第5話

 シャスティルは現在、困っていた。

 元々着てた目立つ服装も権能で城下町の人間が着てる様な長袖長ズボンの服を創って着替えて目立たない様にした。


 何故か町に入る時も、入ってからも、物凄く周りの人間達から見られたが。


 町へ入る為の通行税も権能でお金の見た目を覗いて確認して創った偽造のお金を渡して町に入る事が出来た。


 何故か門の通行警備の人間が物凄く見てきて「創ったお金ってバレた!?」って内心物凄く焦ったが。


 けど、結局何か問題が起きる事はなく権能のお陰で町に入れて行動出来ていた。

 だが現在、シャスティルは権能で対処出来ない問題と直面してしまい背筋を冷や汗が滝のようにダラダラと流れ落ちていた。


 ヤバイヤバイヤバイ!!!

 どうしましょう!

 絶対絶命ですうぅぅぅーーーー!!


 内心焦りまくりの大慌てである。

 さて、権能で対処出来ないというシャスティルが現在直面している問題が何なのか。


「ほら、早く代金を払ってくれ」

「あ、え、えっと」


 ヤバイです!ヤバイです!!ヤバイです!!!

 神力が全く回復してなくて権能が使えないんですけどおぉーーー!!!??

 買い食いが楽しくて気付きませんでした!!!

 ど、どうすればああぁぁぁーーーーー!!!


 この女神、初めての人間の町での買い食いにテンションが高くなり過ぎたあまり権能でお金を創りまくり色々な出店で買い食いを楽しんだは良いものの権能が行使出来ない位神力が減っていたのだ。

 普通なら権能の行使で減ってる神力に直ぐに気付くものだが、余程買い食いが楽しくて気付かなかったのだろう。

 文字通り神力が足りなくて権能を行使出来ず、権能で対処出来ない問題に直面してしまったのだ。

 しかも、今シャスティルが居るのは出店ではなく歴とした料理を提供するお店。

 出店なら、本当は良くないが返品すれば解決出来たかもしれない。

 だが、今回の場合は出店ではない。

 メニューから料理を選び、頼み、既に料理は作られ、提供され、シャスティルが全て食べてしまった。

 つまり、お金は必ず払わなければいけない。


「お姉さん、代金は?」

「う、ぅぅ」


 けど、払うお金が無いし創れないのだ。

 絶対絶命。

 シャスティルは、考え無しに買い食いしまくった過去の自分を目茶苦茶恨んだ。

 けど、恨んだ所で問題は解決なんてしない。


「ごめんなさい!」

「え?」


 シャスティルは、素直に謝る事にした。


「お、お金、無いです」

「は?え?はあ!?」

「うぅぅ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 流石の店員の男性もお金が無いと返答がくるとは思わなかったのだろう。

 店員の男性は驚愕。

 シャスティルは、申し訳なさにただただ謝罪をし続けるのだった。


 ※※※※※


「早く洗う!そんなんじゃいつまで経っても終わらないよ!!」

「は、はいぃッ!!」

「返事じゃなくて手を動かしな!!」

「ごめんなさいぃ!!」


 はい。

 働いてます。

 厳しくて泣きそうです。

 結局、お金を払う手段が無かったので謝ったら店の奥に連れてかれて店主の女性の方に料理の代金分働く事で許してやると言われました。

 買い食いが楽しかったとは言え、考え無しにお金を創った結果がこれとは、自分の事ながら元管理者の女神として実に情けないです。

 それに、お金を偽創なんて今更ながら最低な行為でした。


 シャスティルは、目の前の大量の調理道具に食器の数々をひたすら洗い続けながら自らの行いを振り返えっていた。

 お引っ越し、初めての人間の町での買い食いと気分が高くなっていたとは言えはしゃぎ過ぎだったと。


 本当、反省しなきゃです。


 これからは、楽しくても冷静に後の事を考えて行動しようと反省した。


 それにしても、本当に神力の回復が遅いですね。

 二、三時間は経ったのに半分も回復してないです。

 やっぱり、私に信仰が捧げられてない世界では神力の回復は遅いんですね。

 一応自然回復はしますけど、これでは下手に権能の行使は出来ませんね。

 これからは気を付けましょう。

 ただ、今はそんな事より……


「全然終わりません~~!!」

「泣き言言わない!!ほれ!追加の皿だよ!じゃんじゃん洗いな!!」

「ひぃーーーー!!」


 神力の事なんて今はどうでも良くて、全く減る気配の無い洗い物に泣きたくなるシャスティルだった。


 そして、時間は進み日が傾き始めた夕方前。


「お疲れさん。あんたの食べた代金分は十分働いてくれたしもう良いよ」


 シャスティルは、洗い物を終え店の店主さんに許してもらえた。


「あ、はい。本当にすみませんでした」

「働いてくれたし気にしなくて良いよ。ただ、今後は気を付けなよ。今回は私の店だったから良かったものの下手したら難癖つけられて良いように使われる可能性だってあるからね。あんたの場合は、見た目が良いから特に気を付けなよ」

「ご忠告ありがとうございます」


 実際、店主の忠告は全て正しい。

 店主が女性で性格の良い人物だったから今回はシャスティルが食べたお肉と野菜の炒め物、野菜たっぷりスープの二つの料理の代金分を働いて許して貰えた。

 だが、人間全てが今回の店主の様に善人ではない。

 これがもし性格の悪い悪人な店主だった場合、金を払わないと警備隊に突き出すと脅されて言いなりになり奴隷の様に働かされた上に見た目が良いなら性的な命令をされる事も普通にあり得るのだ。

 それをシャスティルも理解出来たからキチンと店主の忠告を受け止め感謝を告げた。


「理解してるんなら良いよ。それじゃあね。次来るならちゃんとお金を持って食べに来るんだよ」

「はい!美味しかったので絶対にまた食べに来ますね!本当にありがとうございました!」


 頭を深く下げてお礼を言ったシャスティルは、店を後にした。


 お金を忘れる様な抜けた子だったけど、素直で良い子だったね。

 にしても、凄く綺麗な見た目だったけど、どっかの良い所の子か何かだったのかね?

 庶民の服装の割に皿洗いが初めてみたいだったしお忍びで町で遊んでたとか?

 けど、護衛っぽい人は居なかったし。


 店主は服装は兎も角、普通の庶民とは思えないシャスティルの見た目。

 庶民なら皿洗い程度出来るのに初めてなのか手間取ってた所。

 そんな、普通の庶民とは思えないシャスティルに店主は、「不思議な子だったね」と思い次料理を食べに来た時にでも少し話をしてみようかなと思い店の中へと戻っていった。


「あ、名前を聞いてなかったね。ま、それも今度会った時で良いか」


 ※※※※※


 困りました。


 シャスティルは、再び困っていた。


「お金が無いから、宿というのに止まれないです。どうしましょう」


 神力は回復してるからお金を創ろうと思えば創れる。

 だが、反省した今、お金を創ろうとは全く思えない。

 キチンと自らの手で稼ぐべきだと思っている。

 とは言え、このままでは暗い夜の町中で一夜を越さないといけなくなりそう。


 折角、健康体になって新しい世界にお引っ越ししたのに初日から野宿になるのは遠慮したいです。

 どうにかお金を稼ぐ方法は無い物でしょうか?


 シャスティルは、町の中をブラブラと目的無く歩きながら考え込むが何も良い案が思い付かない。


「おや、町の端まで来ちゃいましたか」


 気付けば城下町を囲う城壁まで歩いていた様で元来た方へと歩いて戻ろうかと思ったが、ふと何となく城壁の上が気になった。


「壁の上はどうなってるでしょうか?」


 単なる好奇心。

 別に何か特別な物が城壁上にある訳でもないがシャスティルは、一度気になってしまい元来た道に戻る気は失せて頭の中は上が気になる好奇心で一杯になった。

 そうなれば、やる事は一つ。

 シャスティルは、周りを確認して誰も居ないのを確かめると空を飛んで城壁の上へと降り立った。


「おお~~意外と高いですね~。見晴らしが良いです。町の中も結構見渡せますね。あ、あの料理のお店も見えます!店主さんと約束しましたしお金を稼いだら食べに行きましょう。あ、店主さんの名前聞いてなかったですね。今度聞きましょう。にしても、どうしましょうか…………ん?」


 さて、どうするかと悩みながら城下町を見渡してると、ふと気になるものが見えた。

 チラッと見た人気の少ない路地裏。

 そこに二人の男女が居るのが見えた。

 気になり男女の様子をよく見てみる。

 パッと見三十代位の男は何かを脇に抱えて走っている。

 そして、年老いた五十、六十代位に見える女の方は男に手を伸ばして必死に追い掛けて走ってるが、どう見ても男に追い付けそうにない。


「あれは、盗難事件ですかね」


 生命達の種族の中の一つである人間。

 その人間達の決めた法。

 それについてシャスティルは別に詳しい訳ではないが、お金を払って物を買う。

 人の物や売り物を勝手に盗んではいけない。

 人を殺めてはいけない。

 貴族、王族みたいな権力者の命令を無視してはいけない等の法は知っている。

 なので、今目撃したのも人の物を盗んではいけないの法に触れる犯罪だと分かった。


「このまま無視するのも何ですし助けてあげるとしましょうか」


 男と女の居る場所までは、目測で百mちょっとだろうか。

 少しだけ離れているが、それは女神であるシャスティルにとっては大した問題ではない。


「よっと」


 城壁上まで飛んだのと同じ様に。

 けれど、気付かれない為に一瞬で男女の真上まで一飛び。


「ぐぼぇ"ッ!?」


 そして、男を真上から落下する勢いで踏んづけ顔面を地面へと打ち付けた。


「ハァハァ、ゴホッ、い、一体、何が」

「大丈夫ですか?貴女がこの男に何かを盗まれたのか追いかけてるのが見えたので助けたのですが。……この鞄かな?どうぞ」


 シャスティルは、地面で白目を剥いて気絶してる男の脇元から鞄を拾い上げ年老いた女性へと鞄を手渡した。


「ゴホッゴホッ……ありがとうございます。歩いてたら、いきなりこの男に鞄を奪われてしまいまして。本当に、ありがとうございました。助かりました」

「いえいえ、それでは私はこれで。あ、そうだ。この男はどうしましょう」


 シャスティルは、立ち去ろうとしたが足元の男はどうしようかと思い年老いた女性へと聞いた。

 このまま放置で良いなら放置するが、この男は一応犯罪者だ。

 然るべき場所へと持っていくべきなら持っていかなければいけない。


「そうですね。警備隊の方々の居る詰所がありますのでそこへ連れていくのが良いでしょう。すみませんが、私は力が弱くて無理ですのでお願い出来ますか?」


 やっぱり、犯罪者なので然るべき場所へと持っていくみたいだ。

 ただ、女性の代わりに持っていくのは良いが一つ問題がある。


「良いですよ。ただ私、この町に来たばかりで詰所がどこか知りませんので案内程お願い出来ますか」

「構いませんよ。それでは、案内しますね」

「はい。お願いします」


 断られたら最悪男を引き摺って適当な人間に聞こうかと思ったが、案内してもらえるみたいだ。

 見ず知らずの適当な人間に話し掛ける必要が無くなったシャスティルは、女性に案内してもらい警備隊の詰所へと向かうのだった。


 ※※※※※


 男を詰所へ引渡したシャスティルはその後、宿屋で寛いでいた。

 何で宿屋に宿泊出来てるのかだが、詰所まで向かう道中で女性と話してた際にお金を稼ぐ手段に困ってると相談したのだが、何と宿泊費のお金をお礼だと言われ貰ったのだ。

 本当、冗談抜きに助かって何度も頭を下げて感謝した。


「良い事はするものですね~~お陰でこうして宿で泊まれてますし。あぁ~~、ベッドがふかふかですぅ~~気持ちいい~~」


 後ろに倒れふかふかしてるベッドの感触を楽しむ。

 こんな気持ちの良い感触を全身で楽しむのは久し振りだ。

 このままベッドで眠ってしまえばどれだけ最高だろうか。

 だが、このまま眠る訳にはいかない。

 まだ、大事な事が残っているのだ。


「よし!」


 シャスティルは勢いよくベッドから立ち上がる。


「行きましょう!お風呂に!」


 楽しみにしていたお風呂へと笑顔で向かうのだった。

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