7てぇてぇ『弟ってぇ、こんなに尊い存在なんだと知ってぇ』

【40日目・ツノ視点】




 今日は、うてめ家でオフコラボ。

 今まで、うてめはオフコラボをしたことがなかった。

 同期の中で一人浮いている存在のうてめ。いつも物憂げな感じだった彼女の最近の浮かれっぷりは半端ない。

 そして、人気上昇っぷりも半端ない。テンションも人気も浮上しまくり。


 アタシだって頑張ってるのに、ちょうどこの前、うてめに並ばれた。

 多分、このまま抜かされるだろう。

 恥ずかしくてもちょっとセクシーなネタも言って、終わった後ずーんとなっても頑張ってるのになんでだろう……。


 いや、いかんいかん! 弟君はVtuber大好きで、しかも、アタシも大ファンの一人だって言ってくれてるし、イメージを崩してファンを減らすわけには!


 気を取り直して、うてめの家のチャイムを鳴らす。

 出てきてくれたのは、弟君。


「あ! あの、本日は、お越しいただき、あ、あ、ありがとうございます!」


 普通。

 うん、普通。

 キョドってるし、普通だ。


 馬鹿にしてるわけじゃないけど、うてめがあれだけ言うからどれだけのイケメンかと思ってしまった。

 いや、申し訳ない。それはひどいぞ。ツノ。

 気を取り直して挨拶をする。


「どーも、弟君☆ 神野ツノです☆」

「ほ、ほ、ほ、ほんものー!!!!」


 めっちゃ興奮してる。テンション上がる。リアル接触は控えているけど、やっぱりこれだけ喜ばれるとアガる。

 そういえば、一回、知り合いの知り合いって人にバレてガッカリされたことあったな。ああ……。

 でも、弟君はとんでもなく喜んでくれた。嬉しいな。おい。


「どう? 累児?」


 あ、弟君の後ろからうてめ登場。

 コイツ……マジで弟君のっぽい男物の着てやがる……! モノホンのブラコンやんけ……!


「姉さん、すごいよ! 流石姉さん!」

「ふふ……そうでしょ? 姉さんのこと、好き?」

「大好きだよ! 姉さん! ありがとう!」


 うてめがメッチャドヤってる。珍しい。そして、かわいい。

 やっぱり彼女が最近楽しそうに配信しているのは弟君が原因だろう。

 いいな、アタシにもそういう存在がいたらな……。


「……?」

「ひとまず、累児のごはん食べましょ?」

「あー、うん。そうね! 食べる食べるー! 弟君のごはんたのしみー!」


 と、そこに並べられていたご飯はヤバかった。


「アタシの好物ばっかりなんだけど……!」

「はい! ツノ様が来られるという事で、腕によりをかけて作らせていただきました!」


 色んな料理が所狭しと並んでいる。いや、すごすぎん?

 でも、やっぱり目を引くのは好物の、


「うわあ、ラーメンセットだあ」

「はい、公式に真夜中罪悪感ラーメンとあったし、よくラーメントークは聞くので、チャーシュー麺と、ギョーザ、チャーハンです」


 早速一口頂く。うわ、このチャーシューうまぁ。めっちゃ柔らかい上になんだろ、この甘みとコクと深み……いや、ちょっと待て。


「このチャーシューって」

「あ、流石。気付かれました? これ、作りました。ハチミツチャーシューです。ハチミツは味に深みを与えてくれるし、肉が柔らかくなるんです」


 ハチミツ!? 言われれば確かに。え? うますぎん?

 餃子も普通の形じゃなくて棒状でなんかこれならアタシでも出来そうな包み方。

 んで、中身は、これまた大好きな梅しそ大葉。やみぃ……。

 チャーハンもただのチャーハンじゃなくてあんかけかと思ったら、卵かけチャーハンだった。ちょっと味濃いめのチャーハンと良く合う。ぶぉのぅ……。


 それに、公式にのってある好物は勿論なんだけど……


「これって……」

「あ、はい! 確か、一昨日の配信で食べたいなーって言っていたので、まだ食べてないといいなと思って」


 最近の配信でしか言わなかったものから、昔配信でちょっとだけ言ったことのある好物までありとあらゆるものが並んでいた。しかも、美味い。


「飲み物なんですが、ツノ様は、喉を酷使されているので、ちょっと喉にいい飲み物を用意させていただきました。あ、あと! この辺もいいはずなので、是非多めに食べてくださいね」


 ……ヤバい。なんだ、コイツは。泣かす気か。やさしくされたぞ。

 顔は普通だ。普通なんだけど、超輝いてる。


 その日は最近の食欲のなさが嘘だったかのように食べた。美味しかった。


 そして、オフコラボが始まるとなると、


「じゃあ、お二人の配信見てますので、頑張ってください! あ、もし飲みながら配信なら是非これをはちみつのお酒なので、体にもいいですし、多分、二人とも好きな味かと!」


 凄い笑顔でそんな事いう。えー……


「ツノ、私から累児とったら許さないから」

「いやいやいや! とらないよ! でも、本当にいい弟君だね」

「うん~そう~」


 表情筋を亡くしてしまったうてめが居るんだが。マジか、こんなうてめ初めて見た。


「姉さん、しっかり。ほら、配信始まるから。一応、今日のメニューのメモね。変わり種っぽいのもあったから、もしトークでネタとして使うなら」


 ネタ提供もしてくれるのかよ。完璧か。


「じゃあ、姉さん、頑張ってね」

「……累児、アレやって」

「……え? 今、ここで?」

「今、ここで」


 え? なんだ? いけないアレか。弟君がチラチラこっちを見てる。


「うてめに良い配信して欲しいなら、さあ」

「あ~もう! ツノ様! これは飽くまで良い配信を見る為なので!」

「う、うん……わかったー」


 何も分かっていなかった。

 だが、有無を言わさぬ迫力で弟君が言ってきたので、思わず頷いた。


 すると、弟君はまたチラっとこっちを見て大きく深呼吸し……うてめの頭を撫でた。


「が、がんばってね、姉さん」

「うん~、がんばりゅ~♪」


 なんだ、あのメス声は!? いや、最近うてめの配信でああいう声聞くな!

 これか!? これが原因か! なんだかちょっと興奮してきたな!

 てぇてぇ! てぇてぇ姉弟愛が目の前で繰り広げられておるよ!


 満足したうてめがニコニコして準備を始めている。


 ……。


 ごくり。


 そんな音がアタシの喉から聞こえる。


 そして、アタシは照れくさそうにこっちを見て、すみませんと頭を下げている弟君の元へこっそり向かい、言ってしまった。


「あー、あのー、アタシにも、それしてくんないかなー」

「へ? ツ、ツノ様!?」


 言ってしまった!


 だって、羨ましかったんだもん!


 しょうがないじゃないか!


 アタシは、ちょっと上目遣いしながら、自慢のお色気お姉さんツノボイスで囁く。


「だめ、かなあ?」

「んぐぅ……ダメじゃない、です」


 弟君が震えながら、アタシの頭を撫でる。

 ふへへ……お腹もいっぱい幸せで頭もいっぱい幸せだ。最高かよ。


「ん?」


 弟君の手が光速で離れる。

 声の主であるうてめはホラゲみたいな振り返り方でこっちを見ていた。

 いや、怖すぎるんだワ。

 本当に怖い時は声も出ないんだなあ。みつの


「今、何か、してた?」

「何も、してない」


 緊張と緩和。


 お? 今、なんかゾーンに入った気がする。


 お、なんだ。なんかすっごいワクワクしてるぞ。


「うてめぇ、配信やろうよ。アタシが弟君魅了してみせるわ」

「はあ? 累児はうてめが大好きなのよ。ツノの出る幕も枠もないわ」

「いや、枠はあれよ」


 そして、あったかい身体とひりつく空気を感じながら、アタシはうてめとの初オフコラボに望むのだった。

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