴族からすると、最低クラスというのは恥以外のなにものでもない。


 彼女以外の生徒も次々に教室に入ってくるが、落ち込んでいるか、怒りに満ちた表情をしているかの二択に分かれている。


 王立魔法学院は王家と貴族の後援があるおかげでなりたっている。

 ゆえに、基本的には王族、貴族の子が入学するため、カイルのように平民が入学するのは珍しいことである。

 入学金と年間の学費がほかの学校と比べてけた違いに高く、金銭的に裕福な家の子どもたち向けの学院であるため、奨学金などの制度もない。


 そして王族や貴族の子たちは幼いころから専属の家庭教師を雇い、魔法学院で苦労しないように送り出す。

 その環境下で一番下のクラスということは、かなりの金を支払ったにもかかわらず、落ちこぼれということになる。


 同じ机についた女生徒はため息をつきながら今にも泣きそうなほど激しく落ち込んでいた。

 それこそ首の角度が九十度になるのではないかというくらいガックリ下を向いている。


「あの……大丈夫?」

 それを見たカイルは思わず声をかけてしまう。


「うぅ、放っておいて下さい……私は貴族の娘なのに全くといっていいほど魔法の才能がないので、一番下のクラスになってしまっただけなんです……!」

 ホロリと大粒の涙をこぼした彼女はどうやら不幸の絶頂にあるようで、カイルの声かけにもうつむいたままだ。

 改めて自分の口にしたことで現実を突きつけられた気持ちになったのか、彼女のネガティブ思考を助長させてしまっていた。


「あぁ、いやごめん……でもさ」

 謝罪しながらもじっと彼女を見つめたカイルは首をかしげる。


 どうにも彼女の『魔法の才能がない』という言葉にひっかかりを覚えていた。


(この子、内包している魔力量はかなり多いんじゃないのかな……?)

 大体の魔力量を目視できるカイルの目にはそう見えているのに、才能がないと嘆き、Fクラスという結果になっているということは、使い方かなにかに問題があるのではないかと考えている。


「今は確かにお互いFクラスかもしれないけど、これから先のことはまだまだわからないよ。僕たちだってほかのクラスと同じように実力者が集まっている学院の先生に教えてもらうわけだし、努力すれば新しい才能も見つかるかもしれないよ?」

 慰めではなく、確信を持ったような力強くも優しい言葉に、戸惑いながらも彼女は顔をあげる。


 カイルの顔をその眼に捉えた瞬間、キョトンとした表情で驚きながら呆然とカイルを見つめる。


「えっ……?」

「どうも、やっとこっちを見てくれたね。僕の名前はカイル、カイル=フレイフィールド、よろしくね」

 驚き固まるケイティに、カイルはにっこりと笑いかけながら自己紹介をする。


「あ、その、わ! 私の名前はケイティ=フレデリック、です!! よろしくお願いします……!」

 みるみるうちに顔を赤くしたケイティはなんとか自分の名前を口にするが、未だ驚きの渦中にあるようで目を丸くしている。

 まさかカイルが自分と同じクラスであるとは思ってもみなかったからだった。


(ど、どどど、どうして、あのお方が、目の前に???)

 高鳴る鼓動を抑え込むようにぎゅっと手を握った彼女はカイルを見てひどく驚愕していた。


 カイルからすっかり目を離せなくなったケイティは興奮に胸を高鳴らせながらとあることを思い出していた。

 そう、彼女は五歳の頃にカイルに森で助けられていた、あの馬車の少女だったのだ。 


 王都広しといえども、彼のような美しくふわふわな銀髪は他にいない。

 魔物に囲まれて馬車の中で怯えながらこっそり外をうかがったときに見かけた、キラキラと輝く銀髪と圧倒的な実力で魔法を使いこなすカイルの後ろ姿は幼いケイティの心に強く残っていた。


 命拾いをしてからからずっと彼のことを必死で探していた彼女は、思わぬ再会に涙を流しそうになってすらいる。

 

 だが一方で彼女が驚きと戸惑い、そして感動に包まれていることにカイルは気づいていなかった。


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【あとがき】

『世界に一人、全属性魔法の使い手』

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https://kakuyomu.jp/users/katanakaji/news/16817330658696691191


※注意

こちらの内容は小説限定部分も含まれております。


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