第5話
夫が帰ってくるまでの間、私はとにかく必死で彼女の世話をしました。
と言っても、朝の出勤前に病院で預かってもらい、迎えに行くのはいつも午後7時を過ぎていたので、実際には夜の間だけでしたが。
彼女は、少しずつ少しずつ弱っていきました。
一粒ずつなら、口に入れれば食べてくれていたドッグフードも拒否するようになり、流動食とお水を注射器で与えるようになって。
時折、夜鳴きの名残なのか「ヒン・・」と出していた声も出なくなって。
下痢も止まらなくなりました。
けれど、ふとした時に、眼に力を感じる時があって。
わずかであっても流動食やお水を摂ってくれるのは、そんな時でした。
なので、彼女を病院から連れて帰ってからは、自分の事はなるべく最短で済ませて、一晩中彼女の様子を見守っていました。
昼間は、普段なら勤務中は鞄に入れっぱなしのスマホを常に手元に置いて。
もしも病院から緊急の連絡が入ったら、と思うと、気が抜けませんでした。
そんな風に日を重ねて。
そして、土曜の夜。
帰宅した夫と彼女はようやく会えたのです。
電話で私が話すだけでは、彼女の変わりようはちゃんとは伝わっていなかったらしく、夫は言葉が出ない様子でした。
でも、彼女はしっかりと夫を見ました。
私にはそう見えたのです。
「パパが帰ってきたし、見てくれているから、ミルク(流動食のことです)飲もうね」
と、話しかけて、いつも通り注射器で与え始めると。
その時の彼女は、ゆっくりゆっくりではあったけれど、普段の倍以上のミルクを摂ったのです。
「すごいよ。パパが見てたら、たくさん飲めるね。偉い、偉いよ」
私は喜んで、彼女に声をかけて。
夫には、
「いつもはね、この注射器の半分摂るのがやっとだったんだよ。でも今日はこんなに飲めてる!」
と注射器を見せて言いました。
夫も喜んで、
「そうか、偉いな。頑張って飲んで、早く良くなろうな」
そう、彼女に言っていました。
この時、私は本当は少し期待してしまっていました。
元通りに元気にはなれなくても、もう少し回復するかもしれない、と。
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