6てぇてぇ『弟の愛姉弁当って言ってぇ、人気の同期とオフコラボ決まったんだってぇ』

【30日目・真莉愛視点】




「ねえねえ、うてめちゃーん。最近どしたのよー?」


 【ワルプルギス】の事務所で、私にそう声をかけてきたのは、同期の神野ツノかのつのだった。


 ツノは、私より登録者数も上で人気Vtuberだ。

 ちょっと際どい発言もするけどその砕けた雰囲気と抜群のトーク力で笑いがとれるのに、歌は本気でうまい、そのギャップで大人気。

 中の子も髪が紫でド派手な目を惹く子だ。


「どうって何が?」

「いやいやいや、最近うてめちゃんの配信すごすぎない? 超面白いんだけど」

「そう?」

「うん、なんかのびのびやって楽しそうだし。それにもう明らかに登録者増えまくってるじゃん。ヤバくない?」


 確かに。ここ最近の私の登録者数の伸びは半端ない。

 理由は……明確だ。

 だが、その話をするつもりはない。ない、が……


「ウチに、弟が来てくれたから」


 言ってしまう。ああ、つい。つい!


「え? 弟? あの弟君? 実在したの?」


 ツノが驚いている。実在する。しなければ私は死ぬ。


「実は、今日のお弁当も弟の」


 言ってしまう。見せてしまう。ああ、つい。つい!


「うっわ! うまそ! 何これ!? しかも、めっちゃいろどりよくない?」


 褒められて頬が緩んでしまう。

 今日のお弁当は、ハニーマスタードチキン、筑前煮、卵焼き、トマト。

 きぬさやの緑、卵の黄色、トマトの赤がカラフルにお弁当を彩る。

 【ワルプルギス】に来る時は毎回作ってくれるお弁当。

 特に今日のは好きなものばかりで喜んでいると、


『どれも作るのは簡単だよ。筑前煮も俺は出汁からやってるけど、めんつゆ最強だから分量さえ間違えなければ、姉さんでも作れるよ。レシピ書いておこうか』


 泣いた。

 累児がお別れフラグ立てはじめたから。

 なんでそういうこという~とちょっと泣いた。


「ええ~、なんか愛妻弁当みたいだねえ、あいさい?」


 ツノがそう言っているのを聞いて思い出し泣きしそうだった涙が引っ込む。


「うふふ、あいさい……あい……愛……」

「ああ……弟君、すごいね……(うてめちゃんの)愛が半端ない……」


 そう、弟は凄いのだ。

 まあ、見た目は普通かもしれないが、とにかく凄い。自慢の弟だ。


 私は弟が大好きだ。


 弟が声優にハマっていたから声優を目指したし、Vtuberに変わったからVtuberを目指した。

 なのに、弟が違うVtuber事務所に就職した時はショックだった。

 ショックで実家にある弟のものを全部送ってもらった。

 両親は、何も言わず送ってくれた。

 私には、弟が必要だと知っているから。


 弟が私を応援してくれた実家での一年間がなければ、私は今ここにいなかっただろう。

 その位あの一年Vtuberとして弟に助けられていた。

 そんな弟が事務所をクビになった時は複雑な感情に襲われた。


 事務所を燃やしてやろうかという気持ちと、お陰で私が養えるという感謝の気持ちでカオスが生まれた。


 だが、その混沌も弟がいればすぐに収まった。もうどうでもいい。

 なんか看板Vtuberの一人が辞めて、一人が落ち目っぽいらしいがどうでもいい。

 弟さえいればどうでもいい。


「えーいいなー! アタシも弟君のごはんたべたーい! あ、そうだ! オフコラボしよーよ! お泊り配信!」


 ツノは思いついたという顔で提案してくる。

 いやだ。弟は私のものだ。


「ダメよ」

「えー、でも、弟君ってVtuber大好きなんでしょ? もしかしたら、会わせてくれてお姉ちゃん大好きーってなるか……」

「いつする?」


 その考えはなかった! ツノは天才か。

 そして、その日私は、弟にそのことを告げると、ほんとに言われて私が鼻血を垂れ流し、配信を予定より遅らせることになったのだけど、


『てめーら遅くなってごめんね、弟にサプライズプレゼントしたら、喜んじゃってね。抱きついてきちゃって……鼻血出しちゃってた』

〈てぇてぇが過ぎるぜ……〉

〈てぇてぇてぇてぇ! てぇてぇてぇてぇ! てぇてぇー---!〉

〈現場検証させてくだちい〉


 その理由でまた盛り上がった。

 そして、配信終わったら弟が抱きついてごめんと手作りプリンを……!


 ああ、おとうとの尊いが過ぎるんだが!!!!!!!!!!!

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