第51話 それでも僕は森で暮らします
前回ミディーノの街を訪れてから3ヶ月近くが過ぎた頃、リンドは久しぶりに街を訪れた。アイテムボックスの中には沢山の杖が入っている。そして肩にはミーが乗っていた。
「街も落ち着いているわね」
ギルドカードを見せて城門をくぐったところで耳元でミーが言った。リンドにもわかる。街が落ち着いているという雰囲気が伝わってくる。
リンドはまずは冒険者ギルドに顔を出してクエスト用紙を1枚とるとそれを持ってカウンターに近づいていった。
「随分と久しぶりですよ、リンドさん」
顔見知りの受付嬢のマリーの言葉にごめんごめんと言ってクエストで指定されているランクの魔石を取り出した。
「相変わらず沢山ありますね」
「これくらいあれば十分だろう?」
リンドが出した魔石の中にはSランクのものもいくつか混じっていた。それを見つけたマリー。
「これもリンドさんが単独で?」
「そう。森で絡まれてきちゃってね。必死で倒したよ」
実際は鍛錬で倒したものだが敢えてそう言って注目を浴びない様にするリンド。肩に乗っているミーはやりとりを聞きながらももうリンドの性格を知ってるので黙っていた。
「そうですか。あまり無茶はしないでくださいね」
マリーの言葉にわかりましたと言って受け付けのそばにある掲示板を見るとキースらのパーティがSランクに昇格した通知が貼ってあるのを見つける。
「無事に昇格できたんだな」
独り言を言ってギルドを出たリンドは肩にミーを乗せたままギルドを出て通りを歩いてトムの武器屋に顔を出した。
「ようやく落ち着いたぞ。もう大丈夫だ」
顔を見るなりそう話しかけてきたトム。
「迷惑をかけたんじゃないかな?」
「全然。こっちに実損はなかったしな。何も問題ない」
そう言って持ってきてくれたんだろうと言う。店の奥でリンドがアイテムボックスから杖を取り出していくと無作為に何本かチェックして顔を上げた。
「これでしばらくは持つぞ。それにしてもいい仕上がりになってる」
満足そうな表情のトム。代金を受け取ると今度はキースの拠点の一軒家に顔を出した。ちょうど1階にいたキースがリンドを見ると家の中に招き入れると同時に2階にいるメンバーに声をかけ全員が降りてきた。
「久しぶりに街に来たんだけど無事にSランクに昇格したんだね。おめでとう」
「ありがとう。これからがまた大変だけどな。やり甲斐があるよ」
リンドの言葉にそう言ったリーダーのキース。聞くとSランクになったというニュースを聞いて王都のマーガレットらからも連絡が来たらしい。
「Sランク昇格祝いが遅くなったけど」
そう言ってリンドはアイテムボックスから新しい僧侶の杖と魔道士の杖、そして弓を取り出したいずれも2セットずつある。
「キースとコリーには装備品じゃなくてこれな」
それは50センチ程の大きさの木彫りの動物の彫り物だ。リンドが時間を見つけて風の魔法で丁寧に削った鹿と熊の2体の動物の置物。杖よりも濃い茶色の樹脂を塗ってある。
「こりゃ見事だな。才能あるな、リンド」
受け取ったコリーが言う。私もそっちがいいなと杖をもらったばかりのジェシカが笑いながら言った。
「こんなんでよければまた作って持ってくるよ」
お祝いを渡した後は狩人のクリスティが用意してくれたジュースを飲んで皆で雑談をする。黒猫のミーはリンドの腹の上でゴロンと横になっていた。
「Sランクになっても鍛錬は必要だからまたリンドの森の家にお邪魔すると思うけど」
「いつでも歓迎だよ。来たくなったら来てくれていいから」
1時間ほど雑談をしてまたなと家を出たリンドは市内で日用品を買い付け、街の教会に寄付をすると城門から外に出て自分の家に戻るべく街道を歩いていく。
「本当にマイペースだよね」
周囲に人がいなくなったところで肩に乗っていたミーが言った。
「今のこの生活が1番いいよ。僕に合っている」
「リンドが気に入ってくれてるのならいいんだけどね」
リンドはその後も森の家で1人で暮らし、たまに街に出ては杖を卸し、仲間と話をして買い物をして帰るという生活を続ける。
家にはキースが来たりマーガレットが来たりと知り合いが鍛錬を兼ねて訪ねてくれ、森の中で暮らしていても寂しいと思う事がないリンドだった。
リンドの自宅は少しずつ増築されていき、今では別棟には10室の部屋があり全員が個室で寝泊まりできる程にまで大きくなっていた。
ケット・シーのミーは相変わらずフラッといなくなったりしているがそれも彼らの日常だ。
今日もケット・シーとリンドは森の奥で幸せな日々を過ごしている。
【完】
最後までお読みいただきありがとうございました。
冒険者の何気ない日常を書いて見たかったのです。上を目指すのではなく
スローライフを目的とする冒険者がいてもいいだろうなと。
花屋敷
冒険者になってケット・シーと森の奥で暮らしています 花屋敷 @Semboku
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