第4話
「到着です!」
元の世界を捨て新たな世界へと転移してきたシャスティルは、目的地の城下町から程近い森の中へと無事転移した。
転移先が城下町でなく森なのは、下手に町の中に転移したら気を付けていても目撃される可能性があるから。
なので、多少距離はあろうとも目撃される可能性が限り無く低い森を転移先にしたのだ。
「やっぱり、自然は良いですね。死んだ大地と違って空気が美味しいですし景色も綺麗です」
自分の管理していた世界も別に全ての自然が死滅していた訳ではない。
だが、世界中の六割以上の自然が死んでおり自分が死に物狂いで世界中の魔力と自身が神力を変換した魔力で調整してギリギリ自然の完全な死滅を回避していたのだ。
そんな、死滅まで後一歩みたいな自然とは大違いでこの世界の自然は生命力に満ち溢れている。
「本当、素晴らしいです。…………さて、このまま暫く眺めていたい所ですが、やらないといけない事もありますし行きッ!」
次の瞬間、視界が白一色に染まり自分の身体が転移に似た感覚に襲われた。
この浮遊感に似た感覚、空間が操られ歪んでいる気配。
……なるほど。
間違いではなさそうです。
これは、転移だ。
今私は、何者かによって強制的に転移されてるみたいだ。
まぁ、何で強制転移されてるのかは何となく予想がつくが。
「予想通りですね」
転移が終わり視界に移る光景と周囲に感じるエネルギーの気配。
それらから、予想通り自分が何処へ強制転移されたのか理解したシャスティルは一安心した。
そんな一安心しているシャスティルに、転移した時から感じていた背後の気配が話し掛けてくる。
「貴様、何者だ。何故、管理者でもない神がこの世界へと無断で足を踏み入れている」
転移した時から予想はしていたが、案の定この世界の管理者の神に強制呼び出しをされてしまったみたいだ。
まぁ、事前に訪れる連絡もしてないし無断で無関係の神が自身が管理する世界の地に足を踏み入れていたら強制転移して呼び出すのは管理者として当然だろう。
私だって、元の世界で同じ事があったら背後の管理者と同じ対応をしていたに違いない。
「おい!聞いてるのか!」
あ、いけません。
内心の思考で背後の管理者への返答が遅れていました。
一先ず、挨拶をしましょう。
「こんにちは、名も知らぬ管理者さん。私はシャスティル。貴方と同じ管理者だった女神です」
挨拶は大事。
シャスティルは後ろへと身体を向けてニコリと笑顔を浮かべながらペコリとお辞儀をして挨拶と自己紹介をした。
これで、一先ず自分が敵対する様な相手ではないと理解して貰えたとは思うが。
「な!?シャスティル!?シャスティルって、あのシャスティル様ですか!!?」
「??」
はて?
私の事を何故か知ってるみたいですが、私の知り合いの管理者の神に彼の様な男神は居たでしょうか?
んん~~~~思い出せませんね。
私が管理者の仕事が忙しい過ぎた影響で忘れてるだけの可能性もありますが、少なくとも今思い出せる記憶の中には彼の様な男神は居ませんね。
いや、そもそも「あのシャスティル様」って言ってますし知り合いじゃない可能性も高いですね。
シャスティルは、目の前で自分の事を驚愕の表情で見ている男神へと自分と知り合いなのか尋ねようとしたが、それは出来なかった。
「な、何故貴女様の様な御方が私の管理する世界へと足を運ばれてるのですか!?事前に連絡さえして頂けたら私自らお出迎えに向かいましたものを!いや、そもそもシャスティル様がこの世界へ~~~~
何故か、勝手に語り出して話し掛ける隙が無くなったからだ。
語る口が止まる気配が無い。
今も「まさか、私の世界管理の仕事に何か不備が?」等と見当違いな事を考えて一人勝手に慌てている。
話し掛ける隙も無いし目の前の男神も落ち着くのに少し時間が掛かりそう。
なので、少し周りを観察してる事にした。
真っ白い空間ですね。
神力が満ちてますから目の前の男神が創った神域だとは思いますけど、特に生活感は感じられませんね。
他の空間に日常生活を送る空間があるんでしょうか?
まぁ、私が気にする様な事ではありませんね。
それにしても、本当にこの男神誰ですかね?
茶色の長髪に緑の瞳をした長身の若そうな男神。
管理者の仕事に黙殺されるまでは、他の神との交流もそこそこあったので自分が本当に忘れてるだけで会って会話した事があるのかもしれない。
知り合いなのか、単に目の前の名も知らぬ男神が自分の事を知ってるだけなのか。
果たして、どちらなのだろうか?
「……いや、特に世界のバランスに異常はありません。だとしたら、別の何かに問題が?ですが、他に異常がある箇所は最近は無かった筈。一体何が」
「あの」
「は、はい!何でしょうか!」
いつまでも一人で考え込まれていては自分の用事が遅れてしまう。
そもそもとして、目の前の男神は自分が訪れている事に大して何故か過大に驚いてるが、私は勝手にお引っ越ししてきただけだ。
目の前の男神が、何かやらかしたのでは?と考え込むだけ時間の無断でしかない。
いい加減、私も話を進めたいので自分から話し掛けて男神の思考を中断させる事にした。
「何か勘違いされてますが、別に私は貴方の仕事に文句を言いに訪れた訳ではないですよ?」
「だったら、一体何をしに来られたのですか?」
「引っ越しです」
漸く本題を告げる事が出来た私は、笑顔で引っ越しをしに来たと告げた。
「は?……今、何と?」
はて?
上手く聞き取れなかったみたいです。
見た目は若そうなのに、見た目によらず歳をとってて耳が悪いのでしょうか?
「引っ越しです!」
今度は聞こえやすい様に少し声を大きくしてシャスティルは、男神へと引っ越しに来たと告げた。
「聞き間違いじゃなかった」
それを聞いた男神は、何故か片手で顔を覆って上を見上げ始めた。
何か変な事を言っただろうか?とシャスティルは自分の発言を振り返るが、特に変な事は言ってはおらず首を傾げる。
そんなシャスティルに男神は、眉間を押さえながら理由を聞いてきた。
「どういう事ですか?シャスティル様も管理者としての仕事がある筈ですよね?なのに、何故私の管理する世界に引っ越し等してくるのですか?世界の管理者としての仕事はどうしたのですか?」
男神の質問は当然だ。
基本的に神は世界の管理者としての使命がある。
中には世界の管理をするだけの力が無い神もいるが、大体は世界を管理する神の下に付いて働いてるのが殆んどだ。
なので、一つの世界を管理する力を持つ筈の私が管理者としての仕事をせずに全く関係ない筈の世界に引っ越しをしに来たと告げられ困惑しているのだろう。
「力を失ってもう管理者の仕事が出来ませんからね。なので、心機一転引っ越ししてのんびりしようかと思いまして」
「は?力を失った?……いや、確かにシャスティル様から感じる力が弱い。一体何故」
「実はですね」
名も知らぬ男神に私の身に何があったのか、これまでの経緯を話した。
人類が魔道具を発明した事。
世界中に広がり世界の魔力が減少した事。
人類に警告しても止まらなかった事。
何とか死に物狂いで世界の破滅を送らせてきたが勇者に邪神扱いされて肉体を殺された事。
肉体を殺された武器が神格を破壊する能力を秘めておりその影響で弱体化した事。
それを聞き終えた名も知らぬ男神は再び顔を覆って大きくため息を吐いた。
「愚かな。何と愚かな事をしているんだ人類は。自らの愚行を認めず神へと歯向かう等と」
「そう言う訳です。神とは言え不眠不休で肉体的にも精神的にも消耗してたので殆んど抵抗出来ずに簡単に殺されてしまいました。お陰で、今は下級神位の力しかないフリーな野良神ですよ。ハハハ…………うぅ、くそぉ」
「本当、何と言えば良いのか」
失った力に再び泣きそうになってる私に男神は、何とも言えない表情でそう言ってきた。
男神は、感じる力からして中級神。
神格等の神としての力を高めるのがどれだけ大変なのか中級神へと至るまでの経験から理解出来るからこそ掛ける言葉が見付からないのだろう。
「……まぁ、もう過ぎた事は良いんです。それより、引っ越しですよ引っ越し。のんびり過ごしたいので許可下さい」
「えぇ~」
男神から「いや、それで良いのかよ」とでも言いたげな困惑した眼差しで見られるが、失った物や過ぎた出来事を何時までも一々気にしていては元の世界で管理者なんて百年近く不眠不休で続けられていない。
「駄目なんですか?」
「力を失ったとは言え、神なのに変わりはないので流石に地上で生活するのを許可するのは」
旗色が悪そう。
このままでは、折角の引っ越しが駄目になってしまう。
シャスティルは、何とかして許可をもぎ取るべく説得を試みた。
「別に地上の生命に危害なんて殆んど加えません!加えても生きる上で必要な分しか奪ったりしませんから!そもそも、私は今貴方より弱いんですから邪神みたいに暴れる訳ないじゃないですか!」
「それは、確かにそうですが」
「ですよね!だったら問題無いのですよね!」
「まぁ……確かに、シャスティル様に限って生命に危害を加える事は無いとは思いますが」
「必要以上には加えません!なので、良いですよね!」
「……分かりました。許可します」
「やったーーー!!」
引っ越し許可がおりた。
その事に、シャスティルは心から喜び両手を挙げて喜んだ。
「ありがとうございます!それじゃあ、私は引っ越しする為にやる事があるので行きますね」
「はい。引っ越し、楽しんで下さい」
「はい!それでは……あ」
転移して神域を去ろうとしたシャスティルは、ふと初めに気になっていた事を聞いていなかったと思い出し去る前に聞いておく事にした。
「そういえば、何で私の事を知っていたんですか?お知り合いでしたっけ?」
気になっていたのに、危うく聞く前に転移してしまう所だったので思い出せて良かった。
男神は、シャスティルの質問に対して苦笑いを浮かべると答えてくれた。
「知り合いではありません。初対面ですよ。単に私がシャスティル様の事を知っているだけです」
「そうでしたか」
単に自分の事を知ってるだけだったみたいだ。
知り合いで私が忘れてた訳ではなかったみたいなので良かった。
もしそうだったら、かなり気まずい雰囲気になっただろうから。
「それでは、今度こそ行きますね。お仕事頑張って下さい」
「はい。機会があればまたお会いしましょう」
聞きたい事も聞けたので、シャスティルは準備していた転移を発動して今度こそ神域を去っていった。
「まさか、あのシャスティル様がこの世界で過ごす事になるとは。まぁ、シャスティル様ならば、悪い様にはならないだろう。…………ん?この気配は、まさか」
・
・
・
「さて、それじゃあ町へ出発です!」
元居た地上の森へと転移したシャスティルは、引っ越し準備の為にも町へと向けて元気に出発するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます