知盛半身

蝋燭の火を消しながら、知盛になりきれぬ某かが空き瓶に十五夜の月を眺める。

ベルゼブブにあらず、マモンにあらず、アスモデウスにあらず。

霧もやの夜露のその洞穴の奥で、弦月は彷徨う。

天岩戸を出づる理由は、タナトスの求愛に他ならぬ。弦月を見、タナトスは己の鏡像を知る。

概念の曲解の偶像の分析を持って、ベルフェゴールはルシファーの受けた仕打ちを己に反芻する。

氷漬けの半身は動くことを知らない。二度と天より堕ちることのないよう。例え半身がヘルに似ようとも。

エーリューズニルを訪ねるヘルモーズは、アモンを従えて、バルドルには目もくれず、歩いてゆく。

あらゆる偶像の信仰の、そのまた拠り所であり破滅であり、スルトの火炎であり、ナグルファルの汽笛であるそれを見し時、鏡像は何を結ぶのであろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る